老舗旅館の潜在価値を再発見し、「金融」の力で持続可能な観光資源へ
──パートナーシップで目指す旅館再生と地域課題解決の現在地

岩手県鶯宿温泉・長栄館 NBI旅館再生プロジェクト 前編

不動産投資を事業とするNBIホールディングスは、旅館・ホテルなどに眠る “ 活かし切れていない価値 ” を引き出すノウハウを持つ。同社は2025年春、子会社を通じて岩手県の老舗温泉旅館・長栄館を取得、再建に着手した。そのプロジェクトに、「持続可能な地域観光資源の再定義」の意義を見出し、参画したのが、三井住友ファイナンス&リース(以下、SMFL)とその戦略子会社・SMFLみらいパートナーズだ。両社が共創するに至った経緯とその狙いについて、プロジェクトの当事者たちに話を聞いた。

地元に愛された「地域一番館」の誇りを受け継ぐために。老舗温泉旅館の観光資源としての魅力を再定義

「 “ 大義 ” があるか。それが重要だと思います」──SMFLみらいパートナーズの原田は、こう切り出した。現在進行中の「長栄館の再生」プロジェクトには、原田の言う “ 大義 ” が宿っている。
「常に『SMFLならではの価値を提供できるか』という視点を持って事業に取り組んでいます。“ 儲かるだけのビジネス ” は、やりません」

全国各地の有名観光地に、インバウンド客など多くの人々が押し寄せているその一方で、素晴らしい観光資源を有しながらそれらを活かし切れず、客足が遠のき、活気を失っていく観光施設や温泉街が、日本各地には存在する。

東北地方を縦貫する奥羽山脈の東。岩手県の雫石町にある鶯宿おうしゅく温泉の「長栄館」も、そんな旅館の一つだった。

鶯宿温泉は、盛岡からもほど近く、開湯450年ほどの歴史を持ち、古くから湯治場として栄えてきた県内有数の温泉郷である。なかでも長栄館は、この温泉郷の中核的な宿で、地域の人々は家族の祝い事や記念旅行の定番として、長くその名に親しんできた。それだけでなく長栄館は、温泉そのものの魅力にも秀でていた。長栄館の源泉は、毎分300リットル以上という、国内有数の湯量を誇る。だが、昔ながらの経営スタイル、老朽化が進んでいく設備、さらには深刻な人口減少という社会課題などの要因が重なり、コロナをきっかけに営業休止に追い込まれた。

株式会社NBIホールディングス
代表取締役社長
金谷 隆行 氏

「地域に愛された長栄館の営業再開を」と再建を待ち望む地元の声は多かった。その “ 熱 ” に、ある人物が目を留めた。
金谷隆行氏──地域の活性化を目的に “ MACHIづくり共創会社 ” を掲げる不動産投資企業・NBIホールディングスの創業者にして、「地方創生」をコンセプトとしたホテル・旅館再建事業のスペシャリストである。2025年、金谷氏は、次なる旅館再生のターゲットとして、長栄館を取得する決断をした。

確信した「長栄館」の唯一無二のポテンシャル。地域活性化の核としての旅館再生を目指す

それから約1年。現在、「長栄館」では2026年7月のリニューアルオープンに向けた改装工事が着々と進んでいる。NBIホールディングスとSMFLみらいパートナーズが協力した再生プロジェクトが、本格的に始動したのだ。

2025年4月、金谷氏が率いるNBIホールディングスは子会社を通じて長栄館を取得した。事前に現地を視察した時の印象を、金谷氏はこう語る。「地域のなかでも輝くことができる旅館だ、というのが第一印象です。風情あるたたずまい、歴史を感じさせる重厚感がありました」(金谷氏)

金谷氏がNBIホールディングスを創業したのは2024年8月。それまでは約10年にわたり、星野リゾートグループで投資責任者を務めてきた。金谷氏はNBIホールディングス創業時の思いをこう振り返る。「前職で投資責任者として全国の観光地を巡るなかで、素晴らしい観光資源があるにもかかわらず、魅力が十分に引き出されていない旅館やホテルを数多く目にしてきました。そのような観光地・施設に対するもどかしさと、その地域にしかない資源や魅力をフル活用して地域の活性化を図るべきだという課題意識が、起業の原点になったのです」(金谷氏)

株式会社NBIホールディングスの概要

社名 株式会社NBIホールディングス
設立 2024年8月20日
事業内容 不動産投資事業、金融サービス事業、地方創生事業
"株式会社NBIホールディングス

設立したNBIホールディングスの企業ビジョンは、「地方社会の活性化を実現し、地方創生により未来の日本をもっと豊かに」。以来、旅館やホテルの不動産投資事業を次々と手掛けてきた。現在、同社には年間500~600件の再生案件が持ち込まれるという。長栄館はその膨大な案件群のなかの選りすぐりの一件だった。

「長栄館の取得に際して、決断を後押しした要因がもう一つあります」と金谷氏は語る。「SMFLというパートナーの存在です。私がまだ星野リゾートグループに在籍していた時、福岡のホテル案件を通じ、SMFLグループとの接点ができました。その折に『社会価値の創造と経済価値の拡大』というSMFLさんの理念に共感を覚えたことから、本案件でも当社と同じ方向性を共有できると確信し、パートナーとしての参画をお声がけしたのです」(金谷氏)

理念一致したNBIホールディングスとSMFLが「パートナー支援型事業投資」で共創

SMFLみらいパートナーズ
不動産本部副本部長
原田 圭

SMFLの戦略子会社、SMFLみらいパートナーズ 不動産本部副本部長の原田は「願ってもないご提案でした」と明かす。

「地方のホテルや旅館の再生事業は、一般的には大手不動産デベロッパーが手を出しにくい領域です。しかしSMFLグループは、これを解決すべき社会課題と捉え、強みを発揮できると考えています。重要なのは、誰のため、何のための事業か、そして、そこに大義はあるか。今回のお話は、コロナ禍で営業休止に追い込まれ、地元が復活を待望する旅館を再生するだけでなく、金谷さんのような高い志と実力を持つパートナーの成長を後押しするという大きな意義がありました。さらに、SMFLグループが全国に持つネットワークを活用することで、地方のお客さまのお困り事をNBIホールディングスの再生ノウハウとSMFLの金融の力で解決する。このような新たな価値をお客さまに提供できる可能性、大きなビジネスチャンスにつながっていくイメージが湧き出てきました」(原田)

不動産事業は、SMFLグループの主力事業の一つだ。2018年に戦略子会社のSMFLみらいパートナーズを設立し、事業の拡充を図ってきた。また同社では、ホテルアセットの積極的な取得に伴い営業・管理体制を順次強化。2026年4月にはそれまでの専門チームを「ホテルアセット営業部」として部署化した。同部が中心となって推し進めている取り組みの一つに、「パートナー支援型事業投資」がある。
「新たな社会価値」を創出しようと志す不動産プレイヤーの成長を、資金面の支援だけでなく、案件発掘から組成まで伴走することで、後継者不足や事業承継、地方創生といった社会課題の解決にもつなげる。今回、NBIホールディングスと協力した長栄館再生プロジェクトは、このパートナー支援型事業投資の枠組みで実行された。

  • パートナー支援型事業投資:金融機能の提供にとどまることなく、パートナーの成長を支援する取り組み。パートナーは、案件発掘や組成に実力を有する全国のAM(アセットマネジメント会社)・ホテルオペレーター・デベロッパー・企画会社など。

「地方創生」を共通項に響き合う両社のビジョン。本格始動した「長栄館」

金谷氏は自社の投資事業について、次のような考えを述べる。「ホテルや旅館の再生事業で地域に人々を呼び込もうとするなら、必ず長期的な視野で取り組むべきだと考えています。それが、我々の事業の “ 軸 ” なのです。『安く買い、高く転売して終わり』というスタイルは、NBIホールディングスの事業にはなじみません」(金谷氏)

NBIホールディングスの事業の特徴は、高ポテンシャルの地方の旅館や宿泊施設等を取得し、リニューアル工事やリブランドを行い、流動性を高めることにより金融商品として再構築すること。金谷氏はその狙いを「地方の旅館、宿泊施設等の流動性を高め金融商品化することにより、東京に偏っている資本を地方に再分配する仕組みを構築する」と表現する。都市部に集中しがちな資本を地方にも向かわせ、地方の交流人口を増やす仕組みを築き、地域社会の活性化と地方創生を実現する──というアプローチだ。

“ 流動性 ” が高まり、機関投資家の資本が地方のホテルや旅館や宿泊施設等に入ってくる構造が生まれれば、素晴らしい旅館や宿泊施設が創出され、その結果として中央から地方への人の流れが起こり、その先に地方に雇用の流れ、地域経済活性化の流れが生まれる。

今回の長栄館の再生プロジェクトは、旅館のブランド価値の向上から観光客の誘致を図り、さらには鶯宿温泉エリア全体の再活性化を促す──NBIホールディングスの “ 軸 ” が、SMFLグループの “ 大義 ” と響き合った。

2025年9月、SMFLみらいパートナーズは金谷氏の要請に応え、長栄館をNBIホールディングスから取得。旅館再生プロジェクトが本格始動した。

圧倒的な「源泉力」を新ブランドの核へ。『源泉一途』としての第2幕の始まり

長栄館のリニューアル工事は全館にわたる。工事に並行し、2026年1月、営業再開後のブランド戦略が公表された。『源泉一途』(GENSEN ITTO)。リニューアル後の運営を託されたホテルオペレーション企業・コアグローバルマネジメントが手掛けるホテルブランドである。
旧長栄館はその旗艦施設の一つ『源泉一途 岩手雫石』として生まれ変わる。“ 源泉力特化型 ” を謳うそのブランドに、長栄館の唯一無二の魅力である「湯量毎分300リットル以上」が活かされた。

金谷氏は、「従来の旅館ブランディングにはない斬新なアプローチです。人為では生み出せない “ 温泉 ” という天然資源が、旅館の核心的な価値として前面に打ち出されました」と評価する。『源泉一途 岩手雫石』の開業予定は2026年7月。2月には予約も始まった。リニューアルオープンはもう間近だ。

  • 改装前

  • 改装後

ロビーの改装前後の様子。2026年7月のオープンに向け、新ブランド『源泉一途 岩手雫石』のコンセプトに沿ったリニューアル工事が着々と進んでいる。

この協働を通し、NBIホールディングスとSMFLグループの絆はさらに強く結ばれた。原田は、金谷氏およびNBIホールディングスの構想力、プロデュース力、スピードに驚かされたという。「金融機関や投資家がお金を出しやすい “ 出口戦略 ” を含めた、全体のスキームを構想いただきました。再生案件のバリューアップ計画策定と並行しながら将来のREIT組成に向け運用会社を立ち上げるなど、先手を打ち続けるスピード感には圧倒されました」(原田)

金谷氏はこう応える。「SMFLグループの “ 懐の深さ ” が、スピードアップの助けになったのです。理念が一致し、確かな相互信頼があったからこそ、ホテル・旅館のバリューアップ投資のプロである私たちに任せて、現場への介入は必要最小限に抑えながら進捗を見守ってくださいました」(金谷氏)

「パートナー支援型事業投資」の枠組みに基づく両社の共創は、今後に向けさらに広がっている。2025年11月、「長栄館」プロジェクトに続く新たな協業プロジェクト、「阿蘇黒川温泉」と「伊豆下田南楽」が発表された。SMFLみらいパートナーズはこれらの2物件においても、NBIホールディングスの子会社から取得し、新たな施設へと生まれ変わらせるプロジェクトに参画する。

金谷氏が語る。「我々は、“ 三方良し ” ならぬ “ 四方良し ” を実現したいのです。地域、施設の運営者さま、SMFLさん、そして当社というステークホルダー4者が、価値を享受できる仕組みを推し進めていきます」(金谷氏)

原田は「私たちも期待しています。全国のSMFLグループのお客さまが抱える不動産に関する課題解決には、NBIホールディングスさんのノウハウが助けになるケースが、必ずあるはずですから」と応じた。

地域のホテル・旅館再生は、日本の地方創生・地域共創に寄与する可能性を秘めている。大都市に偏在する資本を地方にまで行き渡らせ、循環させ、眠れる観光資源を金融の力でよみがえらせる──NBIホールディングスとSMFLグループが協力し、東北地方の一つの温泉地で動き出した「持続可能な地域観光資源の再定義」の挑戦。今後、全国各地の地域社会に新たな明かりを灯すだろう。

(内容、肩書は2026年5月時点)

お問い合わせ

SMFLみらいパートナーズ株式会社 ホテルアセット営業部 
TEL:03-6695-8210

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