真の“DXトランスフォーマー”とは? 金融データ活用が紡ぐ、ビジネス創造の未来

SMFLで見る、金融業界のデータ活用実践

金融業界の「データ活用」が、新たな局面を迎えている。著しい進化を遂げるAI技術が業務の在り方を変え、さらに、今般登場した生成AIがその変化を劇的に加速。そんななか、業界の有志らが起ち上がった。今後の金融業界全体を盛り立てるべく、各企業を横につなぐ一般社団法人金融データ活用推進協会(FDUA)を設立。目下、業界一丸での「データ活用水準の底上げ」に取り組んでいる。現在進行形のパラダイムシフトを、金融業界はどう見ているのか。活用の底上げは、社会にどんな変化をもたらすのか。そして、激動の渦中で変革を担う人材像はどう変貌し、何を期待されるのか──。FDUA代表理事 岡田拓郎氏と、金融業界のデータ活用とDXをリードする企業の一つ、三井住友ファイナンス&リース(SMFL)のデータマネジメント部長 佐藤創に話を聞いた。

広がる協調領域。“ 内製化 ” も重要なカギ──金融データの活用はDXの新潮流となる

一般社団法人 金融データ活用推進協会
代表理事 岡田 拓郎 氏

2021年秋、SMFLがベンダーリースの与信業務に導入していた「AI自動審査システム」を大幅に刷新した。
予測精度の飛躍的向上、審査の迅速化(最短で「数分」に)と与信可能対象の拡大。自社の手によるシステム開発に加え、先端研究が結実し特許も取得した産学連携──さらに、これらの成果がユーザーにもたらす、安心・柔軟で、かつ納得感のあるファイナンスサービスなど。この「機械学習モデルを用いたAI自動審査システムの開発」は、公益社団法人企業情報化協会(IT協会)が主催する「2022年度IT賞」の「IT奨励賞(マネジメント領域)」を受賞するなど、先進的な取り組みとして高く評価された。

膨大な顧客データが集積される金融業界。各社が保有するそれらの情報は、新たな価値創造の可能性に満ちた “ 宝の山 ” だ。例えばSMFLのようにデータ活用が進んでいる企業では、AI/OCR(人工知能による光学式文字読み取り装置)やRPA(Robotic Process Automation)といった最先端のデジタルツールも導入し、“ 宝 ” の発掘競争に先行している。

「目指すいただきが見えてきたな、という手応えは感じています」と語るのは、AI自動審査システムの開発を手掛けたSMFLデータマネジメント部長の佐藤創だ。

SMFL データマネジメント部長
佐藤 創

「機械学習の手法を導入したことで、審査システムとしてのパフォーマンスは現状におけるほぼ最高レベルに達した感があります。デジタル技術の進展によって、SMFLのデータ活用専門チームの役割は、従来のような『モデルの開発』や『システムの実装』を経て、データの有効活用を加速するための『社内の仕組みの構築』へとシフトしつつあります」(佐藤)

金融業界の各企業を横断的に結ぶ一般社団法人金融データ活用推進協会(FDUA)の代表理事 岡田拓郎氏も、SMFLのAI自動審査システムを「データ活用の優れた先進事例」と評し、今後への期待をにじませる。「金融データの活用状況は企業間で差が大きく、先行企業とそうでない企業の二極化が進んでいます。SMFLさんには、ぜひ、業界全体の底上げをリードしていただきたいと思っています」(岡田氏)

SMFLの「AI自動審査システム」のように、個別企業単位での先行事例や成功例は、ままある。しかし、顧客データ自体は企業間の競争領域に属することに加え、実務的な要因も複雑に絡み、データの「活用の知恵」が業界の中で共有されたことはこれまでなかった。いわば、それらのノウハウは暗黙知であり、汎用的に生かし合える形式知にはなっていなかったのだ。

だが、そんな状況を心配する岡田氏のような実務者もいた。

「他業界に比べて進んでいない金融業界のデータ活用を底上げし、業界を盛り立てたい」
「自社の現状に不安を感じている人も多い。業界の実態に即した評価軸を定めたい」
「金融機関ならではのデータ活用の面白さを、人材市場に向けて発信したい」──。

『金融AI成功パターン』
著:一般社団法人金融データ活用推進協会
刊:日経BP(2023年)
執筆社:三井住友信託銀行株式会社、三井住友海上火災保険株式会社、三井住友カード株式会社、三井住友ファイナンス&リース株式会社ほか、計16社

2022年4月、こうした問題意識を分かち合う金融機関やフィンテックなどのスタートアップが起ち上がり、業界全体のデータ活用水準の向上を目的とする一般社団法人金融データ活用推進協会(FDUA)が創設された。その中心人物の一人が岡田氏だ。「金融データの活用に関しては、今では協調領域も広がっています。そんな分野の領域でのノウハウを業界で広く共有し、日本社会のDX推進に貢献したいのです」(岡田氏)。FDUAの会員数は現在140社以上を数え、もちろんSMFLも名を連ねる。

FDUA発足からこれまでの活動成果が、早くも一冊の書籍『金融AI成功パターン』(日経BP)にまとめられ、多くの好事例が紹介されている。SMFLは同書で「AI自動審査システム」の実例を解説しており、佐藤は「内製化の重要性に着目してほしい」と述べる。

「DXの新しい潮流をタイムリーにキャッチアップするには、ツールやシステムの内製化が不可欠です。金融業界のデータ活用でも、内製重視の流れはますます加速するでしょう。SMFLではAI/OCRを自社開発しており、『AI自動審査システム』に用いているAIも内製です。当社の取り組みが業界全体でのノウハウの共有や、各金融機関内部でのデータ活用のヒントになれば幸いです」(佐藤)

「AI自動審査システム」を活用したSMFLの与信審査プロセス

生成AI。「進化のステージを2段階くらい飛び越えた」

2022年秋に公開された生成AIがきっかけの一つとなり、その衝撃が社会を席巻している。新たな次元に突入したAI技術は間違いなく金融業界にも今まで以上の影響を及ぼすことになる。岡田氏も「現場の業務は大きく変わる」と見る。

「金融業の現場では文書を扱う仕事がとても多い。生成AIの汎用化は、文書の作成効率を飛躍的に高めます。これは当然、金融業界だけではありません。あらゆるオフィスワーカーの生産性を劇的に改善するでしょう」(岡田氏)

SMFLの佐藤も、データ活用の専門家として生成AIに大きなインパクトを感じていることを隠さない。「新しいAI技術が話題になったことはこれまでも度々ありましたが、生成AIの登場は過去の例とは比較になりません。進化のステージを2段階くらい飛び越えた印象で、影響は当社の業務にも波及するはずです。私も、精度の高まりと活用範囲の広がりに目を凝らしているところです」(佐藤)

岡田氏は、生成AIを含むAI技術の進展が、一般消費者向けビジネス(BtoC)と企業間取引(BtoB)の両面で今後の金融サービスを一変させる可能性があることにも言及する。「各金融機関が保有するデータと、さまざまな業種に存在する多種多様な顧客データを組み合わせ、AIを駆使して分析すれば、生活者一人ひとりのライフステージ支出が自動シミュレーション化された、もっと暮らしやすい社会が到来するかもしれません。また、業界横断的な各種データのAI分析が、顧客企業の潜在的な資金需要の発見に結び付く可能性もあります。これにより、顧客の見えない課題にマッチした金融商品・サービスを、適切なタイミングで提案・提供できるようになり、結果として日本経済の成長を呼び込めるのではないかと期待します」(岡田氏)

佐藤は、生成AIへの対応が社会課題化しつつある現実を踏まえてこう述べる。「岡田さんが今述べられた期待が実現するには、データ活用のさらなる高度化が必要です。より多面的なデータを収集し、それらを集約して現実の問題を『解像度』を高めて抽出しなければなりません。簡単ではありませんが、生成AIをどう生かすかは今や社会全体の喫緊の課題。その対応を急ぐなかで、積極的なデータ整備にも取り組むべきです」(佐藤)

佐藤はさらに次のような予測も示す。「進化したAIの前では、一部の専門スキルの陳腐化は避けようがありません。人の役割は、人間が判断しなければならない領域に特化していくことになります。データ活用の世界で言えば、データ分析のスキルそのものよりも、今後はデータを使って新たな価値を作り出す人材が求められるように変わるはずです」(佐藤)

本記事の冒頭で佐藤はAI技術の進化の影響として、「人の役割は『モデルの開発』や『システムの実装』を卒業し、データの有効活用を加速するための『社内の仕組みの構築』へとシフトした」と話していた。つまりSMFLでは、すでにこの変化が始まっているのだ。

岡田氏もまた、AIへの大いなる期待の半面、「人間ならでは」の領域はしっかり残っていることを付け加える。「例えばリテールファイナンスの営業現場などでは、顧客企業経営者の日頃の暮らしぶり──生活習慣の規則正しさや、普段身に着けているものや車などが派手かどうか──が、その企業の融資返済率としばしば相関することが経験的に知られています。データ化しにくく、AIの分析対象にもなりにくいこうした事象はまだ多い。だからこそ、データ活用にAI技術をどう生かすかの探求は奥深く、人が関与してのDXが待たれる未開拓の領域も広いのです。さらに言えば、その領域での活躍が今切実に求められているのは、むしろビジネスサイドの人間だと私は考えています」(岡田氏)

価値を生む、変革者たれ──夜明けの未開拓地が待つDX人材

「たとえ高度なデジタル人材をやみくもにかき集めても、生成AI時代のDXは絵に描いた餅になる」と指摘する岡田氏は、活躍すべきビジネスサイドの人間像を「データストラテジスト」と呼ぶ。

「要は、データを活用して付加価値を生み、ビジネスを具体的に変えられる人材です。そして、そういった人材は必ず、社内にいます。金融機関を含む多くの日本企業では、部署の個別業務に精通した『この件ならあの人』といった人材があちこちで活躍しています。そのなかには『学生時代にプログラミングを勉強した』『実は統計分析が得意』などの隠れたデジタル巧者がいるものです。そんな人材を発掘し、埋もれた原石を宝石に変える仕組みを整えること。それが、AI時代のデータ活用に求められる重要な人為の一つではないでしょうか」(岡田氏)

佐藤も、「データを活用してビジネスを変えられる人は一番重要になってきている」と応じる。「SMFLは今、『リースを提供する会社』から『幅広い金融機能を持ち社会課題を解決する事業会社』へと進化を遂げようとしています。多様化が進む事業分野のなかでも、データを活用するファイナンスはSMFLの得意領域。さまざまなかたちでデータを活用し、新たな価値を創出するチャンスが増えています。活躍の場が今後どんどん広がるであろうデータストラテジストと、ぜひ、肩を組んで仕事したい」(佐藤)

AI技術の行き着く先で「人の手は不要になってしまうかも……」といった悲観論もある。しかし、ビジネスを生み、価値を創造できるのは人間だけ、ということもまた真理なのだ。FDUAが目指す「データ活用水準の底上げ」への貢献とともに、金融サービスの可能性を探求し続けるSMFL。DX人材の役割変革を同社がどうリードしていくか──これからの活躍の場を求めているチャレンジャーたちも今、その動向を見つめているはずだ。

(内容、肩書は2023年8月時点)

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