海外市場の成長ポテンシャルに、リース活用と現地協業で商機をつかむ

リース業界最新動向 Vol.18 海外ビジネス編

日系リース会社の海外進出の歴史は古い。1970年代の東南アジア展開を足がかりに、米国、欧州、中国などに拠点網を広げてきた。コロナ禍による影響は地域や国により濃淡があるとはいえ、グローバル市場が成長ドライバーであることに変わりはない。では、企業の成長や海外進出を支えるリースのグローバル事業はどうか。三井住友ファイナンス&リース(SMFL)取締役常務執行役員の石田英二に聞いた。

海外市場は、引き続き成長ドライバー

1950年ごろの米国を起源とするリース事業は、日本では1963年、日本リース・インターナショナルの設立を機に、ファイナンスリースを基軸として始まった。日系リース会社の海外進出は1970年代の東南アジア展開に端を発する。以来、国内産業界の発展とともにリース会社もグローバル化を進め、今や米国、欧州、中国などに拠点網を広げている。サービスも多様化し、リース期間満了時の「残価」を設定し、そのリスクを取るオペレーティングリースやメンテナンスサービスの付帯など、リース会社はさまざまなリーススキームを提供してきた。

取締役常務執行役員
石田 英二

「1970年代当初は、海外進出する日本企業のサポートがリース会社の主な役割でした。海外での拡販を進めるメーカーや商社が販売手法としてリースを活用するのを背景に、活躍の場を広げてきたのです」と振り返るのは、SMFLの国際部門を統括する取締役常務執行役員の石田英二だ。「日本企業が海外へ製造拠点を移し、さらに分業体制へと設備投資を進める中、我々リース会社はお客さまの資金調達多様化の役割も果たしてきました」

順調に右肩上がりの成長を遂げていたリース市場だったが、2000年代に入り、国内経済成長の鈍化や2008年のリース会計基準の改正の影響を受け、市場の伸びは足踏みする。
「超低金利や少子化の下、国内市場では従来の延長線上の伸びは期待できず、リース各社は成長ドライバーとしての海外市場に一層注目することになりました」

2010年代に入ると、海外の現地リース会社の買収や、リース会社にはないノウハウや専門性を持つ企業と組むなどして、海外で新しいビジネスに挑戦するリース会社が増えた。日系リース会社が海外で航空機のオペレーティングリースビジネスに参入し始めたのもこの時期だ。海外リースビジネスは大きく伸長した。

その後、新型コロナウイルス感染症(以下コロナという)が世界的に流行する。
「2020年以降のコロナ禍による影響は、その時々のタイミングにおいて地域や国により濃淡があります。当初は中国がいち早く国内総生産(GDP)がプラス圏に浮上する一方、日米欧はマイナス幅が拡大しました。しかし、中国では今年に入ってからコロナが再拡大し、国内各地域でロックダウンが頻発しています。かたや、その他の地域や国は徐々にポストコロナ、ウィズコロナ政策で経済活動の再開に向けて動き出しており、ビジネスの現場でも連動した動きが出てきます。コロナ禍に加えて、ロシアのウクライナ侵攻、米中対立、物価高、米国に端を発する利上げなど、政治・経済情勢や国はますます混迷の度合いを深めていますが、それでも海外市場の成長ポテンシャルは引き続き魅力だといえます」

社会課題解決、パートナーシップ、デジタル活用を軸に

海外ビジネスの今後の展開において、重要な要素は何か。社会課題解決、パートナーシップ、デジタル活用と石田は語る。

「環境問題をはじめとする社会課題に対するソリューション提供が戦略の軸になるでしょう。成長ポテンシャルを取り込むとともに、SDGs達成に向けた取り組みを通じ、長期的な企業価値の向上につなげていきます」

SMFLの一例を示そう。「以前から現地の優遇税制などが整備されているタイで、当社は太陽光発電設備のリースを展開してきました。世界的な脱炭素ニーズの高まりに応じて対応地域を順次拡大しており、現在は6カ国(タイ・マレーシア・インドネシア・ベトナム・中国・メキシコ)で、日系EPC(設計・調達・建設)会社と協業して『自家消費型太陽光発電設備のファイナンススキーム』を展開しています」。さらに今後は、太陽光発電設備以外の分野への取り組みも目指すという。

SMFL のタイ現地法人 SMFL Leasing (Thailand) Co., Ltd.は、株式会社LIXIL の住宅建材事業の生産拠点で最大規模となる TOSTEM THAI Co., Ltd.向けに、同社工場屋根に設置する太陽光発電設備をリースした

商慣行や文化など課題解決の鍵となる “ 現地協業 ”

日本企業が海外でビジネスを展開する際、最も課題となるのが進出先の地域・国と日本との商慣行や文化の差異だ。「海外では市場ニーズの把握に加え、現地の商慣行や文化に対する理解と洞察を深めること、さらに、現地企業の与信管理だけではない総合的なマネジメント能力が欠かせません。そのための鍵は、現地企業とのパートナーシップです」と石田は言う。

SMFLは、日本で長年培ってきたメーカーおよび販売会社との関係性を生かしながら、日本企業の海外進出をサポートする。機械メーカーや販売会社の海外戦略に関しては、販売先の海外現地企業にリース・延払などを提供する「販売金融」によって、販売活動を後押しする。また、企業が海外進出して設備投資をする際には、リース・延払などを提供することで海外での資金調達を支援している。現地企業とのパートナーシップ実績も多い。

迅速なデジタル実装で海外市場の商機をつかむ

また、コロナ禍などで急速に進むデジタル化は新しい機会をもたらす。「テクノロジーの進化で “ モノからコト ” “ 所有から利用 ” などサービス化が進む中、アセットホルダーのリース会社に期待される役割と活動領域はますます拡大していくことでしょう。何より、リース会社自身のデジタル化も重要です。現場における業務のデジタル化は一層加速し、スピード感に欠けると市場から締め出されます。先進的なデジタルプラットフォームをエッジに、お客さまの期待を超えるサービスを提供していく必要があるのです」と石田は話す。

SMFLでは2021年6月より、デジタルの社会実装が進んでいる中国の現地法人において、電子契約・本人確認・電子決済機能が搭載された先進的な販売金融システムをリリースしている。同システムは、従来の案件受付システムから機能を拡張し、複数の販売代理店が共通で使えるマルチベンダーシステムに仕様を変更したものだ。現地のリース会社も同様のシステムを利用していることから、販売代理店にもスムーズに受け入れられ、利用率も順調に高まっている。また、同システムはユーザーからもアクセス可能となっており、スマートフォンなどのモバイル端末でも使えることから、カスタマーサービスの強化につながっている。加えて、取引関連データの一元化によってデータ分析が従来に比べて容易になったことから、SMFLでは中国ビジネスの戦略立案にも活用しているという。

なお、電子契約システムについては、SMFLはマレーシアの現地法人でも導入済みだ。主要契約書類について電子的に書類授受や署名が完結し、顧客の利便性向上とともに、リモート環境でも契約手続きを行える環境を整備。今後、段階的に拡大を図る方針だ。

「ビジネスのターゲットは常に動いています。機能を研ぎ澄まし、時にビジネスドメインも変化させてニーズを先取りし、社会の発展の一翼を担うことがグローバル市場におけるリース会社の役割です」

今後もSMFLは、顧客のニーズに合わせて、グローバルに展開する販売金融ビジネスや海外の投融資ビジネス、デジタルソリューションなど、刻々と変化するグローバル環境に応じた商品の拡大・高度化に取り組んでいく。

(内容、肩書は2022年11月時点)

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