AI/OCRの独自開発で取り戻す「時間価値」。SMFLが挑む、商習慣イノベーション

三井住友ファイナンス&リース(SMFL)のDX戦略が加速度を増している。その強力なエンジンの1つがAI(人工知能)だ。独自開発する「AI/OCR」をベースに、プラットフォームを構築。近年、日本企業のなかでも導入が進む領域であるがゆえに、“異質”のプレーヤーともいえる総合リース会社の取り組みにがぜん注目が集まる。「AIプロジェクト」を通して、SMFLはどんな未来を描こうとしているのか。2人のプロジェクトリーダーが、その青写真を語る。

ブランド力 × 自由な発想力 × 先端技術力 = SMFL/AIチーム

システム企画部 デジタル開発室 リードスペシャリスト
京谷和樹

SMFLのシステム企画部デジタル開発室(以下、デジタル開発室)は、少数精鋭である。旧GE※1の流れを汲むメンバーを中心に構成し、独自の業務システムや、モバイルアプリなどを自社開発している。前例のない試みに子どものような探究心をもって挑み、旧弊を打破してきた実績は、ベンチャー企業のパイオニア精神を想起させる。そんなデジタル開発室でAI技術の開発と応用に関する責任者を務める京谷和樹は、SMFLの自社開発環境の特徴をこう語る。

「まず、リーディングカンパニーとしての安定した経営と、強固なブランド力がある。その基盤の上で、デジタル先進企業という大目標に向かい、自分たちの意志で自分たちのチームを柔軟にデザインできる。そこが、他の企業とは一線を画する私たちの強みです」

デジタル技術の革新は日進月歩だ。それゆえ、専業のソフトウェア開発会社ならぬ一般企業がテクノロジーの進化を追求し続けるのは、けっして簡単なことではない。にもかかわらずSMFLは、自社開発にこだわる。そして今、AIというDX技術のフロンティアにも挑んでいる。なぜなのだろう。

※1 日本GE株式会社(GEキャピタルジャパン)は、2016年にSMFLキャピタルへ商号変更。その後、2019年にSMFLと合併し現在に至る

AI/OCR読み取り精度99%以上。窮地を救った、自前の技術力

「SMFLがAI活用を促進するきっかけとなったのは、京谷が開発したFAX自動仕分けシステム『FAX Frontier』でした」と、AIプロジェクトを統括する秋重和成は当時を振り返る。

「FAX Frontierは、小口リース契約時に発生するFAX処理業務の効率化プロジェクトの一環でした。長らくマンパワーを頼りにしてきた業務だけに、デジタル化を進めれば業務効率が飛躍的に高まることは分かっていました。そこで、AI/OCR(光学的文字認識)システムの開発をまず外注し、特に時間を要していた作業を自動化しようと試みたのです。しかし現場のニーズがうまく伝わらず、肝心のFAXに記載されたテキストの識別精度が上がらない。打つ手に窮していた時期に、突然、京谷から解決策が提示されたのです」

その背景を、京谷がこう説明する。

「大学時代に最先端のAI研究に携わっていたので、そこで学んだ技術を応用すれば課題解決への道が開けるのでは、という予感はありました。しかし、当時は別プロジェクトでリーダーを務めていたので、そちらを差し置いてAI開発に肩入れすることは難しかったのです。それでも、なかなか成果の出ない状況を端で見ていられなくなり、時間を捻出しながら水面下でプロトタイプの開発に着手しました。『これならいける』と確信を得たときに初めて、『実はこんなものがあるのだけれど』と打ち明けたのです」

京谷が開発したAI/OCRシステムを稼働させてみると、最初のテストで読み取り精度99%以上という、驚異的な結果をたたき出した。自社エンジニアの確かな実力を目の当たりにすると同時に、外部に依存することのデメリットを痛感した出来事だった。開発と現場の間で風通しよくコミュニケーションをとり、ユーザーニーズを適切に反映させなければ、適切な業務改善にはつながらない。だからこそ、SMFLは内製チームでデジタルイノベーションに挑むのだ。

年間11,000時間の工数削減効果。AI/OCRが生んだ「時間価値」

あらゆるドキュメントを管理するプラットフォームの構築へ

FAX FrontierにおけるAI活用では、識別精度を高めるためのデータが十分に確保できていたことが奏功した。現場に届く毎月数万件のFAXが、画像データ化して蓄えられていたのだ。それらのデータが資産となり、パターン認識精度の高いAIシステムの完成につながった。

これを皮切りに、SMFL社内ではドキュメント関連のAI導入例が拡大。リース契約申込書のみならず、物件明細や決算書など、各部署でやり取りされている多様なドキュメントの整理・処理に活用され、業務の負担軽減に貢献している。特に、文字情報の読み取りとデータ化には、高い効果を発揮。紙の書類に記載されている内容をマンパワーで入力するのは、確実ではあるが効率的とはいえない。OCRを使えば文字情報を読み取ってデータ化できるが、市販のOCRソフトウェアは精度が不安定で、実用には踏み切れなかった。

そこでSMFLでは、OCR機能にAIを組み合わせた、AI/OCRを活用。書類に手書きされた文字も、画像認識AIにより識別率が向上し、精度を高めることに成功した。AI/OCRの活用は、将来的には、あらゆる形態のドキュメントをまとめて管理するプラットフォーム「DPP」(Document Processing Platform)サービスの構築へと展開することも計画されている。

顧客課題の解決のために、AIを活用

SMFLのAI技術によるソリューションを、「More Than Finance」※2の一環として、社外へと広げて活用する取り組みも進行中だ。

「飲食業のあるお店から、『お客さまの満足度を向上させるために、店舗オペレーションを改善したい』と相談をいただきました。サービング時間を短縮する策として、京谷チームがAIの画像認識技術を活用した解決策を提案し、現在、PoC(概念実証)を進めています」(秋重)

「サービングの時間を短縮するには、キッチンと接客担当者との連携が大切です。そこで、カメラとセンサーを活用してデシャップ台※3を識別し、滞留時間を計測。デシャップ台に料理が載せられたら、接客係が装着しているリストバンドのような受信装置が振動して知らせるという仕組みを提案しました」(京谷)

「滞留時間の長さに応じて振動のパターンを変えることで、接客係に時間の経過を知らせ、行動を促すことができます。大きな声を出したり、音を鳴らしたりする必要がないので、お客さまに煩わしい思いをさせることもありません。実験段階では、30秒以上の滞留数が大幅に減少し、スタッフの意識も劇的に高まったと好評です」(秋重)

※2 SMFLが提供する、顧客が抱える課題を解決するソリューション

3 キッチンで調理された料理をホールの接客担当者に渡すための、受け渡し用の台

サーブ時間の短縮にもAIが貢献

AIがカメラに写った料理を認識し、滞留カウントを開始。同時に、料理の配膳スタッフが手首につけているリストバンドへ振動で通知を発信する

もちろん、PoCの先には実用化、サービス化も見据えている。目下、外食産業におけるこうしたニーズを営業推進開発部と連携して調査中で、システムの商用生産化を見込んでいる。

一方で、「解決すべき課題」の存在は、リース業界や外食産業に限ったことではない。「脱ハンコ」に見られるように、デジタル技術を用いることで業務効率が飛躍的に向上し、コミュニケーションが活性化する場面は至るところにある。こうした大きな社会的インパクトについて、AIの潜在能力と可能性の高さをよく知る京谷は、夢のあるビジョンを意欲的に語る。

「日本の商習慣には、惰性でなんとなく続いてきたアナログな部分も多く残っています。デジタルシフトの観点で見直してみれば、これまで当たり前とされてきたことが、ただ時間を浪費するだけの慣行にすぎなかったりするかもしれません。AI活用の幅を広げれば、そうした無駄を排除できる。だからといって、日常業務の効率を単純に上げるだけで終わってしまってはつまらない。せっかくなら、これまで人間には到底できないと諦めていたような無理難題を解決に導き、『AIって、こんなことができるのか!』と世界が驚くようなものを作りあげていくことに挑みたい。そのためのチーム組成にも、積極的に取り組んでいます」(京谷)

デジタル開発室には10名のスペシャリストが集う。「多彩なキャリア、スキルセットを持つ人材がチーム力の柱です」(京谷)

シームレスに連携し、イノベーションを後押し

イノベーションを創出するための思考法「デザイン思考」※4では、ビジネスを成功に導くためには、以下の3つの要素が必要だとする。

※4 世界的デザインコンサルティング会社のIDEOが提唱

① Desirability(デザイアビリティ)

望ましさ、ソリューションに対するユーザーの期待度

② Feasibility(フィジビリティ)

実現可能性、実現するための技術や仕組みの検討

③ Viability(バイアビリティ)

実行可能性、ビジネスとして成立させるための体制

イノベーションを起こすには、この3つの要素が重なる必要があり、SMFLのDX推進チーム「イノベーションPT」も、この3つの領域に基づいてチームを編成している。パイプ役として各部署の連携を図り、SMFLのデジタルイノベーションを後押ししているのが、秋重のようなプロジェクトマネージャーだ。

新規ビジネス組成のチーム相関図

企画部クオリティ室 マスターブラックベルト
秋重和成

秋重が属する企画部クオリティ室には10人ほどのプロジェクトマネージャーが在籍し、イノベーションPTの中心メンバーとして活動。ときには、現場の要望と開発側の認識のズレを調整することもある。

「たとえば、書類に記載された『電話番号』をデータ化しようとした場合。1つひとつの数字をどれくらい読み取れるかに開発側が着目して、識別率向上のKPI(重要業績評価指標)を設定したところ、現場から物言いがつきました。『一部の数字だけ判読できても、電話番号にならない。すべての数字が識別できなければ意味がない』と。そうした現場の声を吸い上げて、すり合わせていくのです」(秋重)

開発チームが社内にあることで、コミュニケーションが密となり、現場の声に対して速やかに軌道修正を図るというスピード感のある開発が進められている。

デジタル精鋭部隊の牽引力により、SMFLのDX戦略はその歩みを速めている。

「SDGs×AIのような、新たな領域と新たな技術の掛け合わせから新たな価値を生み出し、世の中が『WOW!』と声を上げて感嘆する。そんな驚きに満ちた仕組みづくりにまい進していきたい」(秋重)

「1人でも多くの人が、1日の始まりをワクワクして迎えられる。個々人の生活にそれくらいインパクトを与えられるようなプロダクト・サービスを生み出していきたい」(京谷)

2人のリーダーの目は、驚きと興奮に満ちた未来をとらえているようだ。

(内容、肩書は2021年7月時点)

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