FITからFIPへ、第二幕が開けた「再エネ普及」。
東芝とSMFL、両雄が挑む脱炭素への道程

FIPで変わる再生可能エネルギービジネス(前編)

「FITからFIPへ」──再生可能エネルギーの普及促進を図る「フィードインプレミアム」(FIP)制度が2022年4月にスタートした。「固定価格買取」(FIT)制度に代わり、再生可能エネルギー普及の推進力となることが期待されている。ただし欧州で先行するFIP制度も、日本ではまだ産声を上げたばかり。それゆえ「第二幕」に挑む事業者には、ビジネス性やリスク面などいくつもの壁が立ちはだかる。スクラムを組んで出帆した4社協業の航跡を見ていく。

出合いは、一本のニュースリリースから

一本のニュースリリースが、武部雄太たけべゆうた氏の目に留まったのは、2021年7月のことだった。タイトルには、「延岡門川のべおかかどがわメガソーラーパーク(47MW)』の運転開始について」とある。

東芝エネルギーシステムズ カーボンニュートラルマーケティンググループ グループ長
武部 雄太氏

「SMFLみらいパートナーズがソーラーパークを開発して運営も……? 施工者や保守委託先も間違いない陣容だし、47MWという規模からも “ 本気度 ” が伝わってくる。当社も何かできるはず、一緒にやってみたい」

そう心に期すものがあった、と武部氏はのちに語っている。武部氏が所属する当社とは「東芝エネルギーシステムズ」(東芝ESS)。重電の雄にして、日本における再生可能エネルギー分野のトップランナー・東芝グループのエネルギー事業関連企業だ。同社でカーボンニュートラルを推進する立場にあった武部氏は、翌春に控える新制度施行下での事業展開を見据えていた。

再生可能エネルギー業界は、2022年4月に、新たな時代の門をくぐった。フィードインプレミアム(FIP)制度の適用開始である。再生可能エネルギー発電事業者は、つくり出した電力を、卸電力取引市場や小売電気事業者などに売って収益化を図る。その際の売電価格に一定の「プレミアム」(補助額)が上乗せされるのが、FIPの骨子だ。ただし売電単価とプレミアム額は毎月変動(エリアによる価格差も発生)する。約束された固定価格で必ず買い取ってもらえる固定価格買取(FIT)制度とはその点で決定的に異なる。

FITに比べて「市場性」と「自立性」(政策依存度の低さ)がより高いFIPは、再生可能エネルギー先進地の欧州では2010年代から導入されている。

東芝ネクストクラフトベルケ 代表取締役社長
新貝 英己氏

三井住友ファイナンス&リース(SMFL)のニュースリリースを目にした武部氏は、すぐさま動いた。かねて面識のあったSMFLの佐塚将一さつかしょういち(東京営業第一部 上席部長代理)に連絡を取り、「延岡門川メガソーラーパークの件、SMFLみらいパートナーズのご担当者も交え、ぜひお話ししたい」と面談のセッティングを依頼した。その傍ら、再生可能エネルギー市場での需給調整と電力仲買業務のノウハウに長けたグループ企業、「東芝ネクストクラフトベルケ」(TNK)の代表取締役社長・新貝英己しんがいひでき氏に面談への同席を招請し、TNKも参画する布陣を手配した。

──FIPを視界に見据えた4社協業が、こうして始まった。

FIT制度とFIP制度の売電収入の違い

出典:資源エネルギー庁「エネルギー白書2020」【第331-1-1】FIP制度の概要について
FIP制度では、収入が市場価格に連動するが、補助金(プレミアム)が月単位では一定となる。他にも発電事業者において発電量の計画値同時同量の達成と、売電収入変動リスクへ対応が必要となる

全量定額買取からの “ 卒業 ” へ

FITからFIPへ──パラダイムシフトの背景には、どのような事情があるのだろうか。FITの制度内容を振り返り、再生可能エネルギーが普及する過程で顕在化してきた「課題」を整理してみる。

「きっかけは、従来の制度(FIT)に課題が目立ち始めたことです」。解説してくれるのは、TNKの新貝社長だ。

「課題の1つは『再エネ賦課金』の存在です。大手電力会社が再エネ電力を定額で買い取るコストの一部は、賦課金として電気料金に上乗せされ、すべての消費者が負担しています。家庭によっては、再エネ賦課金が1,000円を超える月もあるのではないでしょうか。(2023年3月時点)──決して無視できる金額ではありません。しかも賦課金は、年月を経るごとに増えている。この大きな国民負担をいかに減らすかが、喫緊の課題になっています」(新貝氏)

賦課金の存在は、FITの下での「全量定額買取」という政府の手厚い保護政策に基づく。ここにきて、制度の見直しを避けられない状況が生じていた。

「FITにはもう1つ、大きな課題が含まれていました。それは市場性の欠如、すなわち『自立性』の問題です」と、新貝氏がさらに説き明かす。「FITの下、電力をつくる側の再エネ発電事業者は、いつ、どれだけ発電しても、決まった金額で買い取ってもらうことができました。市場と切り離されたかたちで政策に保護され、需要をにらんだ供給調整をしないで済みました。一方、FITは再エネを普及させるためにまずは必要な措置でしたので、その狙いどおり、2012年の導入以来、存分に普及を後押ししてくれました。太陽光発電設備に関し、平地での設置面積比率で日本が世界一に至ったのは、間違いなくFITのおかげです」(新貝氏)

とはいえ、需要と供給のバランスを確保し続けることは、生活インフラである電力を扱う者にとって、本来、企業の命脈に関わる責務ともいえる※1。「再エネがひととおり普及した今、電力の市場動向をきちんと反映して需給バランスを図れる売買制度、つまり自立した取引システムが、再エネを将来の主力電源とするために不可欠となっていました※2」(新貝氏)

新たなFIP制度の下では、複数の電源を束ねて電力の需給バランスを管理し、市場取引を代行する仲介事業がさらに重要度を増すことになる。その役割を担う「アグリゲーターの支援会社」として日本を代表する一社が、新貝氏が社長を務めるTNKだ。再生可能エネルギー業界で、日増しに存在感を高めている。

  • ※11つの送配電網の中で、消費される電気の量と発電される電気の量は、常に一致していなければならない(この大原則を「計画値同時同量」という)。需給のバランスが崩れると電気の周波数が乱れ、停電が起きる恐れがあるからだ。2018年9月の北海道胆振東部地震(最大震度7)の際、北海道全体で電力需給バランスが崩れて周波数が低下、長期に及ぶ大規模停電が発生したことは記憶に新しい
  • ※2国は2021年10月に閣議決定した「第6次エネルギー基本計画」において、太陽光発電を中心とする再生可能エネルギーを「主力電源」に位置付けた。再生可能エネルギーは、火力や水力など他の電源と同様、需給バランスなど電力市場の状況に応じて適量を生産できる “ 自立 ” した電源となる必要がある

複数の電源を束ねて電力の需給バランスを管理する「アグリゲーター」のスキーム

送配電網の中で、消費される電気の量と発電される電気の量は、常に一致していなければならない(この大原則を「計画値同時同量」という)。複数の電源を束ねて電力の需給バランスを管理し、市場取引を代行する仲介事業がさらに重要度を増す役割を担うのが「アグリゲーター」だ

志が一つに。FITからFIPへの検証開始

SMFL 東京営業第一部 上席部長代理
佐塚 将一

さて、東芝ESSの武部雄太氏から面談を要請されたSMFLの佐塚将一は、SMFLみらいパートナーズで再生可能エネルギー発電事業を業務として担う須貝幸太郎(環境エネルギー開発部 副部長)につなぎ、面談の場をアレンジした。時を置かず2021年8月、新貝氏と武部氏(東芝グループ)、須貝と佐塚(SMFLグループ)の4名が顔を合わせ、4社協業のキックオフとなった。

切り出したのは、東芝ESSの武部氏だ。「東芝グループには、アグリゲーターとして蓄積したノウハウがあります。FIPのスタートを見据える今、SMFLグループとなら、新しいアグリゲーションビジネスができるのではないか。ぜひ一緒に取り組んでほしい」

提案を受ける構図となったSMFLみらいパートナーズの須貝はこう述懐する。「SMFLグループにとって、大きく期待が膨らむ提案でした。私どもには、リースを通じた広範なお客さまとのつながりがあります。脱炭素化に向けて再エネ電力を求める多くのお客さまに、SMFLグループは再エネ電力を直接提供し、その価値を届けられるのです。FIP制度下での、従来のFITとはまったく異なるビジネスモデル、たとえばオフサイト型PPA※3といったかたちで、SMFLグループならではの価値を提供できるのではないか、と心が躍りました」(須貝)

SMFLみらいパートナーズ 環境エネルギー開発部 副部長
須貝 幸太郎

SMFLの佐塚も、その場で感じた熱量をこう振り返る。「確かに最初は、収益変動のリスクなど不安がよぎりました。でもこれは、東芝グループとSMFLグループがそれぞれの得意分野で協業する新ビジネスです。やりとりの中でお互いの本気度が伝わり合い、話が見る見る具体化していく──俄然ワクワクしてきました」

武部氏が、続いて語る。「東芝グループは、エネルギービジネスで確固たる信頼を築いてきたと自負しています。信頼を失わないためにも、どこの発電事業者ともスクラムを組める、というわけではありません。たとえば、“ 野立て ” と称される、人里から離れた平地にパネルを設置した太陽光発電所は、無人で放置されているケースが多い。生い茂った雑草が刈られないままパネルにかかって、発電量が減るばかりか、パネルが壊れたり、最悪の場合は火災が発生したりする。国もそうした実態を問題視しています」

「対して、SMFLグループが関わる発電所にはかねて注目していました。比較的低圧の発電所から大規模なものまで、明らかな傾向──建設工事の品質やメンテナンスの契約業者のレベルが非常に高い──を見て取れます。一般的に、利回りやIRR(内部収益率)を重んじてコストを追求する事業者が多い中、しっかりとした発電所を建て、高いレベルで管理なさっている。この点がわれわれの目指すビジョンと重なり、SMFLグループと組みたい、そう、考えていたのです」(武部氏)

志を一つにした4社は、その後約1年間にわたって具体的な検討を重ね、2022年7月、正式な協業スタートにこぎ着けた。協業の第1弾として選ばれたのは、SMFLみらいパートナーズが福岡県内に所有する2カ所の太陽光発電所。それまでFIT下で運営されてきた、「古賀ソーラーパークⅡ」(糟屋郡新宮町)と「青柳ソーラーパークⅡ」(古賀市)を、2022年9月からFIPに切り替える計画が正式に発表された。

  • ※3オフサイト型PPAとは、自社の敷地外や遊休地などの遠隔地に太陽光発電設備を設置、そこで発電した電力を発電事業者が小売電気事業者を通じて需要家に供給する。FITに頼らない再生可能エネルギー発電を意味する「非FIT」の代表的な手段の1つである

FIPが生み出す非化石価値

FIPは、環境への貢献を志す企業に1つの新しい価値をもたらす。使用電力の「非化石価値」だ。石油・石炭・LNGなどの化石燃料を用いずに生み出された電力は、エネルギーとしての価値(電力価値)に加え、「CO2を排出していない」という非化石価値を伴う。FIT下での非化石価値は国に帰属していたのに対し、FIPでは発電事業者に帰属する。非化石価値は証書化された「非化石証書」となり、電力と共にオフサイト型PPAの中で取引される。電力の買い手企業(需要家)は、CO2を排出しない再生可能エネルギーの使用をアピールできることになる。

SMFLみらいパートナーズ、東芝ESS、TNKの3社が協力して運営に当たる2カ所の太陽光発電所には、この非化石価値が生かされている。

スキームの概要は次のとおり。

FIP拡大に向けた4社の協業スキーム

SMFLみらいパートナーズが発電した電力に対し、東芝ESSがアグリゲーターとして計画値同時同量業務を代行。さらに非化石価値と共に買い取り、卸電力取引市場または小売電気事業者を通じて需要家へ売電する
  • まず、SMFLみらいパートナーズが保有する太陽光発電所をFITからFIPに切り替える。
  • 発電された電力は非化石価値と共に東芝ESSが全量を買い取り、卸電力取引市場または小売電気事業者を通じて需要家に売却。需要家の選定にはSMFLグループの広範な顧客基盤が強みになる。
  • 東芝ESSはTNKと連携し、「計画値同時同量」※4の業務を担当する。

このスキームの中でSMFLみらいパートナーズ、東芝ESS、TNKの3社は、FIP適用に伴うリスクを検証し、FIPを前提とした新たな発電所の開発を協働で進める。後編ではそのあたりの事情を深掘りしていく。

  • ※41つの送配電網の中で、消費される電気の量と発電される電気の量は、常に一致していなければならない(この大原則を「計画値同時同量」という)
  • 新型コロナウイルスをはじめとする感染症予防対策を取った上で取材・撮影を実施しております。

(内容、肩書は2023年6月時点)

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SMFLみらいパートナーズ株式会社 環境エネルギー開発部
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