新しい水インフラの創出に挑むWOTA。その挑戦をファイナンスで支えるSMFLの決意

Fresh Water Innovation(前編)

「水問題を構造からとらえ、解決に挑む」──このテーマを自らの存在意義と自負する「WOTA」は、小規模分散型の水循環システムと水処理自律制御システムの開発を手がけるスタートアップだ。代表取締役CEOの前田瑶介氏は、唯一無二の水処理技術を武器に、人類が抱える水問題の解決に挑む。SMFLは、ファイナンスでWOTAの挑戦を支える──両社の邂逅から共創へと至った航跡をたどる。

世界中に、安全な水を。世界初の価値に挑むWOTA

「世界には、暮らしに必要な水が今日・明日にも失われてしまうかもしれない地域がたくさんあります」

こう語るのは、WOTA代表取締役CEO 前田瑶介氏だ。WOTAは、人類の淡水利用に関する問題を解決することを目的に、2014年に設立されたスタートアップ。2016年4月の熊本地震の際には、被災地にポータブル水再生処理プラント「WOTA BOX」の試作機を運び込み、救援活動の一翼を担った。その後も2018年の西日本豪雨、北海道胆振いぶり東部地震、2019年の台風15号(房総半島台風)、台風19号(東日本台風)と繰り返される災害のたび、被災地でシャワー入浴を提供。それらの経験をもとに試作機の改良を重ね、ついに2019年11月、「WOTA BOX」の販売にこぎ着けた。

WOTA株式会社 代表取締役CEO
前田 瑶介 氏

「WOTA BOX」は、6本のフィルターによる濾過、深紫外線照射、塩素添加により水の再生処理を行うが、その工程を水処理IoTセンサーとAIが自律制御する機器だ。一度使用した水の98%以上を再生して循環利用を可能にする。いわば水処理場の機能を10万分の1の持ち運べるサイズで実現している。これまで、13自治体の20カ所の避難所などで、延べ20,000人以上に安全な水を提供してきた。

さらに2020年7月、WOTAは世界初の水循環型ポータブル手洗いスタンド「WOSH」を発表し、販売を開始。ドラム缶サイズの製品ながらフィルターとセンサー、AIを駆使することで、「WOTA BOX」と同様に排水の98%以上を再生。電源さえ確保すれば、わずか20Lの水で500回以上の手洗いを可能にする。新型コロナウイルス感染症の蔓延下、水道に接続できない場所でも設置でき、効率的に水を利用できる利便性が注目され、商業施設やレストラン、オフィス、医療・介護施設などで利用が広がっている。

ポータブル手洗いスタンド「WOSH」の発表とほぼ時を同じくして、WOTAと前田氏を取材したテレビ番組が放映され、視聴していた1人の金融マンをうならせた。三井住友ファイナンス&リース(SMFL)執行役員 新都心営業部長の葭田正司。心を打たれたそのとき――2020年7月の記憶は今も鮮明だと彼は言う。

SMFL 執行役員 新都心営業部長
葭田 正司

「番組で前田社長がこう語られた。『2050年には世界中で40億人が水ストレスを感じることになる。日本国内でも上下水道事業の収益悪化やインフラ老朽化の問題は深刻。水問題は今、真正面から取り組むべき課題だ』と。公衆衛生を支えるインフラの改革という高く大きな視野で事業を展開される姿に、衝撃と感銘を受けました」(葭田)

これは当社がファイナンス面で支援するべきだ――葭田はそう直感したという。WOTAとの共創が実現すれば、SMFLのOur Visionの1つ「SDGs経営で未来に選ばれる企業」の体現にもつながる。番組放映の翌日、早くも葭田は前田氏にアプローチするべく、SMBCグループ内の人脈を探り始めた。

世界初の水循環型ポータブル手洗いスタンド「WOSH」。98%以上の水再生循環により、水道いらずで、電源さえあればどこにでも設置できる。公衆手洗いの概念をアップデートする

世界人口の1/4が水問題に直面。日本も他人事ではない

前田氏が警鐘を鳴らす「暮らしに必要な水が失われる」とは、そもそもどのような問題なのだろう。「そこには『水不足」と『水汚染」の2つがある」と前田氏は指摘する。

「水不足」は、水資源が枯渇すること、すなわち供給の問題である。世界では、古代メソポタミア文明を育んだユーフラテス川が流れるシリアや北米のコロラド川流域など、古くから豊かな水の恩恵を享受してきた地域で、今、人々が水の枯渇に直面している。2018年、南アフリカの大都市ケープタウンが、人口増加と干ばつの影響で水が使えなくなる、いわゆる「デイ・ゼロ」(Day Zero)の危機に瀕したことは記憶に新しい。

もう1つの「水汚染」は、人が出す排水で水源が汚れ、水が使えなくなること。要は水処理の問題だ。下水処理施設・衛生施設の普及率の低さ、廃棄物の不法投棄などが背景にある。

国連広報センターの「SDGs報告2021」に、次のような数字が示されている。2020年現在、安全に管理された飲料水を日常で利用できない人は世界で約20億人(世界人口の約26%)、安全に管理された衛生施設(トイレ)を利用できない人は36億人(同46%)、さらに23億人(同29%)が基本的な手洗い設備を使えずに暮らしている。

前田氏は、「2050年には、世界人口の40%、つまり人類の半数近くが何らかの水問題に直面するといわれています。特に島嶼部とうしょぶは深刻で、地域によっては10年以内に人口の約3割が水を使えなくなるという深刻な状況に陥っています」と事態の切迫を指摘する。SDGsの17目標の6番目「安全な水とトイレを世界中に」は、喫緊の対応が必要とされている世界的課題なのだ。

前田氏はさらに、「水問題は日本にとっても他人事ではない」と訴える。降水量に恵まれ、充実した水インフラ(上水道普及率98%超、汚水処理人口普及率92%超=2019年度)を誇る日本だが、「上下水道の事業は現在、毎年4兆円の赤字を計上するなど、財政状況は危機的です。特に過疎地域の水道事業は約3分の1が赤字経営とみられています」(前田氏)。

インフラの老朽化も著しい。厚生労働省によると、2020年3月末時点で、全国の水道の基幹管路のうち耐震補強が済んでいるものは半分以下の約41%、浄水施設の耐震化率は約33%、配水池では約59%。「私たちの子どもや孫の世代まで、現在と同レベルの上下水道サービスを提供し続けられるかはかなり不透明です」(前田氏)。日本では、水処理機構の安定的な存続が揺らいでいるのである。

深刻な「水問題」

出典:「SDGs報告2021」(国連広報センター)
出典:総務省「平成30年版地方財政白書」/総務省「平成27年度地方公営企業年鑑」

プロパンガスのように、自律分散型の上下水道を

前田氏が水問題に関心を抱くことになったきっかけは、中学時代の2つの経験だった。

1つは、環境問題に強い関心をもつことで知られる元米国副大統領、アル・ゴア氏のスピーチを聞いたこと。もう1つは、地元の徳島県に面する瀬戸内海の島が深刻な水質汚染に見舞われ、その現場を見学したことだった。「どこであれ、人が活動すれば水は汚れるんだ」と目の当たりにした前田少年は、「誰もが手軽に水を浄化できる仕組みを身近な材料でつくれないだろうか」と考えるようになった。高校時代には、納豆のネバネバ成分(ポリグルタミン酸)を抽出し、水中の汚れの凝集沈澱処理に用いる薬品の研究に没頭した。

2011年春、東京大学理科一類への進学が決まって上京した前田氏は、東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)を経験する。都市のライフラインの脆さを痛感し、「土木ではなく、建築の立場から水問題を考える必要」を認識したという。

「上下水道を含む都市インフラは土木の領域ですが、各住宅の上水と下水を設計するのは建築分野の給排水・衛生設備です。私は『建築のスケールで水処理ができないものか』と考えました。たとえば都市ガスに対してはプロパンガスがあります。上下水道にも、プロパンガスに相当するものがあってしかるべきだと思います」(前田氏)

工学部(建築学科)から大学院(工学研究科)に進み研究を続けた前田氏のそんな情熱が、WOTAに参画して結実したのが「WOTA BOX」「WOSH」の2製品だった。そこに搭載された技術の特殊性を、前田氏はズバリひと言で「自動化」だと解説する。

「水処理は従来、極めて属人的なノウハウで制御されてきました。担当者が現場で目視し、においを嗅いで判断する。対してWOTAの製品は、水処理のセンシング技術、水処理を自律制御するアルゴリズム、さらに水処理を遠隔制御するデータ管理技術により、それらを自動化したのです」(前田氏)。WOTAが実現した自動化の機構は、「非常に小規模に」「非常に高い効率で」かつ「高度の安全性をもって」水処理を行うという3つの価値を提供する。もちろん、世界初の快挙である。

水問題の解決に挑む、WOTAの「小規模分散型水循環システム」

都市ガスに対してプロパンガスがあるように、上下水道にも分散型システムを選択肢に。WOTAは、小型で高再生率、高い安全性(飲用可)の分散型水循環システムを提供して、水問題の解決に挑む

WOTAとSMFL。それぞれの想いが合流する

さて、前田氏につながる人脈を葭田が掘り起こしていたSMFLの社内では、別の部署でもう一筋、WOTAへと向かう水脈が生まれようとしていた。葭田と同じテレビ番組をみた取締役 専務執行役員の関口栄一が、前田氏にもっと話を聞いてみようと動いていたのである。関口と葭田、2人の金融マンの心に発した思いはすぐに合流し、WOTAとの協業を目指す流れに勢いがつく。翌8月、両人はWOTA・前田氏と顔合わせの機会をもち、前田氏の話に耳を傾けた。

前田氏の言葉は、2人を惹きつけ確信させるに十分なものだった。「水問題に取り組むことの重要性を語る熱意に、ご一緒したいという気持ちがさらに高まりました」(葭田)。

一方、前田氏はこの急展開に、当初は戸惑いを感じたという。しかし面談を通してすぐに喜びへと変わった。「『世界の水問題を解決する』という私たちのパーパスと、それを実現するための被災地支援の意義を初めから深くご理解くださり、その上で共創したいというお話を頂戴しました。心強く、幸せなことだと感激しました」(前田氏)。SMFLからの支援の提案は、前田氏がかねてから温めていた「水インフラのコスト構造と密接に関わりながら水インフラにゲームチェンジをもたらす」という事業構想にぴたりと合致するものでもあった。

水問題という、すぐそこに迫る危機への挑戦に向け、異なる2つの源――WOTA、そしてSMFLから流れ出た二筋の熱流――が落ち合った。流れは一気に速度を増した。

※ 新型コロナウイルスをはじめとする感染症予防対策を取った上で、取材・撮影を実施しております。

(内容、肩書は2022年3月時点)

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