ビジネスに役立つ「サステナブル・ファイナンス」

2021年1月、三井住友ファイナンス&リース(SMFL)は、海運業界の脱炭素化を金融面から支援する国際的な枠組み「ポセイドン原則」※1に署名・参画することを発表した。同原則への加盟はリース会社としては世界初。SDGs経営を成長戦略の柱とする企業として、持続可能社会の構築をけん引しようという姿勢の表れともいえる。参画の経緯・狙いを紹介する前段として、まずはサステナビリティ実現に向けて企業が果たすべき役割と、その最新潮流を確認しておきたい。『ビジネスパーソンのためのSDGsの教科書』の著者である日本総合研究所常務理事の足達英一郎氏に解説をお願いし、SMFL広報IR部長の澤口保津美が聞き手を務めた。

※1 国際海事機関(IMO)が2018年4月に採択した国際海運から排出される温室効果ガスの中長期削減目標を踏まえ、海運業界の気候変動リスクへの取り組みに対して金融面から貢献することを目的に、2019年6月に欧米の11金融機関により設立された。署名した金融機関は、ファイナンス対象の船舶について毎年CO2排出量削減努力の達成度を評価し、船舶ファイナンスポートフォリオ全体のCO2排出量削減寄与度を算出・公表する

自社のビジネスと自然資本との関わりを正しく把握すべき時代に

澤口 2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、企業各社にも、積極的な取り組みが求められています。当社では2020年4月に経営理念・経営方針を「SMFL Way」として再定義し、《SDGs経営で未来に選ばれる企業》を「Our Vision」の1つに掲げました。事業を通じて社会課題の解決に取り組み、社会の持続的発展に貢献する考えです。ここで改めてサステナブル社会の実現に向けた企業の役割を確認しておきたく、まずは金融機関に深く関わるトピックとして、今年(2021年)6月に発足した「TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)」に関し、解説をお願いできますでしょうか。

株式会社日本総合研究所 常務理事
足達英一郎氏

足達 そうですね、TNFDとは、大づかみに言うと、これまで自然からタダで得ていた恵みを貨幣換算し、その情報を開示するよう金融機関に求める国際イニシアチブです。人類はこれまで、石油・石炭、森林、水などの天然資源や自由財を、いわば対価を支払わずに手に入れて経済活動を行ってきましたよね。しかし1990年代になり、その行為に大きな代償が伴うことに気づいたのです。すでに指摘されていた資源の枯渇問題に加え、そうした経済活動を重ねるほど温室効果ガスが排出される。気候変動が生じ激甚な自然災害などのリスクが高まる恐れがある。そこで、1992年のいわゆる「地球サミット(環境と開発に関する国際連合会議)」において、気候変動枠組条約と生物多様性条約が採択されたわけです。

それから約25年を経た2016年、まず「TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)」が金融安定理事会(FSB)※2の呼びかけで設置されました。金融機関の事業や資産が気候変動とどう関わっているのかをきちんと評価して、自ら開示するための国際的なイニシアチブです。評価を行うには、金融機関が投融資する企業においても気候にどんな影響を及ぼしているかを調べる必要があり、実質的に一般の事業会社にも情報開示を要請することになりました。

澤口 先に、「気候」に関連するリスクと機会をきちんと評価・開示する取り組みとして「TCFD」があり、今回、新たに「自然資本」との関わりを開示するイニシアチブとして「TNFD」が設立されたわけですね。

※2 金融安定理事会(FSB、Financial Stability Board)は、主要国の金融当局で構成される、国際的な金融システムの安定を目的とする組織。1999年に設立された金融安定化フォーラム(FSF、Financial Stability Forum)を前身とし、FSFを強化・拡大するかたちで2009年4月に設立。主要25カ国・地域の中央銀行、金融監督当局、財務省、主要な基準策定主体、IMF(国際通貨基金)、世界銀行、BIS(国際決済銀行)、OECD(経済協力開発機構)などの代表が参加(2020年末時点)

TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)

設立日 2021年6月4日
目的 自然環境に負の影響を与える資金の流れを転換させ、自然環境に良い影響をもたらすことを目的とする。事業会社や金融機関が自身のビジネスの自然への依存度や自然に与える影響を評価、管理、報告するための枠組みをつくり、自然関連のリスクを評価したうえで、財務上の情報開示を求める取り組みである。
設立機関 UNDP(国連開発計画)、UNEP FI(国連環境計画・金融イニシアチブ)、WWF(世界自然保護基金)、グローバルキャノピー
当然ながら企業の活動は、自然に依存し影響を与えているが、これまでは自然破壊のコストを負ってきたのは社会であり、企業はそのリスクやコストを負担してこなかった。その矛盾を埋める取り組みとして「自然関連のリスクを評価し、世界の資金の流れの変容を促す」(出典:WWF)ものとして期待されている。

足達 その通りです。本年(2021年)に入って、TNFDが正式にスタートしました。TNFDは、FSBの呼びかけによって誕生したものではありませんが、言わば、TCFDの「自然環境版」とお考えください。たとえば半導体を製造するには、大量の水が必要ですね。半導体メーカーは自然からの恩恵として水を使う一方、生態系に何らかの影響を及ぼす可能性も抱えているわけです。その恩恵や、自然への負荷に関するコストがいくらになるのかを試算して公開する、というのがTNFDの基本的な考え方となるでしょう。

澤口 開示しない企業に対して、ペナルティなどはありますか?

足達 それは特に想定されないでしょう。しかしESG(環境・社会・企業統治)投資に取り組む機関投資家などからは、非開示に対して厳しい評価が下されることになります。また、そうした企業には市場からご退場願おうという動きも出始め、TNFDが発足したことでその傾向ははっきりと強まりました。ですから企業は、自分たちのビジネスが自然資本とどのように関わっているのか、バリューチェーン全体を点検して具体的にしていき、次に、自然に負荷をかけない代替手段はないかを検討する。そのうえで、自分たちの事業が自然に及ぼす影響度合いの試算が求められています。

ポジティブなインパクトを効果的に創出

SMFL 広報IR部長 兼 企画部 部付部長
澤口保津美

澤口 ESG投資の現在の潮流についてもご解説ください。昨今、非財務情報に対する投資家の関心は著しく高まっていますね。

足達 ESG投資は2000年代半ばから使われるようになった言葉です。2000年に「人権の保護」「不当な労働の排除」「環境への対応」「腐敗の防止」について、民間企業と国連が一緒に取り組んでいく枠組み「国連グローバル・コンパクト」が発足したことは広く認識されているかと思います。次いで機関投資家や金融機関向けに同様の枠組みをつくろうと、当時のアナン国連事務総長が提唱し、2006年にPRI(責任投資原則)が策定されました。このときPRIが打ち出した考え方が、E(環境)・S(社会)・G(ガバナンス)のファクターをしっかりマネジメントしている企業は長期的な投資対象にふさわしい、というものでした。投資リスクを最小限に抑え、事業から生じるポジティブな収益を大きく享受できる投資機会とみなせるからです。その後、化石燃料の規制が強化されたり、激甚な自然災害が頻発したりするなかで、ESGに配慮しない企業の資産は長期的に見て確かに優良ではないと判断する投資家たちが増えてきました。この流れを受け、ESG投資や広く「サステナブル・ファイナンス」など、つまり環境問題や社会課題の解決促進に資金を流す手法・活動に関し、さまざまな枠組みや規制が生まれつつあるのが現在の状況です。

澤口 サステナブル・ファイナンスも今や必要不可欠ですね。

足達 おっしゃる通りです。企業総体として、環境側面への配慮、社会側面への配慮、マルチステークホルダーに目配りしたカバナンス態勢の構築などに優れていれば、結果的に有利な資金調達ができるようになるというESG投資に対して、サステナブル・ファイナンスは、ズバリ、地球と社会の持続可能性に貢献する製品・サービスに資金を誘導しようとするもので、インパクトが明確です。たとえば、環境改善に資する革新的な技術を有するベンチャーは、インパクト投資の対象に入ってくる。そうした技術や知見に対して、金融機関は得意とする目利きや評価の手腕を存分に活かしていただきたいですね。

「サステナビリティ」を軸に企業の成長を支援

澤口 SMFLでは再生可能エネルギー関連で太陽光・風力・バイオマス・中小水力・地熱といったさまざまな分野のファイナンスサービスの提供をはじめ、PPA(自家消費型太陽光発電)事業の開発・運営も行っています。先ごろは「ポセイドン原則」に署名・参画し、国際海運事業者のサステナブル施策を支援し始めたところです。環境分野以外にも、新型コロナウイルス感染症対策として群馬県で簡易CT検査室の設置をサポートしたほか、サテライトオフィス事業に参画しニューノーマルなオフィス環境を提供するなど、地域の課題解決や働きがいの向上にも取り組んでいます。サステナビリティの観点は、 案件の取り組みや事業参画を判断する上でとても重要な要素といえます。

足達 まさに事業の目利きに長けておられるのですね。

澤口 2019年からはSDGsリース「みらい2030 ミライニーマルサンマル ®を本邦初の取り組みとして提供しています。リース契約料の一部をSDGsの達成に資する公益財団法人またはNPO法人向けに寄付する “ 寄付型 ” と、再生可能エネルギーや省エネルギー関連設備のリースを対象にした、導入効果やお客さまによるSDGsへの取り組みなどの評価書をセットした “ 評価型 ” の2種類があります。また、メーカーとの販売金融取引や自治体との共同によって、SDGsリースのスキームを開発・提供しています。当社は大企業から中小企業までさまざまなお客さまと取引させていただいていますが、お客さまのSDGsへの取り組み・関心の程度は多様です。なかには、「何から取り組んだらよいのかと悩まれる方もいらっしゃるので、そうした企業にも大きな負担をかけることなくSDGsにコミットしていただく、もしくは意識を向けていただく──そのきっかけづくりになることも、SDGsリースの持つ意義の1つだと思っています。

足達 大切な着眼点ですね。

SMFLグループのサステナブル・ファイナンス(一例)

プロジェクト 内容 関連するSDGsゴール
PPA
(自家消費型太陽光発電)
太陽光発電設備を無償で設置し、発電された電力を使用者であるお客さまに供給するサービス。カーボンニュートラルの実現に向けて、導入が進んでいる。 SMFLグループではオンサイト型だけでなくオフサイト型PPAも提供している。
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CT in BOX
SMFLはコロナ下の医療現場をファイナンスで支援。高崎総合医療センター(群馬県)の屋外駐車場にGEヘルスケア・ジャパンの感染症対策簡易CT検査室「CT in Box」を設置。屋外設置可能な簡易CT検査室の導入は日本初であった。
ZXY(ジザイ)
(株)ザイマックスが推進する法人向け会員制サテライトオフィスサービス「ZXY(ジザイ)」に関する事業展開パートナーシップを締結。働き方の多様化を支えるため、個室を多く配置した高セキュリティのワークスペースを提供。首都圏の都心部・郊外を中心に171拠点で展開 (21年8月末時点)。
SDGsリース
「みらい2030®
お客さまがSDGs達成に貢献できる業界初のサービス。
リース料の一部を、SDGs達成に資する公益財団法人またはNPO法人に寄付する “ 寄付型 ” と、再エネや省エネ関連設備のリースを対象に導入効果やお客さまのSDGsへの取り組みなどの評価書をセットする “ 評価型 ” の2種類がある。

寄付型

評価型

澤口 リース会社の強みの1つは、モノの目利きができることから、与信上の制約等で銀行などが融資しにくい案件にもモノの価値を判断してお客さまにサービスを提供できる点にあります。またリース会社は、モノを介することでより身近でより具体的に、お客さまのSDGsの取り組みをサポートできると自負しております。

足達 おっしゃる通りリース会社は、事業会社さんが「もっと効率を高める策はないものか」と悩んだときの身近なパートナーですね。ここまで、脱炭素に向けて金融機関が果たすべき役割の大きさをお話ししてきましたが、その期待に存分に応え得るポジションにリース会社はいます。SMFLさんがSDGs経営を進めることには大きな意義があると再認識できました。

澤口 ありがとうございます。今後も世の中の動きをキャッチしながら、金融の枠を超えたさまざまなソリューションを提供することで、お客さまのSDGs推進をサポートできる事業やソリューションを展開してまいります。

※ 新型コロナウイルスをはじめとする感染症予防対策を取ったうえで取材を実施しております

(内容、肩書は2021年10月時点)

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