前例なきプロジェクトファイナンスに挑み、バイオガス発電事業を実現。"悲願成就"の舞台裏

2020年夏、東京都羽村市に「羽村バイオガス発電所」が誕生した。関東一円から食品廃棄物を受け入れ、発酵させて取り出したバイオガスで電気をつくる ──食品リサイクルの推進や化石燃料の削減に加え、エネルギーの産出や雇用創出といったSDGsの実現にも寄与するプラントだ。しかし完成までには幾多の障壁を乗り越えなければならなかった。事業の立案者であり、施設の運営を担うアーキアエナジー株式会社の代表取締役・植田徹也氏と共に、二人三脚でその壁に挑み続けたのが、三井住友ファイナンス&リース(SMFL)の根本誠太郎だった。プロジェクトの全貌と実現に至る道のりを、3回に分けて紹介する。

切実な「ごみ問題」。高まる中間処理施設への期待

アーキアエナジー株式会社 代表取締役
植田徹也氏

アーキアエナジーは、2015年に創業した、発電事業を手掛けるスタートアップ企業だ。「羽村市のこのプラント用地を取得したのは2016年4月ですが、プロジェクトの構想自体はそれ以前、当社の創業時まで遡ります」。アーキアエナジー社長の植田徹也氏がプロジェクト立ち上げの経緯を話す。

「周知のように、食品廃棄物のリサイクル率向上は喫緊の社会課題です。加えて、近年は全国的にもごみ焼却施設の老朽化が進み、建て替えが必要な時期が来ています。東京都は人口密度が高いことなどから建て替え用地を見つけるのが困難なので、今ある焼却施設をいかに延命させるかが課題になっていました」

施設の延命に有効なのが、食品廃棄物を分離して処理する方法だ。食品廃棄物は塩分を含有していることが多く、その塩分で焼却炉が傷みやすい。また、水分含有量も多いため、燃やすには補助燃料を余分に投入しなくてはいけない。そのため可燃ごみから食品廃棄物を取り除いて処理できれば、焼却炉の損傷が抑えられて稼働寿命を延ばせる。結果として、化石燃料を追加する必要も生じず、CO2の排出抑制にもつながる。

しかし現状では、多くの地域で食品工場や飲食店から出る事業系の食品廃棄物も、家庭から出る食べ残しも、最終的に他の可燃ごみと一緖に焼却処分されているのが実態だ。「だからこそ、可燃ごみから食品廃棄物を抜き取って処分しやすいように減容化する『中間処理』の施設を東京近郊に建てることは、廃棄物処理に関わる事業者にとっても、多摩地区の自治体にとっても、いわば悲願になっていました」(植田氏)

同社が構想していたのは、「中間処理」の機能に加え、都市型バイオガス発電所の機能も備えた施設。完成すれば食品廃棄物をエネルギーとして活用できる上、食品ロス削減にも、再生可能エネルギーの普及にも貢献できる。そんな構想を温めながら用地を探すなか、縁あって取得に踏み切ったのが、東京西郊に位置する羽村市のこの土地だった。

羽村バイオガス発電所が行う「食品廃棄物リサイクルのフロー」

バイオガス発電は、食品廃棄物を発酵させて生じるバイオガスで発電機を動かし、電力をつくる仕組み。産生された電気は、電力会社を経由して供給先に送られる

難航する資金調達。プロファイ型リースに光明

用地取得後もクリアすべきことは続出した。その大きな1つが、地域住民から理解を得ることだった。植田氏が振り返る。「羽村市には、3市1町で構成する西多摩衛生組合のごみ焼却システムが置かれていました。そのため、行政のみならず地域住民の方々の多くが、ごみ処理に高い関心を持たれていたようです。当社の計画を合理的に判断なさって“そういう事業は必要だ”とおっしゃってくださる方たちもおられたし、一方、臭気に対してご懸念をお持ちの方々も多く、反対の声も寄せられました。これはどの地域でも、皆さまがご心配なさる点です」

「もちろん、当社の施設では臭気対策を徹底して行っています。実際、羽村市のプロジェクトと並行して進めていた牧之原バイオガスプラント(静岡県)では、2017年3月に竣工・稼働すると、『臭気をほとんど感じない』と驚かれました。その実績も踏まえ、羽村市でも丁寧に地域住民の皆さまへご説明しました」(植田氏)。話し合いには、たっぷり1年という時間をかけたという。「地元の方々から、しっかりと同意をいただいて進めることが大切。そうでないと、真に地域に根差した施設にはなりませんから」と植田氏は強調する。

だがその傍らで、計画は最大の壁に直面していた。資金調達の難航だ。アーキアエナジーはいわゆるスタートアップ企業。2017年に「牧之原バイオガス発電所」を静岡県で始動させたが、それはこの後の話。羽村プロジェクトが動き出した2016年当時、形として世に示せる実績はまだ何もなかった。社の規模も小さい。役員3名、従業員2名という少数精鋭だ。当然のことながら、融資を受けるのは簡単ではなかった。

回想する植田氏の言葉に、窮地からの出口を探しあぐねたであろう当時の苦しさがにじむ。「羽村での総事業費は35億円。だが、なかなかファイナンスがつかない。事業に賛同してくれる企業からエクイティ出資として13億円弱を調達できましたが、残る22億円 ── 土台となる融資をしてくれる企業 ── が見つかりません。そこで、企業の与信に頼らない手法として、プロジェクトファイナンスならどうかと考えたのです」

プロジェクトファイナンス、通称「プロファイ」とは、その事業で得られる収益のみから資金を回収する仕組みだ。詳細は次回に譲るが、収益が出なければ回収不能に陥るリスクを伴う。「羽村バイオガス発電所が周囲からの期待を集め、収益が見込めることは、多くの金融機関が認めてくださった。しかし実際に引き受ける企業はなかなか現れませんでした」(植田氏)

なぜか。その理由を植田氏は2つ挙げる。1つは食品廃棄物を原料としたバイオガス発電所にプロファイを使った先例がなかったこと。もう1つは、バイオガスの事業には、たとえば入ってくる廃棄物の量すら予測しにくいなど、運営上不確定な要素が多々あること。いくつもの金融機関が二の足を踏み、挙げかけた手を下ろした。その中で1社だけ、はっきりと挙手し、その手を下げなかった企業があった。それが、SMFLだった。

羽村バイオガス発電所。1,500世帯以上の電力需要を賄う

敷地面積は3,321㎡で、廃棄物処理量は168t/日。一般家庭約1,550世帯の年間電力消費量に相当する、約850万kWh/年の発電量を持つ。CO2削減効果は3,885t/年に相当。写真は左から、バイオガス発電所全景、メタン発酵槽、破袋分離機への原料投入する場面

※ 1tのCO2は、25mプール(25m×10m×2m)1杯の体積に相当

「SDGs経営を掲げる我が社が行うべき事業」。前例なきプロジェクトに挑む

SMFLで本プロジェクトを担当したのは、根本誠太郎。同社環境エネルギー開発部所属で、手を下ろさなかった “ 張本人 ” である。当時の思いを、根本はこう語る。「ごみ問題、エネルギー問題、気候変動など、社会が直面しているいくつもの課題の解決に、このプロジェクトは貢献できます。そして地元に雇用を創出することもできる。まさにSDGs達成に寄与する、大きな意義を持つ事業だと思ったのです」

SMFL 環境エネルギー開発部 部長補佐
根本誠太郎

根本には直感があった。「何よりも、ごみをエネルギーに変えられるのです。植田社長の説明を伺った瞬間に、 “ すばらしい。絶対うちがやるべきだ ” と確信しました」。ここから奮闘が始まった。「とにかく勉強しました。植田社長から何回も説明を受け、現場の話を聞き、ようやく自分なりに消化できたところで社内の審査部門に稟議を上げました」

SMFLは2009年に環境事業部を創設し、その後2014年には再生可能エネルギー発電事業の事業性評価ができる部隊が独立。グループの理念体系である「SMFL Way」をもとに業務を推進し、まさに本プロジェクトのような、循環型社会の実現や脱炭素に資するプロジェクトに積極的に取り組んできた。しかし「羽村バイオガス発電所」は、リース対象となる設備が22億円相当と巨額だ。当然のことながら、1人の直感や熱意だけで実行できるファイナンスではない。

以降、根本は足掛け3年にわたり、粘り強い調査と準備を続けた。その過程は、小規模事業者が大きな社会貢献に名乗りを上げるチャンスを広げるための「挑戦」でもあった。2020年3月、ついにリースが決定。事業にファイナンスという血液が通った。

アーキアエナジーの植田氏(写真左)は「万全の臭気対策で、地域の方々からも『臭気については気にならない』と好評です」と胸を張る。後ろに見える円柱形の白い建屋が、食品廃棄物を発酵させるタンク

※ 新型コロナウイルスをはじめとする感染症予防対策を取った上で、取材を実施しております。

(内容、肩書は2021年11月時点)

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