ファイナンスから自社開発も視野に入れた「水力発電事業」。「現場力」注入の2社協業でSMFLグループが挑む脱炭素戦略
水力発電。近代日本の成長を支えたこのエネルギーが、今、新たな脚光を浴びている。現在、日本の電源構成に占める水力発電の割合はわずか約7.6%(2022年度)。だが政府が定めた「第6次エネルギー基本計画」(2021年10月)では、この数字を2030年度までに11%へと引き上げる目標が掲げられた。「なぜ今さら?」と感じることもあるだろう。実は「水力」には、現代にこそ生かされるべきポテンシャルと魅力が、秘められているのだ。その可能性に着目したのが、水力発電所建設コンサルティング企業の「みらい・パートナーズ」と、太陽光、風力、バイオマスの発電事業者であり、水力の分野でも小水力発電事業者へのプロジェクトファイナンスや発電事業を展開している「SMFLみらいパートナーズ」だ。両者は今、協業して水力発電事業を推進している。水力発電に注目した背景と両者の取り組みから見ていこう。
今だからこそ見直される「水力発電」
田中 晃憲
北海道・日高地方。自然の宝庫・日高山脈に源を発する
なぜ今、「水力」なのだろうか。再生可能エネルギーといえば、すでに全国各地に行き渡っている太陽光発電が想起される。
「水力はクリーンなベースロード電源※1として脱炭素社会に貢献する付加価値が高い電源です」──そう「水の強み」を説くのは、SMFLみらいパートナーズ 環境エネルギー開発部の田中晃憲である。
「確かに、再エネの主力は太陽光です。実際、当社が扱う再エネの約8割は太陽光発電です。ただし太陽光発電は天候や昼夜による発電量の変動が大きく、安定した電源にはなりにくいという側面があります。対して水力は、昼夜を問わず、晴れても雨が降っても天候にかかわらず発電でき、変動リスクが少ないため、系統の安定した運用につながる点も長所となります。また、水力発電設備の大半は国産のため、国際情勢がサプライチェーンに影響する地政学的リスクも少なく、安全保障の観点でも評価されています。もちろんCO2も排出しません。そこで、太陽光に続く新たな再エネとして、水力発電にあらためて着目しました」(田中晃憲)
田中 克佳 氏
同じ着眼点を持っていた再エネ事業関係者が、もう一人いた。みらい・パートナーズの代表取締役 田中克佳氏だ。同氏が着眼し、それを確信したのは、前述のプレスリリースからさかのぼることおよそ12年、2011年3月のことである。
田中克佳社長が振り返る。「福島第一原子力発電所の事故が起きた時、再エネの導入が急加速する、との予測がすぐさま頭に浮かびました」。事故のほんの2カ月前、田中克佳社長は水力発電事業に打って出るべく、みらい・パートナーズを立ち上げたばかりだった。
「それまで原子力を除くほとんどのエネルギーに携わってきた」と田中克佳社長は自らのキャリアを語る。起業する前は国内の大手総合商社に勤務し、産油国向けのプロジェクトファイナンス、国内の電力会社相手の発電用化石燃料事業、さらに海外現地法人では国際エネルギープロジェクトや、分散型電源・スマートグリッドなどへの投資事業に関わってきた。東京の本社に戻ってからは、事業開発マネージャーとして欧米のクリーンエネルギーファンドへの投資と運用、地方公営企業が推進する水力発電の民営化業務にも従事した。その田中克佳社長が「やはり、これだ」とたどり着いたのが、水力発電だった。
「ベースロード電源には発電量の安定性が求められます。太陽光も風力もCO2は出さないものの、安定性を考えると自然条件に左右される度合いが高くなる。水力にはその心配がない。そもそも日本は水資源に恵まれた国で、水力発電の導入ポテンシャル(包蔵水力)は世界5位。しかも資源は全て国内で賄えるので、地理的・政治的なリスクもほぼありません。これからの時代、クリーンかつ安全な電源となり得る最有力候補はやはり水力発電だ、と予測し、事業会社を立ち上げました」(田中克佳氏)
その矢先、「3.11」(東日本大震災)が日本を襲った。2011年当時、日本のベースロード電源は火力と原子力であり、原子力はCO2を排出しないクリーンな電源としての期待もあったが、福島の原発は停止した。
田中克佳社長が言う。「3.11を目の当たりにして、水力発電しかないと感じたのです」。予測は確信へと変わり、その確信に基づく新たなビジネスプランを、田中克佳社長は2週間で書き上げた。
- ※1「ベース電源」と同義。発電コストが低く、かつ昼夜などの時間帯を問わずに継続的に安定して稼働する電源
「水」が取り持ったパートナーシップ
一方、こちらも「水力」のポテンシャルにかねて注目していたSMFLグループ。水力発電事業への進出を見据え、2018年に水力発電設備のリース事業に乗り出した。まず着手したのは、鳥取県での小水力発電所向けの「設備リース」だった。そこで得た知見を生かし、事業から生み出されるキャッシュフローに依拠した「小水力発電プロジェクトファイナンス」を秋田県で実行するなど、事業への「目利き力」を着実に高めていった。
水力発電関連ビジネスで「リース」「プロジェクトファイナンス」を経験したSMFLグループ。次の展開を見据えた当時の胸の内を田中晃憲がこう明かす。「いつか自社で水力発電事業を手掛けたい。それがSMFLみらいパートナーズの宿願でした。事業の目利き力は養われたものの、自社で事業を開発・運営する知見が当社には不足しており、自社単独での事業展開にハードルの高さを感じていました」(田中晃憲)
パートナーとの連携を探るなか、SMFLみらいパートナーズがみらい・パートナーズと出合ったのは、2019年。当時、すでにみらい・パートナーズは、各地の水力発電所を改修するエンジニアリング事業を展開していたが、事業拡大のために金融機能を持つ事業パートナーを求めていた。事業の開発・運営の知見を得て金融から事業へのシフトを目指すSMFLみらいパートナーズにとって、またとない機会だった。両者の機能を相互に補完し、水力発電のベースロード電源としての役割を拡大させたいという互いの志に共鳴したという。
協議を経てその年の4月、SMFLみらいパートナーズ、三井住友銀行などの3社が出資し、みらい・パートナーズ(当時の社名はみらいエネルギー・パートナーズ)の株式を取得。みらい・パートナーズの水力ファンド事業に共同で参画することも決定した。後にSMFLみらいパートナーズの水力発電ロードマップの大きなターニングポイントとなる。
- ※2企業の信用力を基に行う資金調達
- ※3「リミテッド・パートナーシップ」の略称で、出資額を限度として責任を負う(有限責任組合による)出資形態
- ※4特定の事業(プロジェクト)に属するキャッシュフローを裏付けとして行う資金調達
水力発電設備保有会社を買収。協業態勢が本格化
新たなビジネスプランを練り上げた田中克佳社長が、みらい・パートナーズの仕事としてまず狙いを絞ったのは、「改修」「エンジニアリング」の事業だった。そこにはこんな理由があったという。
「水力発電所の建造は明治初期に始まりました。その歴史は古く、今では開発され尽くした感があります。環境を壊すことなく新たに開発できる場所は、ほとんど残っていません。この事実は半面で、全国各所の既存水力発電所で老朽化がかなり進んでいることを意味します。発電量を維持するための設備改修のニーズは、それだけ大きいのです。みらい・パートナーズがまず、水力発電所のエンジニアリングにフォーカスしたのは、改修を一貫体制で行えるエンジニアリングが切実に求められている、と気付いたからでした」(田中克佳氏)
同社のエンジニアリングを代表するのが、北海道・日高地方の水力発電所「幌満川第二発電所」と「幌満川第三発電所」だ。冒頭で紹介した通り、いずれも運転開始から70~80年を経た施設である。
みらい・パートナーズは2013年に両発電所の設備アセットマネジメントに着手した。約5年に及ぶ改修工事のすえ、設備はそれぞれ2017年と2019年に全面更新。2022年12月には、SMFLみらいパートナーズが両発電所の設備保有会社を買収し、自社発電事業に参画。みらい・パートナーズが継続してアセットマネジメントを行っている。固定価格買取制度(FIT)を活用して売電し、計画発電量は合計で5,600万kWh(年)、年間約2万5,000トンのCO2排出削減効果が期待できるという。
新たな段階へと踏み出した両者の協業のきっかけとなった2019年、SMFLみらいパートナーズの田中晃憲は自身に訪れた転機をこう振り返る。
「実は2019年、みらい・パートナーズへの出資が決まったのと同時に、私は同社への出向の話を受けました。出向を決意した理由は、水力発電の知見を自身で深め、当社の水力発電事業の拡大に貢献したい、との思いが芽生えたからでした」(田中晃憲)。出向期間は2019年8月から2021年12月までの2年5カ月に及び、その間、田中晃憲は水力発電事業の実務を学んだ。それは、SMFLグループが「金融」の枠を超えて水力発電事業へと踏み出すための欠かされざる助走でもあった。後編では次なる両者のチャレンジを紹介する。
(内容、肩書は2024年3月時点)
北海道の水力発電所「幌満川第二発電所」と「幌満川第三発電所」概要
発電所名 | 幌満川第二発電所 | 幌満川第三発電所 |
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特別目的会社 法人名 |
合同会社みらいハイドロ リパワーリングⅠ |
合同会社みらいハイドロ リパワーリングⅡ |
事業用地 | 北海道様似郡様似町幌満 | 同左 |
発電方式 | 水路式 | ダム水路式 |
発電容量 | 4,406kw | 6,221kw |
発電所運転開始年月 | 1940年11月 | 1954年9月 |
本設備概要 | 取水設備(機械部分)、除塵機、 水車発電機(基礎含む)、発電側 変電設備など |
同左 |
本設備運転開始年月 | 2017年11月 | 2019年2月 |
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SMFLみらいパートナーズ株式会社 環境エネルギー開発部
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