現場で学び、獲得した“SMFLグループにとっての財産” ──「水力発電事業」に向け、本格出航
再生可能エネルギーのなかでも安定性の高さと地政学的リスクの少なさが「水力発電」の強みであること、そして、三井住友ファイナンス&リース(SMFL)グループが水力発電の可能性に着目して力を入れてきたことを、前編で紹介した。水力発電所建設コンサルティング企業のみらい・パートナーズとSMFLみらいパートナーズの2社がタッグを組み、水力発電事業は走り出した。だが、そこはプロフェッショナルの世界。一朝一夕にはいかない。後編では、努力を惜しまず事業のノウハウを身に付けたSMFLみらいパートナーズ担当者の奮闘ぶりを紹介する。
身をもって学んだ現場体験が大きな財産に
宮崎県のとある水系にひっそりとたたずむ年月を経た水力発電所。みらい・パートナーズに出向したSMFLみらいパートナーズ 環境エネルギー開発部の田中晃憲が最初に足を踏み入れたのはそのような「現場」だった。「自分自身の経験を通し、水力発電の知見を深めたい」と飛び込んできた田中晃憲に、みらい・パートナーズの田中克佳社長は「現場で学びを深めるのがベスト」と後押ししたのだ。
田中晃憲が振り返る。「およそ半年間、現場の工事監理事務所に常駐し、水力発電所改修工事のノウハウを学びました。例えば、設計に誤りがないか、納期に間に合うかなどのプロジェクトマネジメントをはじめ、改修施工会社との会議、工事プロセスの策定、どんな工事をどんな方法で、どう進めるのかといった確認など。本当にさまざまなことを、みらい・パートナーズの皆さんから教えていただきました。飛び交う専門用語が最初は分からず、現場でも戸惑うことの連続でした。ただ、毎日会議に出て議事録を作成しているうちに、水力発電のエンジニアリング事業というものが徐々に分かってきました。これは出向しなければ分からなかった事業開発の知見です」(田中晃憲)
事業開発の経験を積んだ発電所の現場勤務から戻り、みらい・パートナーズ本社勤務を経てSMFLみらいパートナーズに帰任した後も、一貫して水力発電分野に携わり、水力発電事業の運営に関する知識やノウハウを学んだ田中晃憲はこう述べる。
田中 晃憲
「現場におけるマネジメントを知らなければ、水力発電の採算性を判断することはできません。どんなに事業計画書を読み込んでも、当然、それだけでは発電事業者にはなれないのです。みらい・パートナーズへの出向を通して経験した一つひとつの学びが、本当の意味での水力発電の事業性評価をはじめて可能にしてくれました。これは、SMFLみらいパートナーズが、発電事業者になる資格を持てたことを意味します。大きな財産です。水力発電事業者へのシフトを目指す戦略の途上で得た、現場の業務、ファイナンスの見識、投資家や金融機関の考え方などの知見は今後ますます重要度を増していくはずです」(田中晃憲)
田中克佳社長も「私たちみらい・パートナーズにとっても、田中晃憲さんの出向から得られたものは大きかった」と評価する。「ファイナンスの見識に加え、水力発電事業の専門知識をも兼ね備えたパイプ役、良きナビゲーターが誕生しました。これからはより一層、我々事業者の立場に寄り添った長期的・安定的な事業投資を、SMFLグループさんは実行してくれるはずです。ほかの金融機関とでは創れないパートナーシップを築けると信じています」(田中克佳氏)
「安定供給」を支えるプロフェッショナルたちの読み筋
気候・天候の影響が少なく、昼夜を通して安定的に発電できる「水力」の強み。だがその強みを陰で支えているのは、技術者たちのたゆみなき日々の奮闘だ。その様子を目に焼き付けた田中晃憲はこう話す。
「事業運営で最も難しいのは、水量のマネジメントです。正確な変動予測に基づく最適な取水量や貯水量など調整の成否が、発電効率に直結します」(田中晃憲)
四季の移ろいとともに降水量は変動する。季節要因だけではない。昨今相次ぐ異常気象の影響も含め、雨が降る・晴れる、水が溢れる・乾く、水が凍る・解ける……の予測を立て、気象現象に先んじて貯水量をコントロールしなければならないのだ。当然、水力発電所が立地する地域や地形による局地的な気候の影響も計算に入れる必要がある。
田中 克佳 氏
田中克佳社長がそっと打ち明ける。「我々のような水力発電事業者にとって、雨や水は、エネルギーを作り出す大切な資源です。そのため台風や集中豪雨などに備えたダムからの事前放流は、仕方ないとはいえ、資源が流れ出す風景を目にするわけですから喜ばしいものではありません」(田中克佳氏)
水の読み筋は、メンテナンスでも問われる。田中晃憲は述べる。「水力発電所をメンテナンスするには、発電のための取水を停止する必要があります。しかし、そのタイミングを見誤ると、発電機会の損失につながってしまいます。こうした判断の正確性を含めた運用が求められる点で、水力発電事業ならではの難しさを実感します」(田中晃憲)
地方創生のシンボルとしての魅力も。起業家マインドで挑む2社の展望
ほかの再生可能エネルギーと比べて安定的に発電できる「強み」がある一方、一筋縄ではいかない「難しさ」もある。そんな水力発電のもう一つの魅力を、みらい・パートナーズの田中克佳社長は「地域の歴史文化の遺産であり、地方創生のシンボルなのです」と述べる。
「全国にある水力発電所の多くが、もともとは、『この川に発電所を設けたら電気をつくれる。電気があればこの地に産業が興る』と思いを抱いた先人たちの志が始まりです。そんな起業家が各地にいました。まさに地方創生です。青雲の志にも相通じるようなセンチメンタルな歴史ロマンが、そこにはある。水力発電は、地域の歴史を秘めた産業遺産・記念碑でもあるのです。こんな電源、ほかにあるでしょうか?しかも、ダムの型式・高さ・重量などを含めて同じものは2つとない。全国各地どこの発電所を訪ねても、必ず新たな出会いが待っています」(田中克佳氏)
みらい・パートナーズとSMFLみらいパートナーズの協業プロジェクトとして前編で紹介した幌満川の2つの発電所(北海道・日高地方/1940 年および1954 年に稼働開始)も、そんな文化遺産の一つだという。
現在、SMFLみらいパートナーズの環境エネルギー開発部には約30名の社員が所属。そのうち、水力発電事業に携わっているのは田中晃憲を含む5名という少数精鋭だ。
「私たちSMFLみらいパートナーズの次なる挑戦は、水力発電事業者としての自社開発です」と田中晃憲はあらためて意気込む。「田中克佳社長をはじめみらい・パートナーズの方々には、今後さらにお力添えいただくことになるでしょう。水力発電事業は、太陽光発電などに比べ、事業化までの期間が長いという特徴があります。参入障壁の一つですが、水力発電事業の重要性はこれからますます高まるはずです。今後とも、強固に連携して取り組んでいきます」(田中晃憲)
太陽でも風でも地熱でもない、もう一つの自然エネルギー。“ そこにある ” ことで災害に立ち向かい得る分散型電源。さらには地域の歴史に根差した文化遺産。そんな魅力的な水力発電が、今後広がりを見せる。水力発電事業会社への出資に加え、「現場」への出向という踏み込んだ施策により事業開発の実務経験と水力発電の運営に関する知見・ノウハウを得て事業者の地位を確立しようとしているSMFLみらいパートナーズ。今後もみらい・パートナーズと連携しながら水力発電事業への投資をさらに拡大することを見据えている。長期安定電源の供給と脱炭素社会の実現に貢献する両者の今後の取り組みに注目したい。
(内容、肩書は2024年3月時点)
発電所現地写真
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SMFLみらいパートナーズ株式会社 環境エネルギー開発部
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