再エネ電力を提供し、企業の脱炭素を全国で支援
──SMFLグループと東芝グループのFIP協業

FIPで変わる再生可能エネルギービジネス(後編)

再生可能エネルギーを取り巻く制度が転換期を迎えている。2022年4月、再生可能エネルギー普及促進のための新たな支援制度「フィードインプレミアム」(FIP)がスタート。現在は、従来の「固定価格買取」(FIT)制度との両制度併存期間だが、今後は大規模太陽光発電(250kW以上)の新規設置はFIPしか認められなくなるなど、順次、FIPへの移行が進む。FIPを見据えて協業をスタートさせた三井住友ファイナンス&リース(SMFL)、SMFLみらいパートナーズと、東芝エネルギーシステムズ(東芝ESS)、東芝ネクストクラフトベルケ(TNK)が、協業第1弾の太陽光発電所で、現在、FIPビジネスの検証に取り組んでいる。後編では、FIP下での挑戦と、蓄電池技術の活用も視野に捉えた将来展望を明らかにする。

インバランスリスクの低減に、東芝グループが貢献

「計画値同時同量。これが、われわれ発電事業者に課せられた大原則です。大きな責任があり、実に難しい任務でもあります」。SMFLみらいパートナーズの須貝幸太郎すがいこうたろう(環境エネルギー開発部 副部長)は、FIP制度を適用した再生可能エネルギー発電事業の高いハードルを率直に語る。

SMFLみらいパートナーズ 環境エネルギー開発部 副部長
須貝 幸太郎

「毎日、計画値を算出し、翌日の実績をそれと合致させなければいけない。そのためのさまざまなオペレーションも必要になります。FITにはなかった業務ですし、再エネの発電所さえつくればビジネスが成立した今までとはまったく異なります。優れたノウハウをお持ちの東芝ESSとTNKが連携して担当してくださっていますが、運営を検証する私の立場からも、“ 自立化 ” が本当に求められていることを実感しています」(須貝)

2022年7月、SMFL、SMFLみらいパートナーズ、東芝ESS、TNKの4社は協業を発表。始まったのは、「古賀ソーラーパークⅡ」(福岡県糟屋郡新宮町)と「青柳ソーラーパークⅡ」(福岡県古賀市)におけるFITからFIPへの移行、FIP下での事業性検証という取り組みだ。

SMFLと東芝がFIP協業をした、太陽光発電所

SMFL、SMFLみらいパートナーズ、東芝ESS、TNKの4社協業により、FIP制度のビジネス検証をしている。
左から、古賀ソーラーパークⅡ、青柳ソーラーパークⅡ 左から、古賀ソーラーパークⅡ、青柳ソーラーパークⅡ 上から、古賀ソーラーパークⅡ、青柳ソーラーパークⅡ

FIPでは、発電事業者が「非化石価値」(CO2を排出しないことに伴う価値)という新たな価値を手にする。その一方、FITにはなかった責任とリスクが発電事業者に課されることになる。その1つが、発電の計画と実績の一致を義務付けた「計画値同時同量」制度に伴う責務であり、責務と一体の「インバランスリスク」というわけだ。

東芝ネクストクラフトベルケ 代表取締役社長
新貝 英己氏

「インバランスリスク」について、TNKの新貝英己しんがいひでき代表取締役社長がこう説明する。

「FIPという制度は、再エネの『自立』を目的としています。従って発電事業者は、翌日分の発電計画を、電力広域的運営推進機関(政府の認可法人で全国の電力の需給バランスを監視する組織)に対し前日に提出しなければなりません。しかし、天候に大きく左右される再エネ発電において、実績に合うように事前の計画を立てることは簡単なことではありません」(新貝氏)

では、実績値が計画値を下回ったらどうするのか。自然環境が相手のため、予測どおりの運用の継続は簡単ではない。「予実に乖離が生じた場合、差分を送配電事業者が埋めなければなりません。補填分の代金(インバランス料金)は、発電事業者がペナルティとして事後に支払います。この負担が『インバランスリスク』です」(新貝氏)

新貝氏が率いるTNKは、この電力の需給バランスを管理する「アグリゲーターの支援会社」として日本の先駆者であることは、前編で紹介したとおりだ。東芝ESSがドイツのネクストクラフトベルケ社(FIP先進地・欧州での豊富な実績を誇るアグリゲーター)と2020年11月に合弁で設立した。

発電事業者が背負うもう1つのリスクが、「価格変動リスク」だ。新貝氏が解説を続ける。「全量固定価格、しかも買い手まで決まっていたFITとは異なり、FIPでは発電事業者が自ら売電先を探し、売電価格などの諸条件を交渉・決定して運用しなければなりません。電力市場の価格変動に対応できる体制をどう構築するのか、売電先をいかに確保して売電収入を安定させられるかが、FIP運用の成否を分ける重要なポイントの1つとなります」(新貝氏)

再生可能エネルギー普及の支援制度であるフィードインプレミアムの「プレミアム」とは、売電単価と市場価格との差分を補填する「補助額」を意味する。売電代金の全額が保証されるFITとの違いだ。FIPが目指す最終的なゴールは、再生可能エネルギーの「完全な自立」。いずれはプレミアムも廃止となる予定だ。福岡県における今回の取り組みでは、これら「インバランスリスク」「価格変動リスク」などFIPに伴う事業リスクを検証し、新規発電所の開発を含め、新たなビジネスモデルのいち早い確立を目指している。

インバランスリスクを抑える、「アグリゲーター」のバランシング技術

発電計画と実績の一致が義務付けられた「計画値同時同量」を達成し、インバランス発生時のコストを抑える。このバランシング技術にアグリゲーターの手腕が問われる

ピースがかみ合い、響き合う両雄の強み

FITに比べ、事業化に高いハードルが立ちはだかるFIPという新制度。東芝グループとSMFLグループは、協業によってその障壁を乗り越えることを選択した。お互いに対して抱く、それぞれの期待が明確にある。

東芝エネルギーシステムズ カーボンニュートラルマーケティンググループ グループ長
武部 雄太氏

東芝ESSの武部雄太たけべゆうた氏(カーボンニュートラルマーケティンググループ グループ長)はこう明かす。「SMFLグループが誇る、広範な顧客基盤に期待します。FIPでは、発電した電力をどこに売るかが、重要なポイント。発電規模を大きくするなら、大口の需要家をターゲットにしなければならず、買ってくださる需要家に心当たりがなければ、そもそもビジネスが成立しません。正直なところ、われわれがリーチしにくい部分です」

対してSMFLには、約35万社という顧客基盤がある。スキームの下流に当たる需要家開拓で、存分に生きるアセットだ。「また、ビジネスの上流に当たる発電事業に関しても、SMFLみらいパートナーズには再エネの発電事業者としての実績とノウハウがあります。川の上流域と下流域をSMFLグループが担い、中流域での調整をわれわれ東芝グループが担当する──互いの得意なところと苦手なところがパズルのようにうまく組み合わさった、まさに理想的な補完関係です」(武部氏)

SMFL 東京営業第一部 上席部長代理
佐塚 将一

SMFLの佐塚将一さつかしょういち(東京営業第一部 上席部長代理)も、応える。「 “ お互いの足りないピースの埋め合い ”、まさに武部さんがおっしゃるとおりです。金融を得意とする当社が新たなビジネスに踏み出すときに、どうしても不足するのはその分野特有の専門的な技術要素です。最先端の現場で培われた東芝グループの技術と私どもSMFLグループのリソースが組み合わさったことで、今回のビジネスは動き始めました」(佐塚)

SMFLみらいパートナーズの須貝は、この先を見据えて次のように語る。「当社は今回の取り組みのように非FIT※1の発電事業を拡大していきます。目標としては、2025年までに最低でも400MWの非FIT発電所を開発したい。ただ、それだけの量の電力をお客さまに提供するとなると、東芝グループのようなノウハウをお持ちのアグリゲーター抜きには成り立ちません。東芝グループはこの分野のリーダー、いわば旗振り役です。当社にとって大きな後押しになります」(須貝)

各担当者の言葉からは、あたかも磁石の「+」と「-」が互いを引き寄せ合うかのように成立した協業だったことがうかがえる。

  • ※1FIP、PPAなどを含む、FIT以外の発電事業を指す。いずれも、電力系統に乗せて送配電する場合は、「計画値同時同量」制度が適用される

非FIT拡大に向けたSMFLグループのパートナーとの協業体制

発電パートナーであるアグリゲーターと共に、約35万社の取引先という顧客基盤を有するSMFLの強みを生かし、SMFLみらいパートナーズは2025年までに400MW以上の非FIT発電所の開発を目指す

蓄電技術にも期待。パートナーシップでさらなる社会課題の解決へ

福岡県内の太陽光発電所2カ所でのFIP運用、そしてビジネス検証の成果の先に、両グループは何を目指すのか。

SMFLみらいパートナーズの須貝は「非FIT事業全体を拡大するため、ぜひとも蓄電技術を活用したい」と話す。「拡大に向けては、SMFLグループの顧客基盤に加え、さらに多くの需要家にアクセスできる三井住友銀行とも連携し、同グループの顧客基盤の強みも生かすつもりです。非FITの太陽光発電所を安定的に運用するとなれば、欠かせなくなるのが蓄電池です。開発パートナーとして、全国のエネルギーインフラのEPC(設計・調達・施工)事業者との連携を築くとともに、アグリゲーターや小売電気事業者といった売電パートナーとの連携もさらに深める。もちろん東芝ESS、TNKとは引き続き強固に協業していきます。実証実験の第2弾では、ぜひ、蓄電技術でもご支援いただければと考えています」(須貝)

「再エネの価値を高めるため、蓄電池の活用はなんとしても実現したいですね」と応えたTNKの新貝氏は、次のように意欲を示す。「私たちTNKの目標は、アグリゲーターの本家である独ネクストクラフトベルケ社を超えること。日本よりもマーケットの小さいドイツで、わずか200人規模の会社が12GWもの電力をアグリゲーターとして束ねています。それを超える目標を実現するには、SMFLグループとのパートナーシップが欠かせません」(新貝氏)

SMFLの佐塚はこんなビジョンを温めている。「私たちが解決を迫られている社会課題は、再エネの普及や脱炭素だけではありません。ビジネスを通して今後、さまざまな社会課題に直面することが予想されます。SMFLグループだけでは解決できない課題も多々あるはず。そんなとき、東芝グループというパートナーとの連携は、必ず大きな財産になります。これからも東芝グループと一緒に、多様な社会課題を解決できるよう取り組んでいければ、と願っています」(佐塚)

東芝ESSとTNK、SMFLとSMFLみらいパートナーズ──まさにパートナーと呼ぶにふさわしい4社が再生可能エネルギーの価値を高めるために動き出している。これから先、どんな障壁を突き抜けていくのか。動向に注目したい。

  • 新型コロナウイルスをはじめとする感染症予防対策を取った上で取材・撮影を実施しております。

(内容、肩書は2023年6月時点)

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SMFLみらいパートナーズ株式会社 環境エネルギー開発部
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