竣工。そして「リース業界で、いちばんバイオガスに詳しい人材」が誕生

関東圏から集めた食品廃棄物を発酵させ、そこから取り出したバイオガスで電気をつくり、地域に供給する──サステナブルな社会づくりに寄与する「羽村バイオガス発電所」が、2020年8月、発電事業スタートアップのアーキアエナジーにより建設された。ファイナンスを手掛けたのは、三井住友ファイナンス&リース(SMFL)。ノンリコース(非遡及型)のプロジェクトファイナンス型リースという手法で、総事業費35億円のうち22億円分相当の設備を用意。今回はそのファイナンス実行に至る経緯を紹介する。

問われるのは、収益性を見定める、たしかな目利き

金融機関における融資の手法は、大きく2つに分けられる。1つがコーポレートファイナンスで、1つがプロジェクトファイナンス(プロファイ)だ。一般的なのは前者。融資を行う側は、その企業の財務内容を中心に信用力を総合的に評価する。一方のプロファイは、融資対象のプロジェクトを事業性のみで評価し、プロジェクトから生じたキャッシュフローで資金を回収する。

プロファイにもいくつかの方法がある。収益が予定通りにあがらず資金を回収できないときに、一定の制約の範囲内で親会社などに弁済を求めることができるのがリミテッドリコースファイナンス。一方、収益が出なくともその責任を企業に遡及しないのがノンリコースファイナンスで、今回の「羽村バイオガス発電所」に用いられた手法だ。

「簡単に言うと、ノンリコースの場合、プロジェクトが頓挫してしまったら我々は資金を回収し損なってしまいます」。かみ砕いて説明するのは、この発電事業のファイナンスをとりまとめた、SMFL環境エネルギー開発部の根本誠太郎だ。「ノンリコースのプロファイは、事業を手掛ける企業にとっては、資本や信用力の大小が問われず、またプロジェクトで収益があがらなくても資産や他の事業に影響しないというメリットがあります。その半面、審査はより厳しくなるので、プロジェクトの収益性を確実なものにする必要があります」

SMFL 環境エネルギー開発部 部長補佐
根本誠太郎

「ファイナンスを実行する側にとっては、その収益性を見極める力量が求められます。これはかなり特殊なファイナンス技術であり、完全なノンリコースのプロファイは、当社でもまだまだ少数です」(根本)

羽村バイオガス発電所の資金調達にこの手法を使えないかと考えたのが、アーキアエナジーの植田徹也 代表取締役であり、その事業の社会的意義の大きさに応えて、根本が手を挙げたことは前回紹介したとおりだ。しかし、プロジェクトが走り始めてすぐ、バイオガス発電事業にノンリコースのプロファイを適用することの難しさを痛感した、と2人は当時を振り返る。

羽村バイオガス発電所。1,500世帯以上の電力需要を賄う

敷地面積は3,321㎡で、廃棄物処理量は168t/日。一般家庭約1,550世帯の年間電力消費量に相当する、約850万kWh/年の発電量を持つ。CO2削減効果は3,885t/年に相当。写真は左から、バイオガス発電所全景、メタン発酵槽、破袋分離機への原料投入する場面

※ 1tのCO2は、25mプール(25m×10m×2m)1杯の体積に相当

「現場を見てくれ」。審査部とシンクタンクを連れて調査を重ねる

何が難しかったのか。根本が解説する。「まず、大型のバイオガス発電事業自体、先例はほとんどなく、メンテナンスなどのノウハウが確立していない。また太陽光や風力などを利用するシステムとも異なり、発電の原料つまり運び込まれる廃棄物の中身がそのときどきで各種各様なため、熟練の技術なくして適切な発酵は不可能です。このように、今後何十年間に及び安定的に運営する上での課題がたくさんありました」

植田氏が補足する。「廃棄物がどの程度の量入ってくるのかさえ不透明でした。食品廃棄物の業界は、事業者ごとに情報開示の仕方がバラバラで、どれだけの量の廃棄物が、どこからどこに流れているのか、確かなことは外から把握できないのです」

アーキアエナジー株式会社 代表取締役
植田徹也氏

廃棄物が入ってこないと発電できないのは言うまでもない。根本がSMFL社内で提示した事業案を聞いて審査部が戸惑ったのは、仕方のないことだった。

そこで根本は一計を案じる。現地のヒアリングに、審査部の担当者を連れて行ったのである。「プロファイは事業を評価するのだから、現場で事業を見ないと分かりませんよね、と言って同行を頼みました」。通常、審査部が現場に赴くことはあまりない。しかし根本の熱意に手を引かれるように、審査部の担当者らは廃棄物事業者やアーキアエナジーの「牧之原バイオガス発電所」(静岡県)など、いくつもの現場に何度となく足を運んだ。

一行が現地で特に確かめたかったのは、何だったのか。根本は言う。「何より、発電の原料が入ってくる蓋然性です。つまり、本当に廃棄物をこちらに回してもらえるのか、それがどれくらいの量なのか。実際の量と流れを知っているのは収集運搬業者なので、管轄の事業所に何回も出向きました。もう1つは自治体の熱意です。この事業には許認可が必要なので、羽村市が前向きであってくれないと話が進まないのです」

動かしたのは審査部だけではない。グループ会社のシンクタンクである日本総合研究所にも、根本はこうした現場への同行を依頼した。「彼らは調査のプロフェッショナルです。事業者の多くは扱っている廃棄物の量などを明確にしていないのですが、さすが、うまく聴き取ってくれました。そして許認可が下りる可能性も見極めてくれました」(根本)。近隣でごみ焼却施設を運営する西多摩衛生組合や、東京都、農林水産省、経済産業省、東京電力にも行った。3年がかりで準備を進めるなか、審査部の担当者も「稟議の最終局面では、その打ち合わせのために連日時間を割いてくれた」(根本)という。

規模と安定だけではない。ノウハウと熱意を支援したい

何が根本を駆り立て、この間の熱意を支えたのか。「もし私の心が折れてしまったらこのプロジェクトは事業化できない、という危機感です。プロジェクトが立ち上がった当初はいくつかの金融企業が興味を示したのですが、どこも降りてしまった。うちがそれに追従したら、プロジェクトは頓挫します。でもこのプロジェクトは、本当に意義のある事業です。関係各所を回るなかで、熱い応援を何度もいただきました。だから、“ どうすれば実現できるか? ” “ 絶対に心を折ってはいけない ” と思い、走り続けました」(根本)

苦労はあったものの、このプロファイをまとめ上げたことで得たものは多い、とも話す。「従来の金融手法で30億~40億円規模の大型プロジェクトを行うとなると、どうしても大資本の企業に限定されてしまう。しかし小規模な企業でも、それが真に必要とされている事業なら、そして知見とやり抜く意欲があれば、ノンリコースのプロファイで支援できる。それを示せたことは大きな収穫です」(根本)

植田氏がうなずく。「SMFLさんは、当社の沿革や資本規模ではなく、プロジェクトそのものに向き合って価値を評価してくれました。そして、どうしたらリスクを軽減できるのかまで突っ込んで考えてくれた。今や根本さんは、金融業界でバイオガスにいちばん詳しい人ですよ。こういう人も、こういう企業も、なかなかありません」

植田氏の笑みに信頼感がにじんだ。

※ 新型コロナウイルスをはじめとする感染症予防対策を取った上で、取材を実施しております。

(内容、肩書は2021年11月時点)

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