脱炭素に「待った」は通じず──CO2フリー電力の調達ニーズが急増。
最適解の1つはオフサイト型PPA

脱炭素に「待った」は通じず──CO2フリー電力の調達ニーズが急増。 最適解の1つはオフサイト型PPA

「電力を再生可能エネルギーで賄いたい」──カーボンニュートラルの実現に向け国を挙げての取り組みが進む中、企業各社の需要が急拡大している。広島市に本社を置くトータルエネルギーソリューション企業のウエストホールディングスはこうしたニーズに応えるべく、SMFLみらいパートナーズとタッグを組み、太陽光発電のオフサイト型PPA(第三者所有モデル)による電力供給を2022年2月にスタート。両社の協業の背景を探る。

成長が見込まれるオフサイト型PPA

株式会社ウエストホールディングス
代表取締役専務 荒木 健二氏

「広大な敷地に太陽光パネルを大量に集積してメガソーラー発電所を建設する──かつて主流だった開発手法が今、限界を迎えています」。そう語るのは、ウエストホールディングス(ウエストHD)代表取締役専務の荒木健二氏である。

「土地の造成と広域送電網への系統連系はいずれも規制やコストに縛られることに加えて、そもそも大規模に集積できる事業適地を見つけること自体、年々難しさが増しています。それならば、耕作放棄地や遊休地などを活用した小型の発電所を数千カ所束ねた上で、大容量電力として販売するのはどうかと戦略を練った結果、SMFLみらいパートナーズさんとの協業にたどり着きました」(荒木氏)

三井住友ファイナンス&リース(SMFL)グループのSMFLみらいパートナーズは、再生可能エネルギーの発電事業、オンサイト型(顧客の社用敷地内)発電をはじめとするエネルギーサービス、CO2フリー電力小売りの代理店販売などに実績がある。SMFLも、再生可能エネルギーおよび省エネルギー機器の設備投資に対するリースや補助金申請支援など、脱炭素関連のファイナンスサービスを積極的に提供している。SMFLグループ全体としてSDGs経営を成長戦略と位置付け、脱炭素社会・循環型社会の実現と、それらに基づく地域経済の持続的な発展に力を入れている。

SMFLみらいパートナーズ
エネルギーサービス部
副部長 梶山 浩

SMFLみらいパートナーズの梶山浩は、今回のウエストHDとの連携について、こう語る。

「企業は使用する電力の “ 再生可能エネルギー化比率向上 ” を急速に進めています。それに伴い、今後、オフサイト型PPAの市場が拡大することは間違いありません。太陽光発電所の開発でトップランナーのウエストHDさんと協業を進めることは、SMFLグループにとって『再生可能エネルギー発電事業者国内トップ5入りを目指す』という目標に向けた前進であるとともに、ビジネス拡大の好機でもあったのです」

  • Power Purchase Agreement 第三者所有モデル

オンサイトとオフサイト、2つのPPA

Win–Winのスキームを構築

再生可能エネルギーのより広範な普及に向けてカギとなる選択肢が、梶山が言及した「オフサイト型PPA」方式だ。設備の「第三者所有」を特徴とするPPA方式のうち、企業などの敷地内に発電設備を設けるオンサイト型PPAに対し、オフサイト型PPAでは第三者が所有する敷地や自社の遊休地などの遠隔地に太陽光発電設備を設置、そこで発電した電力を発電事業者が需要家に供給する。オフサイト型PPAは、太陽光発電設備を設置したくても十分な面積を確保できないといった用地難や施設構造がネックになって “ はじめの一歩 ” を踏み出せずにいる多くの事業者に向けた提案の切り札でもある。

ウエストHDは今回の事業を検討していた当初、多額の資金が必要で小口大量の発電所を束ねる新しいビジネスモデルに対応できる金融機関やファンドが見つからないことに課題を感じていた。そのような中、取引銀行より “ アセットを所有できる会社 ” として紹介されたのが、梶山が所属するSMFLみらいパートナーズだった。
今回、ウエストHDとSMFLみらいパートナーズが立案したスキームは以下の通り(下図を参照)。
まず、ウエストHD傘下のウエストエネルギーソリューション(ウエストES)が発電所用の土地を確保・所有して、発電事業に関する各種許認可を取得する。その上で、発電所の設計・施工および保守管理業務をウエストESが担当。SMFLみらいパートナーズは発電設備を所有して発電事業を行い、電力の全量を同じくウエストHD傘下のウエストグリーンパワー(ウエストGP)に売却。ウエストGPが一般電気事業者を介して、需要家に電力を供給するという仕組みである。

株式会社ウエストホールディングス 相談役
永島 歳久氏

ウエストHDにとってこのスキームは、膨大な数の発電設備を所有することによる貸借対照表の資産増大や、設備建設に伴う資金調達・借入金の増大を免れ、資本効率を改善できる点で大きなメリットがある。SMFLみらいパートナーズとの出会いが今回の事業を進める上で大きな転換点となった。

ウエストHD相談役の永島歳久氏がこう語る。
「私たちは太陽光発電開発事業者として、非FIT(固定価格買取制度に頼らない再生可能エネルギー発電)の電力に対する需要家からの引き合いの多さには強い手応えを感じています。小規模の発電所を数多く造るのは大変なことですが、再生可能エネルギー普及の取り組みを停滞させるわけにはいきません。脱炭素の実現に向けて多くの発電所を開発するために、アセットを所有できるSMFLみらいパートナーズさんとの協業は、頼もしい後押しになります」

SMFLみらいパートナーズとウエストHDの協業による発電事業のスキーム

「FIT」制度に依存せず太陽光発電の普及拡大を推進

PPAに加え、もう1つのキーワードとなるのが、「非FIT」(固定価格買取制度に頼らない再生可能エネルギー発電)である。

「FIT」(Feedintariff)とは、国の政策として従来から続けられてきた電力の固定価格買取制度のこと。太陽光発電の普及に関し、同制度は一般家庭への浸透も含めて大きな役割を果たしてきたが、その後の改正FIT法の施行に伴い、近年は買取価格の引き下げや買取期間の満了、再エネ賦課金による消費者負担の増加など、さまざまな課題が生じている。自宅の屋根に太陽光発電パネルを設置した一般家庭から、大規模に営業展開する発電事業者に至るまで、電力を「売る」側にとってのうまみが減ってきているのが実情だ。

永島氏が言う。「FIT後を見据えたとき、電力事業の新たな柱になるのが、非FITのオフサイト型PPAなのです。この分野への参入、そして事業展開は、当グループにとって社運を懸けた挑戦です」

全国各地に非FIT太陽光発電所である「ウエストFIT」を開設し、そこで発電した「グリーン電力」を需要家に届けるこの取り組みを、グループ名を冠して「ウエストFIT事業」と同グループでは位置付ける。ウエストFIT事業を急拡大させ、グリーン電力の卸売りを向こう3年間で5倍超に増やす目標がウエストHDの中期経営計画で掲げられている。

具体的には、ウエストHDがすでに所有している太陽光発電所、新たに開発・建設・販売する太陽光発電所やメガソーラー再生事業、ASEAN諸国での太陽光発電所の開発・建設などを合わせ、国内外で273万kW(FITの太陽光発電所や風力発電なども含む)に及ぶ再エネ電源の普及を図った上で、年間100万トン(開発・建設した再生可能エネルギー発電所の総計)のCO2削減を目指すという。この挑戦に伴走するのが、SMFLみらいパートナーズをはじめとするSMFLグループ、という形である。

オフサイト型PPAの太陽光発電所(一部)

全国(一部地域を除く)の耕作放棄地や空き地などの遊休地を対象に、発電所の設置・運営を進めている

カーボンゼロ実現の主柱は太陽光──両社の協業が推し進める普及拡大

両社の協業による発電事業は2021年12月、数カ所の発電施設でスタート。現在は235カ所の発電所で年間発電量21.6GWh、一般家庭約5,357世帯分の1年間の電力消費量を賄うことができる電力を生み出している(2023年1月時点)。

事業の今後について、荒木氏はこう展望する。「現時点で開発の中心になっているのは低圧の太陽光発電所ですが、今後は他社があまり行っていない高圧の非FIT太陽光発電所の開発も視野に入れています。再生可能エネルギーの推進につながる政策として農地利用の規制が緩和されれば、太陽光発電所用地への転用もハードルが低くなり、オフサイト型PPAの適地がさらに増えていくことが見込まれます。SMFLみらいパートナーズさんに支えていただきながら、太陽光発電事業を今以上に力強く拡大していきます」

梶山は技術進歩にも目を向ける。「今後は風力やバイオマスなど、いろいろな再生可能エネルギーのPPAが出てくる可能性があります。しかし市場規模を考えると、ベースとなるのは、やはり太陽光発電。今後、蓄電池などの周辺技術も加速度的に進化していくと予想されます。そうした変化は、太陽光発電へのわれわれの取り組みをさらに後押しすることになるでしょう。国内の太陽光発電市場はまだまだ伸びるはずです」

蓄電池の小型化・低価格化などが進んでさらに普及が進めば、太陽光発電の弱点(夜間や悪天候時の出力低下)が補完されるほか、余剰電力の系統網への送電も容易になる。オフサイト型PPA市場の成長余地はまだまだ大きい。

両社の協業の意義を、梶山はこう述べる。「当社の《みらいパートナーズ》という名称には、“ 未来をパートナーと共につくっていく ” という意味合いがあります。協業パートナーの成長とともに、当社も成長していくことを企図した社名です。ウエストHDさんの今後の経営戦略に私たちがまず寄り添い、どれだけ貢献できるかに重きを置いて、協業していくつもりです」

ウエストHDとSMFLグループがオフサイト型PPAを通じて非FITの再生可能エネルギーを生み出す取り組みにこれからも注目していきたい。

  • 新型コロナウイルスをはじめとする感染症予防対策を取った上で取材・撮影を実施しております。

(内容、肩書は2023年3月時点)

ウエストホールディングスの監視センター内部

お問い合わせ

SMFLみらいパートナーズ株式会社 エネルギーサービス部 
TEL:03-6695-8230

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