リース業界が食のサーキュラーエコノミー実現の鍵となる。食料安全保障問題の顕在化により、生産力向上と持続可能性の両立に注目が集まる日本の農業

リース最前線Vol.26 農業編

国内の食料供給を安定させ、地域社会・経済を支える日本の農業。人手不足などの課題が山積するなか、近年は環境配慮や食料安全保障の観点から国が持続可能な農業を後押ししており、サステナブルな農業振興のためにリース業界が貢献できることは多い。日本の農業の現況と展望、食のサーキュラーエコノミーに関連する動向について、三井住友ファイナンス&リース(SMFL)の常務執行役員 営業推進開発本部長の大村尚之に話を聞いた。

海外市場の開拓──。需給両面の課題解決に向けた “ 変革 ” の兆し

日本の農業は、2021年名目国内総生産(GDP)が約4.3兆円に上る、生産額の国別ランキング(国連調べ)で第11位の一大産業だ※1。地域の経済を活性化させ、コミュニティの維持に寄与するという意味で、とりわけ地方においては重要な産業セクターといえる。一方で、さまざまな課題にも直面している。「特に需要と供給の両面における、人口減少・少子高齢化の影響が懸念されます」と話すのは、SMFLの常務執行役員 営業推進開発本部長の大村尚之だ。

常務執行役員 営業推進開発本部長
大村 尚之

まず供給面についてデータで確認してみよう。個人と法人を合わせた農業経営体の数は、2023年は92.9万件で、10年前(2013年・151.4万件)から約4割も減少した※2。後継者不足による離農・廃業が主な減少要因だ。次に需要面はどうか。「食料・農業・農村基本法」の見直しが行われた1998年から、2020年までの国内における主な農畜産物の需要量の推移を見ると、肉類を除いて横ばいか減少傾向が続いている※3
「人口減少・少子高齢化は “ 食べる人 ”、つまり需要の減少を意味します。需要低迷と農業者減少が重なる現状は、日本の農業の大きな課題となっています」。しかし大村は、「農業が直面するこのような状況を、むしろチャンスと捉える変革の兆しが見えつつあります」と続ける。兆しの一つが、海外市場の開拓だ。

「海外での日本食への関心の高まりから、農林水産物・食品の輸出は2020年に9,860億円と8年連続で増加し、10年で倍増しました。政府は2020年に閣議決定した『食料・農業・農村基本計画』において、農林水産物・食品の輸出額を2025年までに2兆円、2030年までに5兆円とする目標を掲げ※4、取り組みを強化しています。こうした国の後押しもあり、農林水産物・食品の輸出額は、2021年は1兆2,382億円、2022年は1兆4,140億円と右肩上がりで増えています※5

供給面でも変革の兆候が表れている。人口減少・少子高齢化を背景とした農家の後継者不足が、結果として国内農業の課題の一つである「農地の集約化」を促しているのだ。

「2003年に1.6haだった1戸当たり農地面積は、2023年には3.4haとなり※6、20年間で倍増しました。農地の集約化により営農規模が拡大すれば、機械化が促され、スケールメリットを生かした生産性の向上が進むと予想されます」

出典:農林水産省※2
農業経営体の数(法人・個人)は、2023年は92.9万件。後継者不足による離農・廃業などで、2013年の151.4万件から10年間で38.5%減少した

国民1人・1年当たりの食料消費量の推移(1998~2020年度)

参考:農林水産省※3「食料・農業・農村をめぐる情勢の変化(需要に応じた生産)」(2022年12月)
主要な農畜産物の国民1人当たりの消費量は、1998年から2020年までは大きくは変わっていない。品目別に見ると肉類を除いて横ばいか減少傾向で推移している
  • ※1出典:「世界の農業生産額 国別ランキング・推移」国連(United Nations Statistics Division)
  • ※2出典:2015年と2020年は農林水産省「農林業センサス」、その他は農林水産省「農業構造動態調査」(2023年6月30日公表、2023年6月30日)
  • ※3出典:農林水産省「食料・農業・農村をめぐる情勢の変化(需要に応じた生産)」(2022年12月)
  • ※4出典:農林水産省「農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略」(2020年11月)
  • ※5出典:農林水産省「2023年6月 農林水産物・食品の輸出額」(2023年8月)
  • ※6出典:農林水産省「令和5年農業構造動態調査結果」(2023年6月30日)

農業の機械化進展でリース需要が拡大

農地の集約化・営農規模の拡大と、これに伴う機械化の進展は、農業におけるリース需要の拡大につながっている。
「第一次産業のリース取扱高は、2000年代初頭はリース取扱高全体の0.4%にとどまっていましたが※7、2022年度には1.3%に拡大。このほか農機具の割賦販売やクレジットなどの形で、リース会社が提供するファイナンスサービスが活用されています。取扱物件は、トラクターやコンバイン、田植え機といった農機をはじめ、林業機械や畜産設備、家畜飼料の保管タンク、さらには温度・光・水・養分などの環境条件を自動制御した『植物工場』にいたるまで幅広いです。この需要拡大の背景には、リースと併用可能な国の補助金が後押しになっています」

一例として畜産農家の収益力向上を目的に設備投資などを支援する『畜産クラスター補助金』がある。「リースと併用可能で、イニシャルコスト削減と分割払いの両方のメリットを得られるため、数多く利用されています」と大村は話す。補助金対応のノウハウを蓄積しているSMFLの場合、クラスター補助金の取扱件数は、初年度となる2016年度の37件から、2022年度は304件と大幅に増加している。

集約化と規模拡大、これに伴う機械化のトレンドは今後も続くとみられる。さらに近年では、持続可能な食料供給と環境の保護を両立させる「サステナブル(持続可能)な農業」も求められている。「営農太陽光発電設備や家畜糞尿を使ったバイオガス発電設備などのほか、情報通信技術(ICT)や、ロボット技術、人工知能(AI)などの最新技術を活用した『スマート農業』の活用が不可欠です。ここに新たな投資機会の増加が見込まれ、リースなどのファイナンスサービスの引き合いはさらに増えると考えています」

  • ※7出典:リース事業協会「リース統計(2004年度)」(2005年5月26日)
    およびリース事業協会「リース統計(2022年度)」(2023年5月29日)

ウクライナ危機が再認識させた持続可能な農業の重要性

生産者の減少や高齢化、コロナ禍を契機としたサプライチェーンの混乱、温暖化による大規模自然災害の増加、環境対応の強化など、日本の食料・農林水産業は諸問題に直面する。そこで国は2021年5月、農林水産業や地域の将来を見据えた食料システムの構築が急務となっていることを踏まえて、持続可能な食料システムの構築のため生産性向上と持続性のイノベーションによる実現を目指す『みどりの食料システム戦略』を打ち出した。

2022年2月に勃発したウクライナ危機の影響は、この『みどりの食料システム戦略』の重要性を再認識させることとなった。

ロシアの侵攻により、小麦の一大産地として知られるウクライナからの小麦の輸出が滞り、国際的な穀物相場の高騰を招いている。

「新興国やバイオエネルギー向けの需要の増加により、ウクライナ危機以前から穀物価格は上昇傾向にありましたが、ロシアによるウクライナ侵攻をきっかけに小麦が市場最高値を更新し、トウモロコシや大豆の価格も高水準で推移しています※8

ウクライナ危機は、トウモロコシなどを主原料とする配合飼料の高騰にもつながり、さらには飼料価格の高騰へと影響が波及している。

「米国と欧州連合(EU)は、ロシアとその同盟国であるベラルーシに対して経済制裁を発動。さらに中国が国内流通を優先して輸出を制限しました。ロシア・ウクライナ・中国の3国は世界有数の化学肥料原料の生産国であり、その輸出が停滞したことで需給が大きく窮迫しています」

穀物・飼料・肥料の高騰により、あらためて顕在化したのが『食料安全保障』の問題だ。日本は米を除く穀物・飼料・肥料の多くを輸入に頼る。食品の主原料である小麦の自給率は15%程度にとどまり、家畜の飼料用トウモロコシの自給率は0%、化学肥料原料の自給率もほぼ0%だ。穀物・飼料・肥料の高騰は、輸入に依存した日本の食料システムの持続可能性が脅かされている現実を浮き彫りにし、持続可能な食料システム構築の重要性を再認識させた。

「『みどりの食料システム戦略』は数値目標として2050年までに『化学農薬の使用量50%低減』『輸入原料や化石燃料を原料とする化学肥料の使用量30%低減』『耕地面積に占める有機農業の面積割合を25%拡大』などを掲げ、これらの目標の達成を目指し、肥料・飼料・原料調達において、輸入から国内生産への転換を促しています※9。持続可能なエネルギーの導入や食品ロスの削減も視野に入れており、これらの実現に向け、ファイナンスサービスを通じてリース業界が貢献できることは多いでしょう」

  • ※8出典:農林水産省「世界の穀物需給及び価格の推移」(2023年8月7日)
  • ※9出典:農林水産省「穀物等の国際価格の動向」(2023年8月7日)

エコフィードや営農太陽光などの導入を支援。食のサーキュラーエコノミー実現に貢献するSMFL

「食料・農林水産業の生産力向上と持続可能性の両立、そしてSDGsの達成に貢献するという意味でも、リース業界の果たす役割は大きいです」と大村は言う。SMFLもその一翼を担っている。代表的な取り組みが、「エコフィード」の導入支援や、受け入れ事業者との協業体制の構築だ。エコフィードとは、食品製造工程で発生する副産物や余剰食品、外食産業における調理残渣や食べ残し、小売店の売れ残った食品などの食品残渣を利用して製造された飼料のこと。

「SMFLも2019年から、養豚・養鶏業を営む株式会社ナカショク様(本社:新潟県新発田市)とともに『フードリサイクルプロジェクト』に取り組んでいます。また、循環型養豚を積極的に推進してきた有限会社ブライトピック様(本社:神奈川県綾瀬市)をはじめ、2023年からは全国でエコフィード受け入れ事業者様との協業体制を構築しています。エコフィードの利用は、食品リサイクルによる資源の有効利用のみならず、飼料自給率の向上にもつながります」と、大村はその重要性を強調する。

ほかにもSMFLでは、農地に支柱を立てて上部空間に太陽光発電設備を設置する「営農太陽光」や、食品残渣や畜糞を利用した「バイオマス発電」事業などへのファイナンスも提供している。

「機動的なファイナンスの提供はもちろん、農業、食品製造業、卸売り、小売り・外食と、食のサプライチェーン全体に通じるリース業界として、重要な産業である農業をこれからもサポートしてまいります」

ファイナンスサービスを通じて農業の合理化や食料安全保障に貢献するリース業界の今後と、「ファイナンスの枠を超えたパートナー」として食のサーキュラーエコノミーを支え、持続可能な農業に貢献するSMFLの次の一手に注目だ。

(内容、肩書は2023年10月時点)

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