高度化するビジネス・ニーズに対応。進化を止めないリース会社の「与信判断力」が、プロジェクトの成否を分ける

リース業界最新動向Vol.16 進化する与信編

「持たない経営」「所有から利用へ」といった潮流が加速するなか、SDGs経営やデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進といった社会的要請にも対応すべく、従来とは異なる設備投資やトランジションファイナンス※1 などの新たな調達手段が注目されている。こうした潮流の変化に即してリース会社の果たす役割も重要度が増し、実績を重視した従来型の与信判断のみならず、プロジェクトの将来性を見据えた与信判断へと進化を見せている。三井住友ファイナンス&リース(SMFL)の取締役専務執行役員・関口栄一に、昨今のリース業界の動向を聞いた。

※1 トランジションファイナンスとは、脱炭素社会の実現に向けて長期的な戦略に則り、着実な温室効果ガス削減の取り組みを行う企業に対し、その取り組みを支援することを目的とした新しいファイナンス手法。

社会から企業への要請として、「脱炭素化の実現、SDGs経営、DXの推進、第5世代通信(5G)への移行」などを挙げることができる。「企業がこれらの要請に応えるためには、新たな設備投資や設備の更新などが必要であることから、これまで以上にリース会社の果たす役割が大きくなっています」と取締役専務執行役員・関口栄一は話す。

取締役専務執行役員
関口 栄一

企業ニーズとして大きいのは、「費用の平準化や資金調達の多様化、キャッシュフローの改善、事務管理の省力化、ウィズコロナ対応に加え、資産の流動化、脱炭素へのトランジションファイナンスなどです」。

リース取引は「与信行為」を伴う。与信を行うかどうかの判断の基軸は「ヒト・モノ・カネ」である。

「与信判断の軸として、取引先の『ヒト──経営者、社員のエンゲージメントなど』『カネ──財務力』の状況を確認・把握することは金融機関として当然です。リース会社はさらに、取引先の事業や『モノ』に対して、リース満了後の物件を回収して再販する際の価格や、再使用価値を査定する目利き力、そして実際に再販する能力が重要です。その巧拙がリスクテイクに大きく影響します」

“ 変数 ” とシビアに向き合い、成長を加速。伴走するリース会社も与信判断を進化

昨今の環境関連をはじめとした取引は、従来型のファイナンスリース取引よりも長期の与信行為が必要となるケースが多い。「従来以上に中長期的な観点での与信判断が求められます。ファイナンスリースを中心とする伝統的な国内リース市場は成熟しています。しかし、リース各社はその環境に甘んじることなく、社会の変化を捉えた取り組みを加速し、金融業界の中で最も多角化が進んでいると言えます」

いくつか例を挙げると、航空機などのオペレーティングリース、環境エネルギー分野におけるプロジェクトファイナンス※2、不動産分野におけるメザニンファイナンス(劣後ローン)、投資による資本・事業参画など、時代とともに変化するニーズに多様なスキームで課題解決することで貢献し、企業の成長や財務体力の強化などをサポートしてきた。「与信の基本は変わりませんが、常に『変数』と向き合いながら成長・進化していくのがビジネスです。今後も時代の変化に応じて、与信判断を一層進化させる必要があるでしょう」

そこで、重要となるのが、事業の将来性、ポテンシャルを判断する知見だ。過去の財務データを基にした与信判断ももちろん必要だが、「企業や商材、プロジェクトの将来性を見据えた与信判断、資産査定能力、プロジェクト査定能力が一層重要になります」と関口は続ける。「加えて、中小企業向け小口販売金融(ベンダーリース)においては、テクノロジーを活用し、AI(人工知能)による自動審査、電子契約などのデジタル化を進めスピードと効率化を追求する必要があります。一方、難易度の高い案件やプロジェクトに対する与信判断では、深い知見や幅広い経験を有する専門人材の判断が引き続き重要です」

※2 特定事業に対して融資を行い、そこから生み出されるキャッシュフローを返済の原資とする手法。 SMFLグループでは、デットファイナンスからエクイティファイナンスまで多様なファイナンスをアレンジしている。

ファイナンスの種類とプロジェクトファイナンスの与信判断プロセス例

ファイナンスの種類

ファイナンスの種類

プロジェクトファイナンスの与信判断プロセス例

プロジェクトファイナンスの与信判断プロセス例

「変化」が積み重なる時代。金融ソリューションを高度化させ、「進化」で応えるSMFL

SMFLは、「時代の『変化』に『進化』で応える企業へ」を現中計(2020-2022年度)の戦略とし、そのひとつに「金融ソリューションの高度化」を掲げている。「これを実現するためには、我々の知見に基づく与信判断を常に進化させることが欠かせません」(関口)

SMFLグループは、再生可能エネルギービジネスで言えば、全国で1,600件以上の実績を有しており、各電源特性を熟知している。最もポピュラーな太陽光発電だけではなく、風力やバイオマス、小水力など各電源に関するノウハウが蓄積されている。専業パートナーと密に連携しながら、電源特性を熟知した営業担当者が、地域性や事業性を検討しながら適切なソリューションを提供している。この事業に初めて参入する企業にとっても、大きな安心材料のひとつだ。

例えばバイオガス発電事業では、2020年12月に東京都羽村市で食品廃棄物の中間処理施設「羽村バイオガス発電所」プロジェクトを手掛けた。SMFLの担当者が足掛け3年にわたって粘り強い調査と準備を続け、発電事業を手掛けるスタートアップ企業のアーキアエナジーにプロジェクトファイナンス型リースを提供。この結果、同発電所は現在2,100世帯以上に相当する年間約770万kW/時の電力需要を賄う。1日当たり168トンの許可処理能力(食品廃棄物で最大80トン処理を想定)を有し、「ごみ問題」の解決に確かなインパクトを残している。

電源特性や地域性、事業性を鑑みたSMFLの高度な与信判断は、再生可能エネルギー分野に留まらない。社会課題の解決に資するスタートアップ企業とともに、新しい社会インフラの創出にも積極的に生かしているのだ。

例えば、小規模分散型の水循環システムと水処理自律制御システムの開発を手掛けるスタートアップ企業WOTAに対して、従来の審査の壁を乗り越えたファイナンススキームを通して、同社の事業を支援したことだ。同社が扱うポータブル水再生プラント「WOTA BOX」は一度使用した水の98%以上を再生して循環利用を可能にし、これまで、13自治体20カ所の避難所などで、延べ20,000人以上に安全な水を提供している。また、2020年7月以降は、世界初の水循環型ポータブル手洗いスタンド「WOSH」も各施設に設置している。

テクノロジーを活用した例もある。中小企業向け小口販売金融(ベンダーリース)でAIの活用によりリース取引の申し込みをウェブサイト上で完結させたことだ。取引の可否を最短数分で回答できる自動審査システムをSMFLは自社開発している。これにより与信判断の精度を向上させ、最適なリース料率の設定、リスク・リターンバランスに基づくリース提供を実現している。

「与信は営業と両輪なのです」と関口は言う。「リスクを把握した上で、適切かつ十分なリスクテイクをすることで取引先企業の成長や課題の解決をサポートします。リース会社の使命は益々大きくなると言えます。その使命に応えるためには、リース会社に従事する一人ひとりがビジネスの潮流に対してアンテナを高く張り、与信のスキルを日々向上させていくことが肝要です」

常に「変化」と向き合いながら、「成長・進化」をやめないSMFLグループのこれからの取り組みに注目したい。

(内容、肩書は2022年7月時点)

関連記事またはサービス・ソリューション