“日常の壁”を解き放ち、次世代リーダー層の成長が加速。トモズが進める「ボトムアップ型組織」への自己変革をSMFLがサポート
社員の自発性・積極性を強化すべく、三井住友ファイナンス&リースの経営支援プログラム「More Than Finance®」を採用したドラッグストア・トモズ。ワークショップ型の人材育成セッションはトモズにどんな変化をもたらしたのか。
渡瀬康生氏は、1つの課題に直面していた。首都圏を中心にドラッグストア200店舗余を展開する株式会社トモズ。渡瀬氏はその取締役 店舗運営部分掌 兼 CDO(最高デジタル責任者)だ。医薬品医療機器等法(薬機法)や薬剤師法などさまざまなコンプライアンスの徹底が必須であり、人命に関わる業務であるという強い責任感の中で、“ キーマン ” であるべき地区長やブロック長にいかに自己変革を促すか、社員の主体性を養い、それを会社の文化として定着させる手立ては、いったい何か──。
兼 店舗運営部分掌
渡瀬 康生 氏
“ ボトムアップ ” の活性をいかに高め、組織のレジリエンス強化にどうつなげるか。他の多くの企業にも共通する課題である。トモズは「社員が最大の武器といえる会社にして、ボトムアップ型組織で地域医療に貢献する」という理念を掲げる。店舗やエリアごとに異なるドラッグストアの顧客ニーズに応えるのは、他でもない、最前線の店舗従業員だからだ。店舗従業員が、顧客の生の声を聞き、動向を肌で感じ、最適なサービスを提供するとともに最適な販売戦略を提案する──渡瀬氏が、そうした本来的な姿への変革を模索するタイミングで提案されたのが、三井住友ファイナンス&リース(SMFL)が提供する経営支援プログラム「More Than Finance®」(MTF)による人的資本強化策だった。
SMFL東京営業第四部長 那波剛が語る。「トモズさんとはリースや財務ソリューションで長いお付き合いがありますが、人材育成に強い課題認識を抱いていたことを再認識しました。MTFを提案したのは、営業上のシナジーの点で私どもからの価値提供がまだ足りないと気付いたことがきっかけでした」。こうして、プロジェクトは動き出した。
「ボトムアップ型組織」への進化に立ちはだかる壁
住友商事グループのドラッグストア・トモズ(Tomod´s)。今では当たり前に普及している調剤併設型というスタイルを1993年の創業当時からいち早く取り入れ、2019年からは調製業務を自動化するロボットを一部店舗に導入するなど、競争が激烈なドラッグストア業界で独自の路線を開拓してきた。
その歩みを渡瀬氏は「調剤と物販のシナジーをいかに高めるかに努め、その2つを起点にヘルスケア全般で地域社会に貢献してきました」と振り返る。「処方箋による調剤にとどまらず、生活習慣病予防などの未病領域でも価値を提供すること。創業から29年、この知見の蓄積が、当社の優位性の1つです」
「ヘルスケア全般」「地域社会への貢献」の分かりやすい例が、専門性が高い社員の布陣だ。管理栄養士資格を有する社員は、全社で約200名(2022年8月時点)。その多くは登録販売者の資格も併せ持つ。薬と栄養の専門知識を有する社員を各エリアの店舗に重点配置し、処方薬などの説明をした後、栄養相談に乗ることや、健康維持に役立つレシピを提案できる体制を構築してきた。こうした社員は現在も増員中だ。
そんなトモズが抱えていた課題が、「社の理念を実践しながら組織を先導する “ 次世代 ” を、いかに育成するか」(渡瀬氏)だった。トモズでは、7~8店舗で構成されるブロックを「ブロック長」が統括し、複数のブロックを「地区長」が管轄する体制を取る。これら “ リーダー層 ” の社員であっても、中には消極的な態度や指示待ちの傾向が見られたという。
その理由を渡瀬氏はこう分析する。「お客さまと直に接する現場では、医薬品などの過誤の防止やコンプライアンスの徹底が特に厳格に求められます。現場と近いリーダー層は、立場上、大胆に振る舞うよりも慎重を期すことが多く、上からの指示待ちになりやすい。加えて、コロナ禍に伴い現場の人手不足が常態化したため、リーダー自ら店舗に立つ機会も増え、身動きが取れなくなっていました」。こうした傾向は、トモズに限らず、ドラッグストア業界全体に共通する課題とも認識されている。
次世代を担うリーダー層の “ 脱皮 ” こそが、ボトムアップ型組織への本当の進化につながる──それが、渡瀬氏を含む経営幹部の一致した見立てだった。
課題とニーズをくまなくヒアリング。計画的な実行プランを策定
SMFLの那波が提案したMTFとは、「金融の枠を超えた成長サポート」。重要課題の解決や成長支援のため、最適なセッションをテーラーメードで企画・提供する。渡瀬氏は、リース会社のSMFLから人材育成プログラムを提案されて、当初は驚いたそうだ。だが、提案の中にあった「ワークショップ」というメソッドにピンとくるものを感じ、経営トップの了承を得たうえで、採用を決断した。
トモズとSMFLは、時間をかけて丁寧に課題(社員たちの着想や発想・行動が、どうしても既存の枠組みにとらわれがちなこと)を共有し、構成を練った。「社員に効くセッションは何か。何度も打ち合わせに来ていただきました。当社の課題を理解しようとしてくださる “ 熱さ ” がありがたかった」と、渡瀬氏は振り返る。6カ月後、セッション構成が固まった。「新規事業のアイデア創出」という切り口のワークショップだ。
白熱したセッションを通じ、“ 日常の壁 ” を打ち破った参加者たち
2021年11月、「次世代のビジネスアイデアを考えるWorkshop」が実施された。参加者は、地区長、ブロック長、本部の各部マネジャーなど、トモズの次世代を担うリーダーたち。「優秀な半面、本来持っている力をまだ存分に発揮できておらず、モチベーションや熱量の向上に期待したい」(渡瀬氏)、そんな20名が選抜された。
20名は4チームに分かれ、まず「自社の強み」と「ドラッグストアに期待されるもの」を各チーム内で洗い出し、付箋に書いて貼り出していった。付箋の内容を掛け合わせながら4チームが新規事業のアイデアを練り上げ、全体プレゼンテーションの場で披露。ワークショップを通して那波が狙ったのは「 “ 日常の壁 ” を打破し、アイデアを引き出すこと」。発表された事業案はどれも「すぐに実行可能」(渡瀬氏)なものばかりだったという。
那波 剛
「3つのことが印象に残っています」と、那波はワークショップの様子を振り返る。
1つ目は、「冒頭、德廣(英之)社長からの『遠慮せずに積極的に意見を言って構わない』の言葉で場が和んだことです」。実際に参加者からは「会社をもっとこう変えたいというアイデアを、私たちからもっと出してもいいんだということが、社長から直接発言いただいたことで改めて自分ごととしてよく分かりました」と発言があったという。
2つ目は、「成果物のプレゼンテーションに対する渡瀬さんのコメントです。的確、かつ情熱的。しかも『次の経営会議で検討する』『この部分を詰めれば実現可能』など、具体的でポジティブな内容が参加者のモチベーションを高めていることが伝わってきました」。そして3つ目が、各参加者からの発言だった。「同じ会社でも日頃あまり面識のない他店、他部門のメンバーとチームを組み、多様な考え方が認識できたことで仲間意識がより強くなった」。これらの言葉に那波は、セッションの確かな手応えを感じた。
「ビル1棟まるごとトモズ(健康ビル)」の誕生へ。ボトムアップで行動変容が次々と
MTFのセッション後、参加メンバーには「ポジティブな行動変容が見られるようになった」と渡瀬氏は話す。「会議での発言が増えました。質問し、答えを聞いてもさらに掘り下げようと、しばしば質問を重ねてきます。新たな展開は店舗レベルでも生まれています。たとえばブロック長が『地区の特徴を考え、ビジネスパーソンに人気の高いパンやクッキータイプの “ 完全栄養食品 ” を取り扱おう』とバイヤーに提案。そのブロックから始まった販売が他のブロックの店舗に拡大するといった動きです」
より直接的な成果もあった。ワークショップのプレゼンテーションで提案された「ビル1棟まるごとトモズ(健康ビル)」の事業化だ。「調剤と物販、加えてクリニックやフィットネスジム、さらに健康志向のカフェ、健康相談ステーションなどが入居する健康ビルをつくるというアイデアでした。実はたまたま同様の新規事業を経営サイドですでに検討していたのですが、現場から同じ案が出てきたことで、検討案件が推進計画へと押し上げられました。セッション参加者が経営の背中を押してくれた。まさに “ ボトムアップ ” です」(渡瀬氏)。「ビル1棟まるごとトモズ(健康ビル)」は、2022年10月に池尻大橋店の健康をトータルにサポートする「トモズラボ」として実現した。
「More Than Finance®」を通して新規事業のボトムアップを実現
MTFの経験を基に、さらなる共創へ
MTFのセッションを通してクリエイティブ・シンキングを手に入れた次世代のリーダーたち。彼らと共に、トモズはどこに向かうのだろうか。
渡瀬氏は、DX(デジタルトランスフォーメーション)により現場業務の効率化を徹底したうえで、専門知識とコミュニケーションの価値を提供できる体制をより強化して、人で差別化を図っていきたいと話す。SMFLとの共創に関しては、「幸い、業績も回復基調で、いろいろとチャレンジできる状況にあります。MTFの第2弾や、教育領域でのコラボレーションにも期待したい」(渡瀬氏)と意欲を示す。
SMFLのMTFが今回、「即効性」ともいえる効果を発揮し得たのは、MTFの「定型メニュー」から一歩踏み込んだ提案内容だったことも1つの理由といえる。もともとMTFはテーラーメードの経営支援プログラムだが、那波とMTF推進部がトモズとの長年にわたる信頼関係を背景に、「顧客課題を読み解く営業」に徹したことが奏功した。
那波はこう語る。「今回のMTFでは、お客さまにとっての新しい価値を、お客さまの目線で考えることの大切さを、リース会社として再確認しました。MTFの第2弾を含め、“ 人財 ” を育むトモズさんとの新たな挑戦に取り組んでいきたい」。両社の今後に要注目だ。
MTFセッションのファシリテーターを務めたMTF推進部のコメント
セッションという「場」の持つパワー
経営者の皆さまから次世代リーダーの自己変革や現場の主体性発揮に関するお悩みをお聞きします。一方で、自社の将来を真剣に考えている現場の皆さんとも多くお会いしてきました。そこで今回は、参加者の皆さんが上司への遠慮や周囲とのしがらみがなく、自社のビジネスについて真剣に考えられる場として、このワークショップをデザインしました。
当日は私の出番もないくらいアイデアが溢れ出しました。また、最終プレゼンテーションに対する渡瀬さんのポジティブなコメントが参加者の主体性を育み、現場と経営層との信頼関係をさらに強固なものにしている印象でした。
現場の皆さんの問題意識や未来の絵姿をカタチにして経営層と共有する「場」の持つパワーの大きさを確信できました。これは私たちが提供するMTFにも大きな “ 気付き ” をもたらしてくれました。
※ 新型コロナウイルスをはじめとする感染症予防対策を取ったうえで取材を実施しております。
(内容、肩書は2022年12月時点)
お問い合わせ
MTF推進部
TEL:03-6695-6139