「行き先のない食品」の「飼料化」でフードリサイクルを実現し、食品ロス問題に一石を投じたナカショク。SMFLの「ファイナンス+α」が循環プロジェクトをサポート

「行き先のない食品」の「飼料化」でフードリサイクルを実現し、食品ロス問題に一石を投じたナカショク。SMFLの「ファイナンス+α」が循環プロジェクトをサポート

畜産業が今、飼料価格高騰に直面している。その一方、食品・外食関連の産業は、食べられるものの廃棄を余儀なくされる食品ロス(フードロス)の問題解決に迫られている。そんな構図がある中、新潟県の畜産企業が1つの試みに活路を見いだした。さまざまな事情で消費されない余剰食品を食品メーカーから買い取って飼料化する「フードリサイクルプロジェクト」だ。取り組みの主役は、養豚・養鶏業を営む株式会社ナカショク。そして、ファイナンス面でのサポートはもとより、高い専門性と広範な顧客基盤でこの計画に伴走するのが、三井住友ファイナンス&リース(SMFL)だ。難局の突破口を見いだしたナカショクの道のりと、SMFLによる「ファイナンス+α」の共創の本質に迫る。

「他とは異なる反応が何よりもうれしかった」。畜産・食品の知見とファイナンス、多彩な専門性を発揮したSMFL

2019年、ナカショクは「フードリサイクルプロジェクト」を開始した。商品化に至らなかった「ワケあり」の余剰食品を食品メーカーから買い取って配合飼料に混ぜ、自社の畜産農場で消費する先進的な取り組みである。

とはいえ、挑戦に苦労は付きもの。同プロジェクトもまた、軌道に乗るまで一筋縄では行かなかった。同社代表取締役社長の本間友生氏が当時をこう振り返る。「金融機関をあちこち回って相談しました。『余剰食品でフードリサイクルを始めました。ぜひご支援を』と。ですが現実は、『余剰食品? フードリサイクル? どういったものでしょう、それは』といった反応ばかりでした」

だが1社だけ、異なる反応を示した企業があった。それがSMFLだったという。

株式会社ナカショク 代表取締役
本間 友生 氏

「『面白い試みですね!』と前のめりに、真剣に耳を傾けてくださった。打てば響くとはまさにこのこと。その後も有用な情報を提供くださったり、相談に乗っていただいたりしました。このプロジェクトが現在に至ったのは、SMFLさんの有形無形のご支援のおかげ。今や欠かせないパートナーです」(本間氏)

「打たれて響いた」側の当事者、SMFL アグリフードビジネス推進室 室付室長の岩城繁が、本間氏の賛辞を受け、こう語る。

「私が所属するアグリフードビジネス推進室は、農業・畜産業の分野に精通した社員が結集する専門組織です。業界の状況を常に注視しており、『余剰食品の飼料化』というナカショクさんのチャレンジがもつ意義や本間社長が当社に期待していることも直ちに理解できました。だからこそご信頼いただけたと思います」

岩城が言及した「業界の状況」とは、飼料価格の高騰である。主原料であるトウモロコシの国際相場は2000年代ごろから上昇傾向を示し始め、国内の飼料価格に影響するようになった。主な要因は、バイオ燃料への転用需要と、中国における飼料用需要および輸入量の急拡大である。なお、2022年春以降はロシアのウクライナ侵攻が引き起こした資源高と供給不安が生じ、さらに円安も加わったことで急騰に拍車がかかっている。

畜産農家の経費に占める飼料代の比率は、4~6割とされる。それゆえに、飼料価格の高騰は経営の存続に関わる問題だ。年間11万頭の豚を出荷し、200万羽の鶏を育てるナカショクも例外ではない。本間氏は「当社が消費する飼料は年間約10万トン。価格の高騰が続けば、経営が揺らぎかねません。経営トップとして、根本的な対策を迫られる状況が続いてきました」と打ち明ける。

一方、対策を迫られている業界がもう1つ、畜産業界の「すぐ隣」に存在していた。畜産業界と密接につながる食品メーカー・食品小売・外食などの食品関連業界だ。売れ残りや食べ残しなどの事情により、本来は食べられるにもかかわらず捨てられる「食品ロス」の削減が急務になっていた。国内の食品ロス量は年間約522万トン。うち約275万トンを、食品関連業界から出る事業系の食品ロスが占める(農林水産省2019年度推計より)。

事業活動に伴う食品ロスに関しては、国も法整備や方針・目標の策定、啓発・広報に注力するなど削減に向けた取り組みを推進している。官民挙げての努力の中、有力な打開策の1つが、「食品ロスの再生利用=フードリサイクル」だ。フードリサイクルが食品関連業界にもたらす恩恵の大きさを、本間氏はこう表現する。

「食品ロスを産業廃棄物として処分すれば、当然、コストがかかります。そこに私どものようなフードリサイクルを手がける事業者が入ってロスになる前に食品を買い取れば、処分のコストが発生しないばかりか、捨てられていた食品が、新たな価値を生み出す資源に一変するのです」

SMFL アグリフードビジネス推進室 室付室長 兼 ネクストビジネス開発部 副部長
岩城 繁

フードリサイクルの手法には、①飼料化、②肥料化、③メタン化(エネルギー化)の3つがある。このうちナカショクが取り組むのは、「飼料化」だ。飼料価格高騰という難局の突破口であると同時に、食品関連業界が抱える課題に1つの解を示す意味でもこの取り組みが持つ意義は大きい。専門的な知見を持つSMFLの岩城が「本間社長が当社に期待していることを直ちに理解できた」と言った背景はまさにその点にある。もちろん、これらの「循環」はSDGsの目標達成へとつながり、「SDGs経営で未来に選ばれる企業」を目指すSMFLの経営理念とも一致する。

菓子の飼料化に成功。機を逸さぬ行動力と、変化を厭わぬ挑戦心が畜産業の価値を変える

ここで少し時間をさかのぼり、ナカショクが「飼料化リサイクル」に至った歩みを振り返っておこう。

飼料価格高騰への対応が喫緊の課題となりつつあった2018年11月、ナカショクに大きな転機が訪れる。大手菓子メーカーから「製造工程で発生する余剰食品を、畜産用飼料に使えないか」との相談がもちかけられたのだ。「余剰」というのは、賞味期限の迫った商品や規格外品のことだという。この案件の対応に当たったのが現社長の本間氏(当時は取締役 常務)だった。

本間氏はこう振り返る。「余剰食品を飼料化するノウハウなど、当社には何もありませんでした……しかしお話を伺った瞬間、『これはチャンスだ』と確信しました。飼料コストを大幅に減らせるものとピンときたのです。すぐに話を先代社長(本間氏の父、現顧問の本間春夫氏)に持ち込んで相談すると、『すぐに、いただきなさい』との指示。製造工程で発生する菓子粉末(菓子粉)を譲り受けることにしました」

そこからが速かった。現物を見た先代社長は、長年の経験から「飼料化とフードリサイクルは可能」と判断。余剰食品をさらに確保すべく、食品メーカー各社から積極的に調達するよう本間氏に改めて指示し、自らは飼料化に向けた体制整備と現場の陣頭指揮に当たった。

フードリサイクルの流れ

ナカショクでは、個別包装済みも含めて1日平均10トンの余剰食品を受け入れている。独自の技術により食品再利用飼料化し、豚や鶏に給餌。液卵などの原料を活用することでフードリサイクルを実現している

2019年2月、最初に相談を受けた大手メーカーから余剰食品の受け入れを開始。フードリサイクルがついにスタートした。本間氏はその後もさまざまな食品メーカーと調達交渉を精力的に行い、仕入れ先は現在約25社にまで増加した。2021年7月には冷温貯蔵が可能なフードリサイクル専用工場を新設し、安定的な事業体制を確立。今では1日平均10トンの余剰食品を受け入れている。

株式会社ナカショク 取締役 経営企画室室長
和泉 融 氏

最初の相談からプロジェクトの開始まで、約3カ月。調達先を広げてさらに専用工場を設けるまでが3年弱。これほど迅速に実現できたのはなぜか。その背景を、ナカショク取締役で経営企画室室長の和泉融氏が説明する。「当社は新潟県に加え東北地方一円に複数の畜産農場を運営しており、調達した飼料を保管・攪拌かくはんして各農場に分配するための大規模なストックポイント(一時保管施設)を保有しています。このストックポイントがあったおかげで、各社から大量の余剰食品を受け入れ、自社で配合飼料に混ぜ込むことができました」

とはいえ、「菓子の飼料化」には極めて高いハードルが立ちはだかっていたという。

「飼料化の指揮をお執りになった先代社長のご苦労が並大抵のものでないことは、傍らにいても伝わってきました」──そう語るのは、先代社長の時代から設備のファイナンスを通じてナカショクをサポートし、フードリサイクルプロジェクトにも伴走し続けてきたSMFL新潟営業部長 飯野道恵だ。

SMFL 新潟営業部長
飯野 道恵

「豚や鶏を健康に育てるベストな配合バランスの飼料とはどんなものか──データを計測してはまた配合し直す。ひたすらこれを繰り返します。菓子の形状や性質は実にさまざまで、摩擦熱で溶けて粉砕できないチョコレートもあれば、素材化に大変手間のかかる個別包装の製品もあります。最適に加工するための管理手法や、設備の調整にも工夫に工夫を凝らし、腐心を重ねた末、ついに最適な配合バランスを発見されたのです」(飯野)

飯野とともにナカショクを支援してきた岩城もうなずく。「先代社長は、『変化を選ぶことこそ成功への近道』と日頃から仰っています。菓子の飼料化に向けた試行錯誤のさなか、『チョコレートの海で溺れる夢を見たよ』とこぼされたほど、のめり込んでいらっしゃった。苦心を物ともせず、変化を恐れぬ先代のチャレンジ精神、そして本間社長の好機を逃さない行動力。親子二代の二人三脚で実現したのが、このプロジェクトだと思います」

SMFLのファイナンスと顧客基盤で原料の安定調達に貢献。広がる循環型経済の輪

苦労の末に現在の形にこぎつけたナカショクの道のりを、SMFLは設備のファイナンスで支援した。2021年7月に新設した冷温貯蔵が可能なフードリサイクル専用工場は、SMFLが提供したファイナンスによって建設されたものだ。

本間氏が言う。「冷温貯蔵が可能なフードリサイクル専用工場を整えました。冷蔵の工場が備わったことで、受け入れられる余剰食品の種類や時期選択の幅が広がり、原料の安定調達が実現したのです」

さらに余剰食品の調達に奔走する中でも、「SMFLさんの存在が大きかった」と本間氏は語る。「プロジェクトの始動当初は、食品メーカーさんに仕入れを打診しても、『うちの余剰食品をいったいどう使うの?』と怪訝けげんな反応をされるケースも多々ありました。そこでSMFLさんに相談したところ、当社の取り組みに最適な食品メーカーさんを、顧客企業の中から何社も紹介してくださいました。大手企業のバックアップがあるという信用効果も非常に高く、紹介いただいた食品メーカーさんとの交渉は実にスムーズでした」(本間氏)

今後、さらに取り組み価値を高める効果が期待できるのは、フードリサイクルによって作られた飼料がもたらす「健康効果」だ。本間氏によると、現在はまだ研究段階ではあるものの、「母豚の生育状態は良好。死亡率も低下している」とのこと。さらに「高カロリーの余剰食品が肉質を高め、食肉会社さんや販売店さんからも好評です」と胸を張る。

さらに、ナカショクのフードリサイクルは「余剰食品の再生利用」という枠組みを超え、より大きな循環型経済(サーキュラエコノミー)の一翼へと発展しつつある。たとえばフードリサイクルによって作られた飼料で生育した鶏が生んだ卵は、余剰食品の仕入れ先である菓子メーカーにも販売され、商品の原料に利用されている。

新潟県産のコメの活用も始めた。新型コロナウイルスの影響で米飯の外食需要が激減したことに伴い、コメ生産者には主食用米から飼料用米への作付け転換が求められていた。ナカショクが2021年に着手した飼料用米の活用は、配合飼料よりも安価な飼料用米でコストの低減を図ろうという取り組み。ここでも新たな循環型経済が回り出した。ナカショクが豚や鶏の糞を肥料としてペレット工場で加工・袋詰めして販売し、地元の飼料用米農家がそれを買い取っているのだ。

2022年からは新潟県村上市や胎内市の農家から飼料用トウモロコシの実(子実しじつトウモロコシ)の受け入れも開始。国産トウモロコシは高騰する輸入飼料を代替し得る可能性をもつ。しかもコメや大豆に比べて生育の手間が少なく、農家に高収益をもたらす転作穀物として注目されている。本間氏も「当社が飼育する11万頭の豚と200万羽の鶏──この『巨大な胃袋』を満たすために子実トウモロコシを安定的に購入すれば、農家さんのメリットは計り知れません」と見ている。

ナカショクは、2022年から新潟県村上市や胎内市の農家から飼料用トウモロコシの受け入れも開始。国産トウモロコシには、高騰する輸入飼料の代替を期待している

フードリサイクルを通じて地域の循環型経済を回すナカショクの取り組みは、環境に目配りした社会の持続的成長につながるプロジェクトだ。とはいえ本間氏は、「SDGsのために始めたことでは決してなかった」と率直に語る。

「飼料価格の高騰という危機に直面した私たちが、自衛のための変化を選択しただけのこと。SDGsが目標だったわけではなく、それはあくまで結果にすぎません」(本間氏)

その取り組みをすぐそばで見てきたSMFL新潟営業部の飯野は、こう付け加える。「確かにごもっともです。しかし同時に、ナカショクさんの一連の取り組みは、紛れもなくSDGsの実践そのものでもあります。SMFLは経営理念に『SDGs経営で未来に選ばれる企業』を掲げています。これからも、ナカショクさんに伴走しないわけにはいきません」

地に足の着いた真のSDGsを体現し、畜産業の価値を変えるナカショクの取り組みの輪が、地元・新潟から広がっている。その傍らに、SMFLがこれからも寄り添い続けることだろう。

フードリサイクルプロジェクトをワンチームとなって推進するナカショクとSMFLのメンバー。写真奥に見える建物が、飼料を保管・攪拌かくはんして各畜産農場に分配するためのストックポイント
  • 新型コロナウイルスをはじめとする感染症予防対策を取った上で取材を実施しております。

(内容、肩書は2023年3月時点)

お問い合わせ

アグリフードビジネス推進室 
TEL:03-5219-6724

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