期待と注目を集める台湾の「漁電共生型」太陽光発電事業 SMFLグループ・住友商事らが強力にサポート

三井住友ファイナンス&リース(SMFL)の戦略子会社 SMFLみらいパートナーズは、かねてより注力してきた再生可能エネルギー発電事業で、新たに台湾での展開を開始した。その第1弾として出資・参画しているのが、台湾独自のビジネスモデルとして展開されている「漁電共生型」太陽光発電事業だ。2024年3月、同プロジェクトの1期工事が完工し、現在は2期工事が進んでいる。プロジェクトのパートナーは、この分野の最大手である向陽優能電力股份有限公司(Sunny Rich)。後編では、同社の歩みと強み、台湾の官民がこの事業に寄せる期待にも触れながら、「地域創生」にもつながる漁電共生型太陽光発電プロジェクトのユニークな挑戦を紹介する。
各社の連携がプロジェクト推進を円滑化

陳 貴光氏
台湾で推進されている「漁電共生型」太陽光発電事業。SMFLみらいパートナーズがタッグを組むSunny Richは、この分野の最大手だ。Sunny Richが太陽光発電事業に乗り出したのは2009年。発電設備の設計から調達、建設、運営、保守までを一貫して手掛ける。
SMFLみらいパートナーズが出資・参画し台湾南西部で進められている漁電共生型太陽光発電設備が全て完工すれば、漁電共生として最大規模の発電容量(242MW)となる。現地台湾でこのプロジェクトに携わるスタッフの数は、太陽光発電関連とエビ養殖関連でそれぞれ約100人。養殖関連約100人のうち、現場の実務に関わる50~60人の多くを若年層が占めており、今後の「地域創生」への寄与にも期待が寄せられている。
養殖したエビを引き揚げる様子

Sunny Richとのパートナーシップが成立した要因を、SMFLみらいパートナーズ 環境エネルギー開発部 グローバル推進室長の宮田亘は次のように分析する。「まず、①両社の経営理念が一致したこと。次いで、②迅速に出資を決断した当社のスピード感。さらに、③台湾住友商事を含むグループとしての総合力。この3点だったと考えています」(宮田)
Sunny Richの陳貴光董事長は、チームアップ後の各社連携も推進力になったと語る。「漁電共生、とりわけ “ エビ養殖 ” のノウハウに関しては、当社には10年以上の経験と、積み重ねてきた実証実験の成果があり、特に難しさはありませんでした。ただ、資金調達についてはSMFLみらいパートナーズさんによるサポートに、また、台湾住友商事さんの機動的な対応や各種助言に、それぞれ大いに助けていただきました」(陳董事長)
「幅広い金融機能を持つ事業会社」の強みを掲げるSMFLみらいパートナーズは、18の銀行から、計158億元(約700億円)を集めた今回の資金調達を、全面的にサポート。さらに台湾住友商事が、建設工事に関するモニタリングや、株主とのコミュニケーション支援を行うなど各社が強みを生かしながら事業は推し進められた。陳董事長も、「出資に加わってくれた新光鋼鐵さんを含んだ連携が、事業を順調に進めてこられた最大の要因です」と語る。
被災の原体験を胸に、「再生」を目指す新機軸の事業をスタート
Sunny Richの創業者である陳董事長は、同社がこれまで漁電共生型太陽光発電事業に取り組んできた第一の目的として、「地域創生」を掲げている。実はこれには理由がある。陳董事長自らが体験した自然災害の痛切な記憶だ。
「台湾は日本と同様に台風や地震の多い国です。15年ほど前、私の故郷である屏東(ピンドン)県を台風が襲い、大規模な洪水が発生しました。多くの農民が甚大な被害を受け、農業を営んでいた私の実家も大きなダメージを被ったのです。自分が生きている間にこの地元を再生し、全住民が安心して生き生きと働ける地域社会を創出したい──惨状を目の当たりにして、そう強く心に決めたのです」(陳董事長)
陳董事長はまず、台風や寒波などの自然災害から農作物を守る営農方法として、太陽光発電を行いながら温室内で作物を育てる「農電共生型」太陽光発電の実証実験に取りかかった。当初は「台湾の作物を温室に依存して育てるのは困難」という見方もあったものの、実証実験を重ねたすえ、それが可能であることの証明に成功。次いで、「漁電共生型」太陽光発電の取り組み実験にも着手。2017年には、ハマグリやエビを養殖する漁電共生型太陽光発電の実証実験を成功させた。その成果を基に、2019年、事業として本格的に開始した。
発想を転換し、工夫を重ね、技術を駆使。「災害に打ち勝つ」再生への着実な歩み
漁電共生型太陽光発電が現在推し進められている地域は、台湾の南西部。かつてエビ養殖の一大産地となっていた一帯だ。しかし近年は衰勢が目立っていた。そのような地域での漁電共生型太陽光発電の事業化に取り組む上で、陳董事長は次の3つの施策を貫いた。
- 以前養殖池があった土地を漁民から借り受け、そこに、完全室内密閉型のエビ養殖槽を新たに設ける
- 新設した養殖槽で漁民たちにエビを養殖してもらう
- 人工知能(AI)やITを駆使し、エビ養殖の自動化を図る
この地域でのエビ養殖は従来、屋外の養殖池で行われてきた。陳董事長はその方法から脱却し、思い切って養殖槽を完全室内密閉型に変更したのだ。これが、台風や寒波から守り、さらに外部からの病原体侵入などでエビが死滅するリスクを大幅に低減させた。そうすることで、漁民たちは土地の賃料とエビの販売収入の両方を安定的に得ることが可能になった。ITやAIの活用により、作業負担も軽減された。
陳董事長は言う。「養殖槽は万が一のケースに備えて複数に区分し、それぞれを独立させました。これで、病気が侵入しても感染が一気に広がるリスクを減らせます。建屋・屋根・設備の堅牢化も図りました。暴風や台風で建屋が倒壊したり太陽光パネルが飛ばされたりしないよう、極めて頑強な構造にしたのです」(陳董事長)
取得した漁電共生関連の特許は150以上。それだけの工夫を重ね、陳董事長は9年にわたり実証実験を含む研究を続けてきた。台風や地震による破損・倒壊などの事故は一度も起きていない。堅牢性だけではない。ストラクチャーの設計により発電効率が向上し、発電量も、当初計画を上回る水準で推移している。
「養殖エビの品質も一段と向上し、より高値で販売できるようになりました。雇用が生まれ、若者たちも地元に戻ってきました。この太陽光発電設備と建屋の耐久性能は約40年。地域の人々は今後も長く、安心して働くことができるはずです。あのとき決意した故郷の再生、地域創生への思いが、着実に実現しつつあると手応えを感じています」(陳董事長)
SMFLみらいパートナーズの海外戦略第1弾である、漁電共生型太陽光発電設備
施設内でエビの養殖事業も同時に営む、漁電共生型太陽光発電所。SMFLみらいパートナーズの海外戦略第1弾として、台湾南西部の嘉義市に2024年3月に発電設備群の1期工事が竣工した。養殖池(写真左)と上空写真(写真右)
官民から寄せられる高い期待を背に、SMFLグループは次なる海外戦略に挑む

環境エネルギー開発部
グローバル推進室長
宮田 亘
SMFLみらいパートナーズの宮田も、地元の確かな反応を感じている。「私たちの事業を地域の方々が大変喜んでくださっている様子を目の当たりにします。漁電共生型太陽光発電事業に参画していることに、大きな誇りと喜びを感じています」(宮田)
政府の期待値の高さもうかがえる。第1期事業の融資の調印式(2022年8月)には約300名の関係者が臨席。そのなかに台湾の農林水産大臣や内閣府副官房長官が顔を揃えたことは、漁電共生型太陽光発電への期待と確信の表れだろう。
陳董事長は今後の展望を次のように語る。「SMFLみらいパートナーズさん、台湾住友商事さんとの連携効果は期待を大きく上回るものでした。これからもぜひ同じスキームで、漁電共生型太陽光発電事業を展開していきたいと願っています」(陳董事長)
宮田がそれにこう応えた。「SMFLみらいパートナーズの海外戦略第1弾として、漁電共生型太陽光発電は十分に手応えのあるプロジェクトとなりました。Sunny Richさんとのパートナーシップがあったからこそと感謝しています。当社は地球規模の社会貢献をさらに見据えた今後の海外戦略として、台湾に加え新たに欧州と東南アジアも視野に入れています。Sunny Richさんのような高い経営理念を掲げるパートナーとの出会いを大切にしながら、次なる海外戦略に挑んでいきます」(宮田)
金属・資源やインフラなど、
5つの事業領域で台湾のグリーンビジネスに貢献する
台湾住友商事

台湾住友商事
社長
長 阿紀良氏
──台湾住友商事の主な事業内容についてお聞かせください。
長氏 台湾住友商事は1953年に開設され、一昨年70周年を迎えました。「サステナビリティ経営」を強く意識し、特に近年は、環境や再生可能エネルギーなど台湾におけるグリーンビジネスのフロントランナーになることを目標に掲げ、企業活動を行っています。
現在、「金属・資源」「輸送機・インフラ」「グリーンビジネスイニシアチブ(GBI)」「化学品」「生活関連」の5つの営業部門があり、漁電共生型太陽光発電事業は2022年に新設したGBIの事業の大きな柱の一つとなっています。
──台湾住友商事がSMFLみらいパートナーズおよびSunny Richと連携し、台湾の漁電共生型太陽光発電事業に参画することになった経緯をお聞かせください。
長氏 きっかけは、我々が以前から取引をしていた新光鋼鐵からのご紹介でした。当社が注力しているグリーンビジネスの優良案件だったことに加え、Sunny Richの経営理念『無我利他』と、陳董事長の『地方創生』への熱意に大変共感したことが参画の決め手となりました。特に漁電共生型太陽光発電事業は、エビの養殖との両立が不可避です。そのため、GBIだけでなく、生活関連部門とも連携しながら食品関連事業も展開していくことで、当社の総合力を発揮できると考えました。
一方で、エビの養殖に関するリスクについては多少不安もありました。しかし、Sunny Richの陳董事長にお話を伺い、飼育設備の独自設計などにより感染症に強いことや、台風や豪雨が多い台湾において、太陽光発電設備を含め極めて頑丈な構造の建屋であることなどを知り、事業を支援することを決断しました。
──3社の協業でどのような未来を創造したいとお考えですか。
長氏 本事業は長期的な視野に立って成長させていく事業であると考えています。今後もSMFLみらいパートナーズ、Sunny Richとの強い信頼関係の下、サステナブルな社会の実現に向け、ともに本事業を着実に推進していきたいと考えています。
(内容、肩書は2025年2月時点)
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SMFLみらいパートナーズ株式会社 環境エネルギー開発部
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