感謝することで築く強靭な組織。心理的安全性を担保する、リーダーの振る舞い方

チャレンジする組織をつくる「心理的安全性」

企業価値向上の源泉として今、心理的安全性に注目が集まっている。そして、組織や職場、チームの心理的安全性を高める鍵を握るのが、リーダーの「振る舞い」だ。一挙手一投足が部下のモチベーションに影響し、ひいては組織力の維持・発展を左右するだけに、リーダーへの期待は大きい。そこで今回、チャレンジする企業風土を根づかせるために、「リーダーはどのように振る舞えばよいのか」をテーマに、社員同士で感謝・称賛のメッセージとインセンティブを贈り合える仕組み「Unipos」を提供するUnipos株式会社 代表取締役社長CEO 田中弦氏に話を聞いた。ファシリテーターは、SMFL 常務執行役員の岡元徹が務めた。

会議室に見る、心理的安全性の欠如

岡元 今ほど切実に、企業に「チャレンジする風土」が求められる時代はないのではないでしょうか。社員が失敗を恐れることなく変革に挑み続けるには、「心理的安全性」の確保が極めて重要です。田中さん率いるUniposが提供する「Unipos」は、まさに社員の心理的安全性を高め、“ 挑戦できる企業風土 ” を醸成するためのサービスです。社員同士が「その人の貢献を称賛するメッセージ」と「少額のインセンティブ」を贈り合う──多くの企業がこのサービスを導入し始め、このほどSMFLも採用することとなりました。「チャレンジする組織」と「心理的安全性」の関係、そしてUniposのサービスについて、田中さんのお考えをお聞かせください。

Unipos株式会社 代表取締役社長 CEO
田中 弦 氏

田中 人間には「自己防衛本能」があります。これが、「絶え間ないチャレンジ」を阻害する大きな要因の一つです。例えばミーティングの場を思い浮かべてみましょう。上司が部下たちに意見を求める。けれど誰からも発言が生まれずに、「沈黙」がその場を支配してしまう──そんなシーン、ありますよね。これは、部下たちにとって発言を控えて黙っている方が自分を守れる、背負うリスクが少ない──そんな計算が働く結果、沈黙を選ぶわけです。では、部下たちに沈黙を選ばせる正体はいったい何なのでしょうか。答えは簡単で、「環境」こそが、その沈黙を生み出す要因だと私は考えています。

上司が部下に発しがちな「声かけ」の典型例がいくつかあります。「そんなことも分からない(できない)のか」「余計な仕事を勝手に増やすな」などの「否定の声かけ」です。「否定の声かけ」が部下たちに植え込むのは、「何かを言ったら無知(無能)だと思われるのではないか」「上司を否定していると誤解されるのでは」などの不安。こうした思いが沈黙によって自分を守る「環境」を生み出してしまうのです。

では、どうすればその環境を避けられるのでしょうか。ここで重要になるのが、「心理的安全性」(psychological safety)です。ハーバード大学の組織行動学者 エイミー・C・エドモンドソン教授の論文『恐れのない組織──「心理的安全性」』(1999年)によって広まった概念で、私はこれを「組織の中で自分の考えや気持ちを誰に対してでも安心して発言できる環境」と定義しています。

心理的安全性を高めるのは、お互いの「称賛」です。例えば、要改善点やチャレンジしたいことを発見した社員が、上司にそれを提案したとします。そのとき上司は、必ず、まずは称賛すべきです。「称賛された」という事実が、部下たちの「チャレンジを提案すれば自分にとってプラスに働く」という経験則になり、提案・意見を繰り返す、つまりはチャレンジ継続へのモチベーションとなるのです。

もちろん、社員同士が「ありがとう」などと「感謝」の意を気軽に交わし合うことも大切です。そこから一歩踏み込んで、例えば「岡元さんの行動がすごいからみんな知ってほしい!」と伝え合う「称賛コミュニケーション」(称賛文化)が浸透すれば、各自のチャレンジを促すような、さらに好ましい環境が社内に生まれます。Uniposは、社員同士が「貢献に対する称賛のメッセージ」と「少額のインセンティブ」を贈り合うことを通じて、一人ひとりの貢献を可視化し、ポジティブな称賛文化を醸成して心理的安全性を高めます。それが結果的に「チャレンジする組織」につながるというわけです。

岡元 心理的安全性の大切さを実感した経験は、私自身にもあります。まだ若手だった頃、地方銀行を舞台に新規事業にチャレンジした時のことです。上司をはじめ周囲の仲間たちが「挑戦してみればいい」と声をかけ励ましてくれたからこそ踏み出せた事業でした。結果的に、軌道に乗せるまでには至らなかったのですが、上司から「次がある!」と勇気付けられ、前向きな気持ちでまた新たな仕事に取り組むことができました。

田中 まさしく、心理的安全性を高める声かけが周りからあったわけですね。岡元さんと同様に、私自身の経験として胸に刻まれているのは、新卒入社が決まっていたソフトバンクの内定者研修での出来事です。研修の内容は、「インターネットビジネスの新規事業」をトップの孫正義氏に対しプレゼンするというもの。孫氏はとても厳しい方として知られていましたから、私はおそらく「そんな甘い計画は通用しない」「アイデアが全然駄目」などの叱咤を受けるものと覚悟して臨みました。ところが孫氏の口から実際に出てきた言葉は、「どうやったらこの事業がうまくいくのか、一緒に考えよう!」といった、とてもポジティブなものでした。

間違いなくこのひと言が、社会を歩む上での道標となりました。その後のビジネススタイルや、職場の上司や同僚と向き合う基本姿勢を形成し、「いずれは起業に挑戦するぞ!」と考え始めるきっかけにもなったのです。何気ない「肯定の声かけ」が、その言葉を受け取った人間の生き方にまで影響を与える──リーダーの言葉って、本当に大切なのです。

むしろ喜びたい、度重なる小さなミスの報告

SMFL 常務執行役員
岡元 徹

岡元 否定ではなく、肯定の声かけ、ですね。ここからは少し視点を変えて、心理的安全性を確保するため、あるいは高めるために、組織内で上司はどう振る舞えばよいのか、組織そのものはどうあるべきか──これらを具体的に考えていきたいと思います。

社員が新しいことにチャレンジしようとしても、堅実な組織であるほどノーリスク志向が強く、上司がチャレンジを認めないケースもあるように感じます。社員のチャレンジ精神が枯れたり朽ちたりしないよう、組織はどうあるべきでしょうか。

田中 チャレンジに伴うリスクを完璧に予測することは不可能ですし、したがって完全に備えることもできませんよね。だからリスクを恐れず「チャレンジする組織」であるためには、やはり「称賛」によって心理的安全性を向上するしかないのだと思います。「否定の声かけ」は挑戦するマインドを萎縮させるだけなので、まずは褒めることを心掛けるべきです。

岡元 このたびSMFLでUniposを導入したところ、利用する社員から「コンプライアンス面でのプラス効果も期待できそうだ」との声が聞かれました。心理的安全性を高めることは、コンプライアンス面での効果にもつながるのでしょうか。

田中 先ほど紹介したエドモンドソン教授は、「心理的安全性が高い組織ではミスの報告数が多い。ただし小さなミスが繰り返し解決されることで、結果的には重大、かつ深刻な事態に至ることを回避できている」という研究事例を報告しています。企業の不祥事が明るみになり、時に経営に重大な悪影響が及ぶことがありますが、そうした不祥事を起こす組織は、心理的安全性が担保されていないためにミスの報告が少なく、深刻な事態を回避できなかったのだと推察できます。

岡元 例えば、制度として「内部通報制度」があったとしても、心理的安全性が担保されていないと十分に機能せず、結果的に事態の悪化につながってしまう、というわけですね。

田中 おっしゃる通りです。

岡元 では、部下の側から上司に働きかけて心理的安全性の確保を促すには、どういったことが必要でしょうか。

田中 上司と部下の間に、互いの意思を伝え合う工夫や、相手に配慮したコミュニケーションが、日頃から成立していることが大切です。それがなければ、残念ながら角が立つだけになってしまいかねません。

岡元 確かに、ベースとなる人間関係がギクシャクしていると、何かのきっかけで思わず「否定の声かけ」をしてしまうおそれがありそうですね。では、上司が部下に対し「チャレンジの意欲が不足している」と感じた場合、部下のモチベーションを高めるためにどんな態度で接することが必要でしょうか。

田中 そもそもの話になってしまいますが、部下らに対して「高過ぎる期待」はしない方がよいと私は考えています。期待は、ともすると、結果を望む側の一方的な思い込みに過ぎない場合がよくあります。期待を勝手に膨らませていると、得てして、結果にがっかりするものです。期待が高過ぎなければ、過度の心理的負担を互いに避けられます。

岡元 「否定の声かけ」にも関係するお話ですね。期待が高過ぎる、あるいは思い込みが強過ぎるが故に、つい「否定の声かけ」になってしまう。ただ一方で、「部下の育成は厳しくあるべき」という考え方も、特に日本の企業には根強くあるかと思います。つまり、称賛だけで人は育つのか、という疑念です。また、普段は称賛を心掛けていても、必要に迫られて叱責めいた声かけをしたら、どう受け止められるのか心配になる上司も多いはずです。

田中 そんなケースでは、「リカバー」が必要です。私も以前これと同じような問いかけを、早稲田大学ラグビー蹴球部元監督の中竹竜二さんに伺ったことがあります。中竹さんはリーダー教育や組織マネジメントの専門家としても知られる方です。私が「叱責という行為は、“ 心理的安全性 ” を壊してしまうのではないでしょうか?」と尋ねたところ、中竹さんの答えは「次の日に『言い過ぎちゃった』と伝えればいいんです。コミュニケーションがあれば、“ 安心な ” 環境は回復します」と答えてくださいました。叱責を受けた当人も、冷静に自省して「叱られて当然だった」と思い直すかもしれませんしね。上司も部下も人間です。頭に血が上って言い過ぎることも、叱責することもあるでしょう。そのときは謝ればいいのだと思います。

「目に見えない大切なこと」が詰まった、強靭な組織

岡元 最後に、個人のチャレンジが組織のチャレンジにどうつながるか、お考えをお聞かせください。

田中 今、働き方の多様化が進んでいます。組織ではなく「個」が注目されることが増え、「集団で働くこと=協働」の意味や価値に迷いを感じることがあるかもしれません。しかし、多くの「個」からなる集団だからこそ協働は可能なのであり、社会にとっての「偉大な成果」は、協働という「個」の掛け算があって初めて実現されるものだと、私は信じています。本日お話しした「心理的安全性」は、協働の土台=組織の強化に欠かせないものです。協働の土台を構築するためには、仲間の行動を知り、興味を持つことが必要です。Uniposなどをぜひ活用し、心理的安全性の高い「チャレンジできる組織づくり」に挑戦していただきたいと思います。

岡元 Uniposという仕組みを知った時、私がまず思い浮かべたのは『星の王子さま』に出てくる「大切なものは目に見えない」という言葉でした。目に見えない大切なもの──それは共に働く仲間の日々の努力かもしれないし、職場を満たすポジティブな空気感かもしれない。SMFLは、そんな “ 目に見えない大切なもの ” を可視化するUniposを活用し、「感謝」と「称賛」が飛び交う、「チャレンジできる組織」を目指します。本日はありがとうございました。

  • 新型コロナウイルスをはじめとする感染症予防対策を取った上で取材・撮影を実施しております。

(内容、肩書は2023年3月時点)

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