SMFLグループの挑戦を追う。脱炭素化への取り組みと、多様な人材で切り開く未来。

長期目線で描く、SMFLグループの航空機リースビジネス

航空業界は今、温室効果ガス(GHG)の排出削減という大きな挑戦のフェーズに突入している。コロナ禍が終息し旅客需要が堅調に回復する傍らで、環境対応を求める社会的要請が厳しさを増しているのだ。世界の商用航空機の約5割を保有する航空機リース業界には、航空会社をはじめ多方面から脱炭素化に向けて大きな期待が寄せられている。世界第2位の航空機リース会社である三井住友ファイナンス&リース(以下、SMFL)グループは、気候変動への対応という責任と期待を新たなチャンスへ転じるべく、戦略を練る。前編に続き、SMFLの専務執行役員・渡部信一郎と、SMBC Aviation Capital Limited(以下、SMBC AC)のCEO・Peter Barrettがその可能性を語る。

航空業界の脱炭素化へ向けたさまざまな取り組み

SMFL専務執行役員
トランスポーテーション部門統括責任役員
渡部 信一郎

航空機リース事業はSMFLにとって、グループの成長を推進する主力エンジンである。SMFLの2024年3月期の利益のうち約4割を占めるなど、「航空機リースはメインストリームの事業として当社の業績を力強く支えています」と、SMFLで航空機リース事業などを展開するトランスポーテーション部門の統括責任役員を務める渡部信一郎は言う。

ただし、それだけではない。SMFLグループの一角をなすSMBC ACのCEO・Peter Barrettは「我々の手がける航空機リースビジネスには、航空業界の脱炭素化をリードできるポテンシャルがあると考えています」と明かし、ひそかな自負をのぞかせる。三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)や、住友商事などのグループ企業とともに、顧客である航空会社の脱炭素化促進に向け重要な役割を果たし得る──というのだ。

世界の二酸化炭素排出量の3%近くを航空業界が占める。しかし、現時点では化石燃料に依存しているため、脱炭素化のための選択肢は限られている。それゆえ「脱炭素化が最も難しく、時間もかかる業界の1つ」との指摘もある。しかし今、脱炭素へのシフトは業界を問わず待ったなしの状況だ。航空業界でもICAO※1が、2050年カーボンニュートラルの長期目標を2022年に採択。2024年以降、国際航空分野における温室効果ガス排出量を「2019年の85%以下に抑える」との目標が掲げられた。2027年に義務化されるこの目標を達成できない場合、航空会社はカーボン・クレジット(温室効果ガスの排出削減実績を売買する仕組み)を購入してオフセットする必要に迫られる。2027年まであと3年。世界中の航空会社にとって「脱炭素化」は文字通り喫緊の課題だ。

  • ※1国際民間航空機関(International Civil Aviation Organization)。国連専門機関の1つ(経済社会理事会管下)。世界190以上の国と地域が加盟。

「SMFLグループは脱炭素化においても今後、業界をけん引する可能性を大いに秘めているでしょう」と渡部も言う。今回、SMFLグループの脱炭素化への取り組みを、①新技術の導入・普及促進、②高品質なカーボン・クレジットをめぐるビジネスチャンスの探求、③サーキュラーエコノミーの推進支援、という3点から読み解く。1つずつ見ていこう。

脱炭素ポテンシャル①燃費効率の良い次世代機、SAFなど新技術の導入を促進

SMBC Aviation Capital CEO
Peter Barrett

1点目は技術面で、先端環境技術を導入する際の優位性だ。航空機リース事業には、自社保有による運航に比べて、より長期目線の経営戦略に立脚して事業を展開しやすいという強みがある。そのため、ともすると初期投資コストが経営を圧迫しかねない新技術の導入にも積極果敢に取り組めるのだ。「従来の航空機に比べ、燃料の消費量が15〜20%程度少ない最新の機材を導入し始めています。機材についても、燃費効率の良い新世代機材を、2026年3月末までには自社保有分の8割にまで増やす予定です」(Barrett)

技術面ではもう一つ、CO2排出量削減の切り札とされる「SAF(Sustainable Aviation Fuel)」(ジェット燃料に代わる持続可能な航空燃料)を、SMFLグループを挙げて航空会社に安定供給するビジネスの可能性がある。

SAF関連の技術開発は着実に進んでいる。バイオマスや廃棄物を原料とするもの、工場から出るCO2を化学分解して作るものなど、その種類はさまざまだ。ICAOの予測では、バイオマス・廃棄物由来のSAFと、石油由来の低炭素ジェット燃料が、2040年ごろには航空燃料の主流になるとされ、さらに2050年以降は、大気中のCO2由来のSAFや水素燃料も、航空機で使われるようになると見通している。

最大の課題は安定的な供給の確保だ。その点について、渡部の言葉には自信がにじむ。「SMBC ACは、世界の航空会社のおよそ8割とさまざまなかたちで取引しており、SMFLグループ全体ではさらに広がります。この広範なネットワークを駆使することで、安価で高品質なSAFを確保し、安定的に供給するビジネスを展開したいと考えています。SAFの普及にも強力な支援ができるはずです」(渡部)

航空分野での脱炭素化施策に力を入れる欧州連合(EU)は、先進国の航空会社に対して今後さらに厳しい基準を適用する予定だ。2025年以降、燃料事業者には通常の航空機燃料にSAFを混合した「SAF混合燃料」の供給が義務付けられ、EU域内の空港から飛び立つ航空便もSAF混合燃料の搭載が義務化される見通し。EUはその混合率を、2025年で2%、2030年で6%、2050年で70%と段階的に引き上げる方針だ。

これを踏まえてBarrettは「航空会社の競争力は今後、SAFの調達力に大きく左右されることになります」と読む。SMBC ACとしても、SAFを含むソリューションを航空会社に提供できれば、航空会社そしてSMBC AC双方の業績向上を図れる。まさに “ Win-Win ” となるそんな長期戦略の策定作業が、SMFLグループでは現在進行中なのだ。

ジェット燃料に代わる持続可能な航空燃料「 “ SAF ” 」

SAFは、CO2排出量削減の切り札とされている次世代燃料。SMFLグループは、広範なネットワークを駆使し、航空業界へのSAFの安定供給に貢献する可能性を持つ。

脱炭素ポテンシャル②高品質なカーボン・クレジットをめぐるビジネスチャンスの探求

“ 優位なポテンシャル ” の2点目が、高品質なカーボン・クレジットだ。カーボン・クレジットとは、削減したCO2をクレジットとして取引可能にしたものである。航空業界においては、SAFや電気・水素燃料など、CO2を完全に排出しない方法が開発されるまでの暫定的な解決策であるが、重要な取り組みだ。

2022年、SMBC ACは航空機リース会社初の取り組みとして、カーボン・クレジットを活用した航空会社向けの脱炭素化支援を開始した。SMBC ACは2050年までに、グループの総合力を存分に発揮し、さらなる新機材の導入や、SAFの研究、カーボン・クレジットなど、航空業界の脱炭素化に向けてさまざまな挑戦をすることを掲げている。

SMBC Aviation Capitalの2050年までの環境ロードマップ

脱炭素ポテンシャル③航空機の「ライフサイクル」をマネジメント

3点目は、サーキュラーエコノミー(循環型経済)の推進である。航空機リース事業の周辺には今、サステナビリティの観点で大きな可能性が広がっている。その1つが、サーキュラーエコノミーに通じる「航空機エンジンリース」だ。製造から30年前後という長期にわたり利用される航空機は、その過程で特にエンジンが消耗し、エンジンに限ってはオーバーホール※2されながら運用されることが通常だ。

この点に着目したSMFLは2019年、住友商事と共に航空機エンジンのリース会社であるSMBC Aero Engine Lease B.V(以下、SAEL)を連結子会社化。エンジンリース事業のノウハウ、および、航空機エンジンに関する高度な専門性を備えた人材をグループ内に取り込んだ。渡部は「航空機本体とエンジンとを分けて考え、それぞれのライフサイクルをマネジメントしながらリースを提供することは、結果として双方の利用期間をより長期化することにつながります」と語る。

「航空機の部品の中でも、特にエンジンはハイテク技術の塊です。高価な上に消耗が激しいので、1基をまるごと積み替える時期が来るまでの間も、パーツを入れ替えながら使われます。そうしたメンテナンスによりエンジンを長寿命化することは、機材の耐用年数の長期化にも貢献するのです。さらには、耐用年数の尽きたエンジンを解体(パートアウト)し、各部品を再生してさらに利用していく事業など、SAELの技術力およびパートナー企業であるMTU Aero Engines AGと連携して取り組んでいきます。住友商事が米国で始めた航空機のパートアウトビジネス※3と併せ、SMFLグループのライフサイクルマネジメントは、着実に進化しています」(渡部)

  • ※2エンジンを部品単位まで分解して、部品の洗浄、修理、交換を行い、新品同様の状態に近づけること
  • ※3退役機の調達、部品の取下ろし・修理・販売などを行う

ダイバーシティをけん引。トランスポーテーション部門の軌跡と展望

脱炭素に向けたチャレンジとは別に、もう1つ極めて重要な存在意義が、航空機リース事業を展開するSMFLのトランスポーテーション部門にはある。渡部はそれを「SMFLが誇るダイバーシティを象徴する組織」だと言い表す。

SMFLの航空機リースビジネスは、これまでオーガニックな成長を順調に重ねてきた。渡部はそれに加えて、「M&A(買収・合併)戦略によってインオーガニックな成長をも遂げてきたことが、私たちのダイバーシティの背景にあります」と説明する。海外企業を買収し「グループ化」してきたことで、トランスポーテーション部門は、SMFL内でも人材の多様化が特に進んだ組織となっているのだ。

SMFLの誕生は2007年10月。住商リースと三井住友銀リースが合併し、「三井住友ファイナンス&リース」が産声をあげた。以来、戦略的リース事業のプラットフォームとして位置づけられたSMFLには、両母体グループのリース事業関係者をはじめ多様な人材が結集するようになった。

2018年11月には、SMFLを中核にしてグループのリース事業を再編。SMFGと住友商事の出資比率が50%ずつになったのを機に、人材の多様化が全社的に進んだ。「とりわけトランスポーテーション部門には、先行して航空機リース事業を展開していた住友商事から人材が多く異動し、たくさんのノウハウを教えてもらいました」と渡部は振り返る。

さらに前述の通り、航空機エンジンリースを手掛けるSAELを2019年に連結子会社化。このときには、「航空機エンジンやそのリース事業に関する世界的レベルの高度な知見を備えた専門家たちが集まりました。」(渡部)

現在、SMFLのトランスポーテーション部門は、高度な専門性を有する約440名(SMBC AC、SAELなどグループ会社を含む)のグローバル人材を擁する。そして、SMBC ACを “ 主翼 ” として、航空機リース分野でのさらなる世界展開をにらんでいる。

また、SMFLとSMBC ACの両者の間には、事業を加速させる良好なコミュニケーションが図られている。「両者は、SMFLグループが取り組む航空機リース事業の共同パートナー。Peterと私も、ときには日本の赤提灯の縄暖簾を一緒にくぐり、かんかんがくがく、腹蔵なく意見交換しています」(渡部)

今後イノベーションが進展すれば、電動式の小型ヘリコプターや、貨物だけでなく人間も運べる小型ドローンいわゆるeVTOL(電動垂直離着陸機)などが、リース事業にとっての重要な商材となることが期待される。それらによる新たなモビリティビジネスに挑もうとする企業にとっても、自社のバランスシートの負担を軽減できるリースの活用は、道を切り拓く有力な選択肢となることだろう。

SMFLは2023年、世界トップクラスのヘリコプターリース事業会社でありeVTOLなどの次世代アセットを活用したビジネスを推進するLCI Investments Limitedの株式35%を取得しグループ会社化した。パートナーでもある同社との協働関係を一層深め、グローバルビジネスのさらなる発展を狙う。

渡部は展望する。「高額な機材の数を揃える必要があるビジネスが世界で台頭してくれば、SMFLグループが協力できる余地はさらに広がります。求められる技術やメンテナンス、知見などの面でも私たちは伴走できます。また、新興ビジネスを応援したい投資家の方々とも、SMFLは力を合わせていけるはずです」(渡部)

業界トップ企業として躍進を続けるSMFLグループの航空機リース事業に、これからも目が離せない。

(内容、肩書は2024年8月時点)

SMFL Times「航空機リースビジネス編」動画版

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