WOTAと共に、深刻化する水問題解決に挑むSMFL。目指すのは、水インフラのアップデート

Fresh Water Innovation(後編)

「共創」という新たな船出を目指して動き始めたWOTAとSMFL。だが出航に至るまでの道のりは、必ずしも平たんではなかった。直面したのは、「スタートアップに対する審査」という厚い壁。歩みは幾度となく阻まれ、進捗は鈍る……それでも諦めることなく道を探り続けた両社は、およそ1年2カ月をかけてその壁を突破し、リース取引の成約に至る。その間、支えになったのは、当事者たちの志だった。両社の共創までの舞台裏と、各人が今、思い描くビジョンを聞いた。

新しい水インフラの普及へ。構想が、動き始めた

2020年8月、WOTAと三井住友ファイナンス&リース(SMFL)での検討ミーティングの席上に、SMFL 新都心営業部の船井敦が同席していた。のちに船井は、WOTAのメイン担当として、各方面との折衝や説得に奔走することになる。

その場に臨んだときの心境を振り返って船井はこう打ち明ける。「半信半疑でした。前田社長の思い 、日本で水インフラを新たに立ち上げる意義とは? どんな事業をWOTAさんは手がけているのか? 私たちのビジネスの守備範囲で、WOTAさんとご一緒できることが本当にあるのか?──あれもこれも、正直なところ、当時はまったく理解できていなかったのです」

WOTAが創業6年目のスタートアップという点も、船井が躊躇した要因の1つだった。「ファイナンス面での支援としてはリース取引がありますが、一般的にスタートアップ企業様との取引には審査に非常に高いハードルがあり、一筋縄にはいかないものです。当時の自分にはあまりにも経験が不足していました」(船井)

船井がためらいを感じたことに「無理もない」と理解を示すのは、WOTA 管理本部長の髙木正広氏だ。都市銀行出身という自身のキャリアのフィルターを通して回想する。「初めてSMFLさんとお目にかかった2020年夏の時点でも、その後にも、WOTAに潤沢な資金があったわけではありません。与信面からみると『すぐに取引を』という状況ではなかったはずです」(髙木氏)

WOTA株式会社 管理本部長
髙木 正広 氏

ところが、悶々としていた思いとは裏腹に、面談が始まるや否や船井の視界は開けていった。「前田社長や髙木さんのお話を伺いながら、何か吸い込まれるように心惹かれたのを覚えています。事業にかける熱量。それを実現するためのプロセス。その素晴らしさは、水インフラの知識がまだ十分とはいえなかった私でも『これは……すごい』と直ちに分かりました。ぜひご一緒して、何かのかたちにしなければ、とその場で固く決意したのです」

諦めない。担当者の強い意志が、組織を動かす

早速、船井はWOTAとの共創のかたちを模索し始めた。だが予期したとおり、SMFL社内で決裁を得ることは簡単ではなかった。立ちはだかったのは、「スタートアップに対する審査 」の壁。その頃の船井の奮闘を髙木氏は、今になってこう推し計る。「WOTAは財務基盤が脆弱なスタートアップ。しかも扱うのは類例すらない世界初の製品です。そんなリスクを引き受けてまで支援に乗り出す企業など、そうそうありません。船井さんは相当なご苦労をなさったのではないでしょうか」

それでもその壁が、奔流ほんりゅうと化した船井の意志を堰き止めることはなかった。当時は水循環手洗いスタンド「WOSH」が発表された直後。テレビやWEBなど多くのメディアが取り上げ、WOTAとその製品への関心が高まりつつあった。まさに、追い風が吹いていた。船井はWOTAとの協議を重ねる。水問題の重要性、WOTAの事業、そして製品に対する理解を深めた。取引の意義を社内の審査部門に粘り強く伝え続けると同時に、WOTAへの支援として「SMFLとして何ができるか」を考え抜いた。同じグループの三井住友銀行(SMBC)への働きかけも行った。

審査部門との協議と並行して、「WOSH」の販売・普及面でのサポートとして “ ベンダーリース(中小企業向けの小口販売金融)での協業 ” や “ レンタルサービスでの協業 ” の道も模索した。

SMFL 新都心営業部 部長代理
船井 敦

2021年3月、SMFLのリテール部門でのベンダーリースの取り扱い開始。同年5月、グループ会社のSMFLレンタルにより、2週間の短期レンタルの取り扱いがスタート。一連の協業や協議を通し、WOTAの事業や技術力に対するSMFLの理解はさらに深まっていった。それに伴い、固かった「スタートアップに対する審査」の壁が崩れ始めた。そして10月、WOTA本社のオフィス移転に伴う内装設備のリース契約を締結。“ 半信半疑 ” が確信に変わったあの日から1年2カ月余りを経て、船井の思いは、ついに実を結んだ。

立ちはだかる壁を打ち破ることができた決め手は、何だったのだろうか。船井は振り返り、その源泉はやはり、「水問題の解決に寄せるWOTAの熱い志」だと考える。「WOTAさんの活動の熱源は、社会的な使命感です。私たちはそこに共感し、『ご一緒したい』という強い意志で行動してきました。そして、そんなWOTAさんの志がSDGsの目標に直結していることも、社内で理解を得る大きな力になりました」(船井)

水は、災害現場にも欠かせない

水道のない場所での水利用を実現する、ポータブル水再生プラント「WOTA BOX」。災害時に上下水道が断水しても、気持ちのよいシャワーを浴びることができる。WOTAは、2018年の西日本豪雨をはじめ、多くの避難所で延べ数万人以上の入浴支援を実施している

ファイナンスで、世界初の挑戦を後押し

WOTAにとって、SMFLとのパートナーシップにはどのような意義があるのだろうか。

髙木氏は「ベンダーリースは、一括支払いでは購入に二の足を踏みがちなエンドユーザーの背中を、リースという選択肢が押してくれる」と言及した上で、「でもそれ以上に、『世界初の挑戦へのファイナンス支援』という実績が大きいのです」と力を込める。「SMFLさんが核となって、SMBCさんを紹介してくださり、そこからSMBCグループのベンチャーキャピタル・証券会社などの方々とのお付き合いにもつながっていきました。さらにSMFLさんやSMBCさんとの取引が信用となって、ほかの金融機関との取引も始まり、理想的な連鎖ができていったのです。先陣を切るというリスクは誰も取りたがらないものですが、SMFLさんはためらいなく走り出してくださった。そのおかげです」(髙木氏)

WOTA株式会社 代表取締役CEO
前田 瑶介 氏

隣で、WOTA代表取締役CEOの前田瑶介氏も頷く。「グループ全体を巻き込み、間接金融での支援について最初にコミットしてくださったSMFLさん。そして、被災地の避難所で初めてみる私たちの製品を最初に使ってくださった方々、最初にご出資くださった投資家様、世界初の方法で世の中を変革する上で最初にコミットくださった方々への感謝は特に尽きません。信頼・信用という点でまだ実績のない企業や製品を、まずは信じて、使って支えてくださること──世の中を変えるという挑戦の本質は、きっとそこにあります。そんな人たちこそが世の中を変革するのです」(前田氏)

目指すのは、水インフラのゲームチェンジ

WOTAの技術は、既存の水処理プラントの課題解決にも応用することができる。WOTAは今、水処理プラントのDXにも挑もうとしている。水問題をさまざまなフェーズで1つずつ解決してきたWOTAの最終目標が、水道に代わるインフラの提供である。

インフラのゲームチェンジを実現する鍵は何か。前田氏は「最速化」と断言する。「私たちの目標はシンプルです。現時点で、環境への負荷や柔軟性、安全性においては既存の仕組みよりも優れています。残る課題はコスト。端的にいえば、水道料金よりも安く提供すること。これさえできれば、私たちの仕組みが普及しない理由がなくなります。弊社の水処理システムに関し、一定の技術実証はすでに済んでいるので、これからはコスト低減と、それを踏まえた普及をどれだけ速められるかが問われます」

普及の速度を左右するのは、何といってもコストである。「製品を量産化できればコストは下がる。製造業と同じ論理です。そして使用される回数が増えるほどデータが増大し、データからの学習機会が増え、アルゴリズムの精度が高まり、水処理の効率が上がることでさらなるコスト削減につながる。エンドユーザーが求める価値の実現、新たな製品開発、そして低コスト化による普及の加速。これらすべてが、日本だけでなく世界の水問題を最速で解決することにつながると考え、事業を進めています」(前田氏)

この構想の実現に向けて髙木氏は、「これからもSMFLさんと共に前進したい」と語る。「WOTAはモノをつくる会社です。エクイティ・ファイナンスやリースなどのスキームを活用していかないと、十分な設備投資が難しく、生産効率が落ちてしまう。次のフェーズに向けて、これまでSMFLさんと築いてきた関係をさらに堅固にし、引き続きご支援いただけるように努めていきます」(髙木氏)

一方、SMFLは今後、何を目指すのか。船井はWOTAとの現状を「共創のまだ入り口」ととらえ、製品の販売にとどまらない新たな支援に向けてすでに動き始めている。すなわち、使った分だけの水を販売する従量課金方式の実現だ。

さらに、世界を見据えた新しい取り組みのビジョンをもっている。「先日(2022年1月15日)、トンガの海底火山で大規模噴火が発生し、飲料水の確保が最優先課題となりました。世界ではさらに、人口増加、大規模水害、温暖化による海面上昇など、水問題が至る所で顕在化しています。WOTAさんの製品は、これらを解決に導く可能性を秘めている。それゆえ今後は、海外での販売支援も視野に入れています」(船井)

WOTAとのパートナーシップは、船井の心の底にあった水源にも改めて光を当てたようだ。「私たちの視界も、世界へと広がっています。ただ私個人にとって最も大切な原点は、お客さまに対して何ができるかを常に考え続けること。WOTAさんとの取引開始に至るまでの難路は、そのことを再発見させてくれました。これからもさまざまな壁に当たると思いますが、前田さんや髙木さんとのやりとりを胸に刻んで前進していきます」(船井)

WOTAとSMFL、各者の思いが合流して生まれた共創から、未来に向かう何条もの新たな流れが溢れ出している。

※ 新型コロナウイルスをはじめとする感染症予防対策を取った上で、取材・撮影を実施しております。

(内容、肩書は2022年3月時点)

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