リモートワーク時代のマネージャー像とは? チャレンジを引き出す「1on1」の活用法

「リモートワークの日常化により、部下や社員の “ 顔 ” が見えにくくなっただけでなく、何を考えているかもよく分からない……」。そんな憂いを密かに感じている経営者や管理職の方々、少なくないのではないだろうか。コロナ禍での “ New Normal ” “ 新しい生活 ” への転換は、マスクの常時着用のみならず、我々の働き方に対しても、大きな変換を強いることとなった。リモートワークの時代を迎え、企業は今、組織や人材のマネジメントで数々の課題に直面している。そんななか、三井住友ファイナンス&リース(SMFL)では、アフターコロナを見据えた組織・人材マネジメントの手法の1つとして「1on1ミーティング」(以下、1on1)の実践を加速。組織の革新に挑んでいる。

新しい時代に、模索する「人材・組織開発」

多くの企業が今、「新しい時代」に対応した人材育成・組織マネジメントを模索している。SMFLもまた、社員のメンタルヘルスや生産性の向上、環境整備などのさまざまな課題解決に取り組み、その1つの解として、「SMFL 1on1 ワークショップ」を実践した。これは、組織の創造性をかつする「総合知」の体系化と提供を専門とする株式会社MIMIGURIのManager 兼 Design Researcher・小田裕和氏とともに、SMFL人事部人材開発室の北川希が共同開発したプログラム。上司と部下とのよりよい関係性を築くための施策として導入した1on1を、発展的に活用するためのワークショップだ。

SMFL 1on1 ワークショップ

SMFL 1on1 ワークショップの模様

SMFLの管理職を対象にしたワークショップ。 “ 心理的安全性 ” の醸成といった、関係の質の向上を期待する1on1の効用を基盤に、さらに部下のチャレンジを引き出したり、チャレンジをベースとした会社の生産性向上に貢献したりすることを目指している。「1on1がコロナ禍において、新しい働き方におけるマネジメントの有効な手法なのではないか」との認識が社内に醸成され始めた頃に、その在り方を探究する場として設けられた。
J.Y.Park氏のNizi Projectを題材にして、オンライン・ワークショップ形式で実施。参加者は事前にNizi Projectの動画を視聴したうえで、当日の「問い」に回答する形式で進行した。「J.Y.Park氏だからこそうまくいった点」「もしもJ.Y.Park氏のような敏腕マネージャーがSMFLに現れたとして、それでもうまくいかないだろうと考える点」「求められるマネージャー像」などを探求した。

ワークショップの模様を描いた、グラフィックレコーディング(画:夏川真里奈氏。一部抜粋)。Nizi Projectと自社の組織の在り方の差異について、多彩な言及があった

開発の中心的役割を担った北川がその題材に選択したのは、なんと、韓国のオーディション番組「Nizi Project(※1)」であった。音楽プロデューサーJ.Y.Park(パク・ジニョン)氏が制作指揮を執り、エンターテインメントの枠を超えて社会現象を起こした、ガールズグループ育成プロジェクトだ。J.Y.Park氏の手腕は、人事・マネジメントのプロフェッショナルからも高く評価され、「Nizi Project」には人材教育のヒントが詰まっているとして注目を集めている。

そんな「Nizi Project」から、「SMFL 1on1 ワークショップ」はどんなヒントを取り入れ、それをどのように換骨奪胎して人材・組織開発のメソッドに活用したのか。ワークショップ実施の立役者となった小田氏と北川、加えてワークショップ参加者を代表しSMFLみらいパートナーズ不動産本部 ソリューション営業部長の原田圭の3人に、新しい働き方を後押しする人事の試みについて語ってもらった。

  • ※1JYPエンターテインメント(韓国)とソニーミュージック(日本)による、ガールズグループをつくる共同プロジェクト。メンバーそれぞれの個性が重なり、美しい光を放つ虹のような存在を発掘、育成するという総合プロデューサーのJ.Y. Park氏の思いから命名。インターネットやテレビでオーディションの模様が配信・放送され、大きな反響を呼んだ。NiziUとして、2020年12月2日にデビュー。

「阿吽の呼吸」からこぼれ落ちるコミュニケーションを汲み取りたい

SMFL 人事部人材開発室 室長補佐
北川希

──1on1ミーティングをSMFLが取り入れたのは、リモートワークの拡大がきっかけだったのですか?

北川 いえ、もともと一部で日常的に行われていたのですが、マネジメント業務の有効な手法としてより積極的に進めるきっかけになったのがリモートワークだった、ということですね。2020年の夏以降の動きです。

原田 率直に申し上げると、実はそれ以前、面談やミーティングに加えて行う1on1に対しては、時間と手間を取られて面倒……という空気も少なからずありました。しかしリモートワークでお互いが見えにくくなり、「いま何をしているのか」は尋ねてみないと分からない。そんなタイミングで人材開発室がツールとして推奨してくれたので、本当に助かりました。

小田 1on1の狙いは、部下が直面している状況や悩み、背景事情などを把握して、部下の成長や組織パフォーマンスの向上を図ることで、あくまでも「部下のための時間」です。問題はその “ 把握 ” 、つまりコミュニケーションをどう図るか。それを探る1つの取っ掛かりとして、「コンテクスト」(文脈/状況)という概念があります。欧米などは「ローコンテクスト社会(※2)」とされ、一般的に、相手の考えを知るにはきちんとコミュニケーションを取ることが前提とされます。その必要に応じて、1on1が進んできました。対して日本は「ハイコンテクスト」を前提とした社会で、「阿吽の呼吸」「暗黙の了解」が人間関係の美徳とされてきました。しかし実際には、ハイコンテクストといっても言葉で共有されていないから、相手が本当は何を考えているのかが分からないことも多いのが実情です。しかも昨今は、各人のコンテクストが多様化しており、また人によって、対話よりもテキストコミュニケーション(チャットなど)が得意な人、対面でのコミュニケーションが苦手な人、いろいろなバリエーションがあることが理解されつつあります。そういった多様性が、コロナ禍に伴うリモートワークの普及によって顕在化したのではないでしょうか。いま1on1が求められている理由は、そこにあるように思います。

北川 「意識はしていなかったけれど、営業活動中に、お客さま先に向かう車内での部下との対話が1on1だったのだな、と思った」というワークショップ参加者もいましたね。

原田 会食などでも、同様のコミュニケーションはあります。

小田 ただし気をつけたいのは、飲んでいる席では気が大きくなるので、話すテーマも大きくなりがちな点です。1on1では、日ごろ感じているモヤモヤを言葉にして共有することが重要。むしろ帰り道などで交わされる何気ないコミュニケーションがそれに近いことも多いのです。

  • ※2互いの置かれた状況や価値観、行動様式といった事柄について、共通点が少ない社会のこと。
MIMIGURI Manager 兼 Design Researcher
小田裕和氏

──「SMFL 1on1ワークショップ」の狙い、そして「Nizi Project」を題材として取り上げた意図を教えてください。

小田 ワークショップの目的は、関係性のなかに潜在している課題を発見することです。だからこそ、「研修」にはしたくなかった。「研修」と銘打つと、参加者は「何かを学ばなくては」と考えて、「正解」を探そうとしますから。でも、1on1には、「こうやったらうまくいく」「これが正解」というものはありません。ないものを探そうとすれば、行き詰まってしまいます。

北川 「Nizi Project」を取り上げたのは、プロデューサーのJ.Y.Park氏の候補者たちに向けられた成長を後押しする率直でパワフルなフィードバックと、その根底に流れる対象への強い「愛と関心」に魅了されたからです。「愛と関心」をベースにした対話からの学びは、とても普遍的です。たとえば「指導が上手な上司から部下へのフィードバック」は、受けた部下本人のみが上司の優れた「指導方法」に気がつき、残念ながら、外の人間には分かりにくいものですよね。営業同行中の上司・部下の対話を他人が横から見る機会がないのと同じです。だからこそ対話の過程が目に見えるこの「Niji Project」は、一般的な1on1ロールプレイング教材で学習するよりも深い学びになるコンテンツだと確信し、これを題材にしたワークショップの企画を小田さんに持ちかけました。

小田 コンテンツ選びは大成功でした。「コンテンツ視聴」のセッションでは、最初は訝しがっていた人も、いつしか寝る間も惜しんで見続けたとか、娘さんと話が盛り上がったとか、気持ちが前向きに変化していきました。

原田 まさしく、その意図にはまりました(笑)。印象的な場面を見つけるという課題で最初の1本目から選んでもよいと言われていたのに、気づいたら毎晩見続けて……。感銘を受けたシーンは、今も夜中に繰り返し見ているくらいです。

小田 実は今回のワークショップでは、「1on1とは何か」という話は、敢えてあまりしていません。それよりも、「Nizi Project」のプロセスを通じて、J.Y.Park氏のようなマネージャーがどんな存在なのかと自問し、考える。そうした探究のなかで気づいたことや学んだことを1on1としてどう活かせるかと考えることが、実はとても重要なのではないかと考えました。プログラムは、その点を強く意識してデザインしました。

SMFLみらいパートナーズ 不動産本部 ソリューション営業部長
原田圭

原田 気づかされたことはたくさんあります。たとえば、オーディションで人を選抜する場合、普通は候補者どうしを比較しての相対評価で判断しがちですが、J.Y.Park氏はそれをしない。絶対評価です。候補者自身がどれくらい伸びたか、前に指摘した課題がクリアされているかを見て、それができた人には大袈裟なくらいの表現で褒めていました。努力が認められた本人は嬉しいし、モチベーションも上がります。結果、候補者たちは、もっとうまくなりたい、褒められたいと、能動的に努力するようになっていきました。

北川 一方、かなり辛辣なコメントをしている場面もありましたよね。

原田 はい、そうですね。でもそれが、「自分にはまだ足りないものがある」と自覚させるのでしょうね。厳しい指摘を、むしろ発奮材料にしていました。

北川 「あなたをきちんと見ていますよ」ということを相手の心にしっかり認識してもらったうえで、その人自身の “ 過去 ” と “ 今 ” を比較対象にして、昨日よりも頑張って成長した点を認めてあげること。それが大事なのですね。相手が大人であっても、小さな子どもに対峙する際に心がけているような、「他人と比べず、子ども自身を見てその成長の度合いを認めたり指導したりすることが大切」というのは同じなのだと気づかされました。

原田 メンバーの一人ひとりに正対し、候補者の目線まで下りて寄り添う。J.Y.Park氏のそんな姿勢を目の当たりにして、果たして自分はそれができているのだろうか、と自問しました。とても有意義なコーチングの題材になったと思います。

小田 J.Y.Park氏の手法には、活かすことができる有意義な学びが多くあります。でもそれが功を奏していたからといって、誰もが同じようにすればよいと錯覚してほしくはないと思っています。万人に当てはまる方法論なんてないのですから。だからこそ、このワークショップにおいて、敢えて「J.Y.Park氏がSMFLのマネージャーになったとしても、うまくいかなそうなところはどこだろう」という視点でも考えてもらいました。

北川 実務においては、年代もバラバラで、向いている方向もそれぞれ異なる部下たちをケアし、チームとしてまとめなくてはならない。だから、そもそもこのワークショップで参考にしてもらったJ.Y.Park氏についても、「アイドル予備軍を相手にするのとは違う」という不満を感じる人がいてもいい。そうした思いも吐き出してもらったうえで、自分たちとしてのありたい姿や、あるべきマネージャー像を高い解像度で描いてもらうことを小田さんと目指しました。私たちワークショップの企画者が「正解」を持っていて、それを「教える」という場ではなく、あくまで参加者である部長たちが、立場を同じくする仲間たちとリーダー像を「探究する」ワークショップとして、この場を設けた所以です。

原田 考えてみれば、「Nizi Project」ではJ.Y.Park氏だけが凄いわけではなく、候補者もみんな凄かった。とはいえ企業では、そこまで頑張ろうとする人ばかりでは必ずしもないですからね。だからこそ、一人ひとりの持つ力や価値観を知る、「相手を知る」ことが大事なのだと、ワークショップを通じて考えさせられました。

北川 自分とJ.Y.Park氏は違う、と感じることで、「ならば自分はどういうリーダーになれるだろう?」と考えるようになります。そんな、自分自身の “ 探究 ” を始めるきっかけにしてもらうのが、今回のワークショップの一番の肝でした。答えを得るのではなく、探究する “ 問い ” を日常に持ち帰ってほしかったのです。嬉しいことに思いは通じて、対話を通じて「自分は野村克也監督をロールモデルにしたい」なんてコメントも参加した皆さんのなかから出てきたりしました。率直に、よかったな、と思っています。

小田 集合形式での実施予定が、急遽オンラインでの実験的な対応となりました。結果として、全員がイーブンな関係で参加でき、むしろよかったという声もいただけました。

北川 オンラインならではの効果も見極め、その環境での最適な手法を模索し、今後も必要に応じて新しい方法を提案していきたいと思っています。

部下の成長を見守るのは、終点のない旅程

──次なる展開を教えてください。

原田 部を預かる者としては、部下のみんなが気持ちよく仕事をして、充実した毎日を送ってほしい。とはいえ、一人ひとりの置かれている環境や事情は異なります。もしかしたら、仕事に集中できない悩みを抱えているかもしれない。そうしたことを知る手段として、1on1をさらに活用していきたいと思います。そして仮に阻害要因があるのであれば、それを取り除くための環境を整えるのも、上長の役割です。たとえば、家庭の事情により自宅でリモートワークすることが難しい部下には、SMFLみらいパートナーズが事業展開パートナーシップ契約を結んだ、法人専用のサテライトオフィスサービス「ZXY(ジザイ)」を活用してもらうことも、ストレスフリーな環境で高いパフォーマンスを発揮させるための選択肢になると思います。

北川 マネジメントって、「終わりなき旅路」なのだと思います。人材開発室としては、そんな旅路に寄り添うシェルパのような存在になれたら、という思いがあります。世の中や会社を俯瞰したうえで、当社が、会社としてあるいはチームとして何が求められているのかを把握し、適切なソリューションを提供していきたいと思っています。

小田 組織のなかで、互いの多様性を尊重しながら、チームとしての在り方を議論できる状態をつくることは重要ですね。ゴールを目指すというよりも、実践と自問自答を繰り返しながら、循環するサイクルをつくることが大切だと感じます。

北川 私たちSMFLでは、社員各自の「価値観」の多様性を尊重し、それを活かせる組織づくりを目指しています。リモートワーク制度の拡充も、「1on1 ワークショップ」の試みも、そのための多様な働き方を支える改革の一環。一人ひとりの人生目標は違っていて当然な時代です。会社は、それぞれの社員が持つ思いを “ チャレンジ ” という形に昇華させ、それを実現するための大きなフィールドを提供し、個人の成長を後押ししていきたいと考えています。三井住友の看板を背負った「Team SMFL」のメンバーとして、その具現化に向かって人材開発室としても “ チャレンジ ” していきたいと考えています。

Introduction

働き方を、ジザイに。サテライトオフィスサービス「ZXY(ジザイ)」

「ZXY」は、職住近接で働くニーズに応えるために、主に首都圏でフレキシブルに働くことができる場所を提供。1名用個室を多く配置し、高セキュリティのワークスペースを、首都圏の住宅地エリア(武蔵小杉、三鷹、浦和、船橋など)を中心に国内144箇所(21年6月末時点)で展開しています。

サテライトオフィスサービス「ZXY(ジザイ)」入口
入口
サテライトオフィスサービス「ZXY(ジザイ)」内観
カフェのような開放的なスペース
サテライトオフィスサービス「ZXY(ジザイ)」内観
Web会議もしやすい個室

※新型コロナウイルスをはじめとする感染症予防対策を取ったうえで取材を実施しております。

(内容、肩書は2021年7月時点)

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