「源泉の価値」を最大化する「ホテルの運営基盤」
──3社共創のホテルブランド『源泉一途 岩手雫石』で提示する、持続可能な地域創生モデル
岩手県にあるかつての名門旅館「長栄館」がNBIホールディングスとSMFLみらいパートナーズの協力により、2026年7月リニューアルオープンする。
両社に加え、運営を担うため本プロジェクトに参画したのは、独自のホテルブランドを多数展開するホテルオペレーション企業・コアグローバルマネジメント株式会社である。優れた源泉を持つ旅館を金融商品化することで流動性を高め、東京などの都市部に偏りがちな資本を地方に再分配する仕組みを築こうとする挑戦的なこのプロジェクト。NBIホールディングス、コアグローバルマネジメント両社の社長と、SMFLみらいパートナーズの担当者に話を聞いた。
失われつつある温泉の “ 本質的価値 ” をいかに未来へ残すか──3社が挑む共創
岩手県鶯宿温泉・長栄館の再生プロジェクトの根底にあるのは、ホテル・旅館業界の価値基準への挑戦である。不動産投資を業とするNBIホールディングスが再生シナリオを設計し、三井住友ファイナンス&リース(以下、SMFL)の戦略子会社であるSMFLみらいパートナーズが資金面でサポートする。
このスキームにホテルオペレーター(運営会社)として加わったのが、大手ブランドやチェーンに属さない独立系のコアグローバルマネジメントだ。

NBIホールディングス 代表取締役の金谷隆行氏は3社の役割分担について、「長栄館を舞台とすれば、演者はコアグローバルマネジメントさん、プロデューサーがSMFLみらいパートナーズさん、演出家を当社が務めるようなもの」と表現する。
NBIホールディングスがコアグローバルマネジメントにホテル運営の白羽の矢を立てたのは、「社会課題解決に挑むべく独自の運営を打ち出す姿勢に共感を覚えたからです」とSMFLみらいパートナーズ ホテルアセット営業部 上席部長代理の青木孝平は言う。
代表取締役社長
中野 正純 氏
ホテル・旅館への投資は近年、都市部に近くアクセスの良い立地で高単価化を計画する開発が主流だ。資本力を背景に、例えば熱海や箱根のような有名観光地で価値を生むモデルである。だが、コアグローバルマネジメント 代表取締役の中野正純氏は、「我々の新ホテルブランド『源泉一途』で打ち出す価値は、“ 立地の分かりやすさ ” ではありません」と述べる。
「温泉施設の “ 本質的な価値 ” は、立地や資本力では決してなく、『泉質の良さ』にあるべきだと考えています。ただ、良好な泉質のホテル・旅館は全国にいくつも存在するのに、その多くが設備投資や人材、集客力といった経営課題に阻まれています。だから私たちは、“ 分かりやすい場所 ” に “ 分かりやすい施設 ” を作るよりも、泉質としての価値を持つ温泉を厳選し、その “ 源泉力 ” にフォーカスする。加えて、料理、サービス、アクティビティなどを充実させる。そうすることで、ホテル・旅館の存在自体が『その地を訪ねる目的』になる。こうして初めて、地域創生につながる『真の旅館再生』が実現すると考えているのです」(中野氏)
今回の再生プロジェクトで誕生する『源泉一途 岩手雫石』は、その象徴的な案件だ。
前身の「長栄館」は、毎分約300リットルの豊富な湯量と、100%源泉掛け流しという圧倒的な「泉質の良さ」を誇りながら、存続困難な状況にあった。その旅館を3社が連携して再生し、再びにぎわいの創出に挑む。地元が寄せる期待は大きく、「開業するまで、雫石町長と金谷さんとの間では、綿密に対話が重ねられました」と中野氏は語る。改装工事にあたっても、地元の建設会社が「再興に貢献したい」と協力体制を敷いたことも地域創生への期待の高さが表れている。
こうした期待に応えるべく、新ブランド『源泉一途』では、「泉質の良さ」を分かりやすく訴求するための独自の仕組みとして、「源泉一途認定審査員」の導入も行った。
優れた泉質にもかかわらず、無色透明・無臭で魅力が伝わりづらい温泉は全国各地に存在する。その良さを消費者に正しく理解してもらうため、大学研究者や温泉ソムリエといった外部の専門家を委員に据え、ブランドの認定可否を厳格に審査。「外部の目」を通し、源泉の価値を見極めることで、信頼性を担保する。
「運営の内製化」と「料理改革」でロジカルに描く、コアグローバルマネジメントのオペレーション
コアグローバルマネジメントはこれまで、全国各地のホテル・旅館の所有者から運営を委託され、オリジナルブランドでの営業戦略を展開してきた。
金谷氏は言う。
「“ 再生 ” 事業ともなれば、営業上の諸条件はより厳しくなります。加えて、金融機関や機関投資家から資金を募る以上、オペレーターには高い信頼性が不可欠です。これまでの実績に照らしても、本案件にはコアグローバルマネジメントさんが最適だと判断し、私からお声がけしました」(金谷氏)
青木も、コアグローバルマネジメント、NBIホールディングス、SMFLみらいパートナーズの3社による協業成立をこう振り返る。
「金谷さんが前職の星野リゾートグループで投資責任者を務められていた当時、福岡のホテル案件でこの3社が組んだ実績がありました。当時はコロナ禍という困難な時期でさまざまな調整が必要でしたが、3社で協力・連携を行い、その時に築いた強固な信頼関係が、本件における弊社内の意思決定もスムーズにしました」(青木)
代表取締役社長
金谷 隆行 氏
コアグローバルマネジメントが運営するホテルは、多岐にわたる。中でも同社が強みを発揮してきたのは、レストランや宴会、結婚式までを含めた複合的な運営が求められる施設だ。複雑な現場を一つひとつ乗り越えてきた結果、築かれたのが「ホテル・旅館の全機能をカバーする一体運営」という独自スタイルだ。
コアグローバルマネジメントは、清掃や設備管理、料理部門、さらには人材確保に至るまで、従来は外部委託されがちだった領域を自社で担うこの「一体運営」のモデルを提供する。
特に注力しているのが「料理」の領域だ。料理人の勤務体系を見直し、中抜けシフトから脱却することで、オペレーションの合理化と、地元ならではの食材を生かしたバラエティ豊かなメニュー提供を両立した。
中野氏は、こう語る。
「大切にしているのは、お客さまが “ その地域ならではの味 ” と期待するであろう料理を絶対に外さないこと。『源泉一途 岩手雫石』での岩手名物のわんこそばの提供など、“ その地・その宿を訪ねる意味 ” を、料理を通して提供します」(中野氏)
さらに、業界全体で深刻化する料理人不足に対しても、独自の解決策を持つ。
同社は、都市部で採用・育成した100名以上の料理人を各地にローテーションで配置する体制を構築。これにより、地方旅館が抱えがちな「特定の人材への依存」というリスクを解消し、安定的な運営を実現した。
こうしたコアグローバルマネジメントの経営ノウハウについて、金谷氏は「本プロジェクトのソフト面の核となっています」と高く評価する。「地方のホテル・旅館は、人材確保や運営の再現性に課題を抱えるケースが少なくありません。コアグローバルマネジメントさんがソフト面でのプラットフォームを構築されたことで、旅館再生事業が、ロジカルに勝ち筋を描ける投資となることができました」(金谷氏)
「中価格帯」に着目し、“ 旅館のネットワーク化 ” を構想
ホテルアセット営業部
上席部長代理
青木 孝平
『源泉一途』ブランドがメインターゲットに見据えるのは、旅の醍醐味を重んじ、その土地ならではの体験に価値を見いだす層だ。中野氏は、高品質な宿泊体験を、幅広い層が手に取りやすい価格帯で提供することに、新たな市場の可能性があると指摘する。
「本来、優れた泉質の価値を持つ宿は、より多くの方に親しまれるべき存在です。『源泉一途』ブランドは、『その地にしかない良いお湯と良い宿を心ゆくまで楽しみたい』という、本物志向のお客さまのニーズに応える存在を目指しています」(中野氏)
コアグローバルマネジメントは、将来的に『源泉一途』ブランドを全国規模でネットワーク化して展開することも視野に入れている。食材の共同仕入れや人材ネットワーク、広告宣伝といったプラットフォーム機能を個々の旅館・ホテルに開放し、独立単体では生き残りが難しい地方のホテル・旅館を有機的なネットワークで結びつける構想だ。
「当社のプラットフォームを活用していただきながら、各地方の各施設が個性を最大限に生かしつつ、『泉質の良さ』という共通価値でつながるブランドを構築したい。実現すれば、地域再生に寄与する大きな成功事例となるはずです」(中野氏)
金谷氏は、『源泉一途』プロジェクトの意義を次のように捉えている。
「ポテンシャルがありながら、それを十分に生かせていない地域に光を当てること。ほかのプレーヤーが踏み込みにくい難易度の高い領域に挑戦して価値を引き出すこと。それが、この3社のスキームの強みです。意見を密に交換できる関係性と、投資スタンスの一致があるからこそ、ほかでは実現しにくい取り組みが可能になったと考えています」(金谷氏)
中野氏は、SMFLみらいパートナーズに対する期待をこう語る。「地域創生を目指すホテル・旅館の再生は、地に足をつけて取り組む必要があります。その意味で、中長期の視野で運営を見守ってくださるSMFLみらいパートナーズさんは、極めて心強いパートナーです」(中野氏)
SMFLみらいパートナーズにとってもまた、本プロジェクトは地域創生の一環であり、単なる不動産投資ではない。コアグローバルマネジメントへの期待を青木はこう説明する。
「例えば物流施設やデータセンターを建設しても、地域創生に一定の効果はあると思います。対して、ホテルや旅館を再生する場合は、そこに『観光』という大きな可能性を伴います。ただし、ただ綺麗に作り変えるだけでは、地域への波及は不十分。優れた『運営』で持続可能な価値を持つことが重要です。それゆえオペレーションを担うコアグローバルマネジメントさんには地域創生の観点からも大きな期待を寄せています」(青木)
SMFLみらいパートナーズは今後「パートナー支援型事業投資」の枠組みをさらに拡大し、年間100億円規模の投資を計画している。本プロジェクトのような社会的意義のある事業への長期的なコミットメントが、ホテル・旅館の再生という領域での挑戦を可能にしているといえるだろう。
コアグローバルマネジメント、NBIホールディングス、SMFLみらいパートナーズが強みを持ち寄り、取り組んだ今回の旅館再生プロジェクト。3社の共創は、地域創生の一つのアプローチとして今後の展開に注目が集まる。
雫石町長よりメッセージ
岩手県雫石町長
猿子 恵久 氏
Q:「雫石町」はどんな町でしょうか。
A:雫石町は、岩手県の中西部に位置し、東方には約16kmの距離に県庁所在地である盛岡市があり、西は秋田県境の仙北市に隣接しています。
県内最高峰の岩手山(標高2038m)をはじめとする雄大な自然に抱かれ、温泉やスキー場、日本最大級の民間総合農場である「小岩井農場」など観光施設も充実しています。
中でも、鶯が傷ついた足をひたして治したことからその名が付いたといわれる「鶯宿温泉」は開湯から450年以上の歴史を誇り、古くから多くの湯治客や観光客に親しまれてきた、当町の観光振興の柱となるエリアです。
Q:旧「長栄館」は町や地域の皆さまにとってどのような存在でしたか? また、今回の再生プロジェクト始動に際して、どのような印象を持たれましたか。
A:長栄館は鶯宿温泉の代表的な旅館の一つであり、源泉掛け流しの豊富な湯量と、肌に優しい泉質から町内外の方々から好評を博していました。
それだけに、コロナ禍による休館は、町にとっても大きな衝撃でした。今回のプロジェクトを伺った際は、NBIホールディングスさんの旅館再生における専門知見とSMFLさんの金融の力が結集することで、再びこの歴史ある宿に明かりが灯ることに、大きな喜びと心強さを感じました。
Q:新ホテルブランド『源泉一途』として再開することへの期待をお聞かせください。
A:圧倒的な湯量を誇る源泉をブランドの核に据える『源泉一途』のコンセプトは、雫石町の地域資源を再定義した素晴らしい視点だと感じています。コアグローバルマネジメントさんも含めた3社の共創が、地方創生の新たな成功モデルとなることを確信しています。
Q:今回のプロジェクトは、雫石町のみならず、同様の課題を抱える全国の自治体にとっても意義があると感じます。自治体の視点から見た本取り組みの価値や、今後の雫石町への波及効果、地域創生に向けた期待をお聞かせください。
A:本プロジェクトは、単なる一施設の再生にとどまりません。全国の地方観光地にとっても、極めて重要な再生モデルになると確信しています。雫石町としても、このプロジェクトを契機に関係人口を増やし、地元の雇用創出や地域経済の活性化へつなげていけるよう、官民一丸となって取り組んでいく所存です。

(内容、肩書は2026年7月時点)
お問い合わせ
SMFLみらいパートナーズ株式会社 ホテルアセット営業部
TEL:03-6695-8210








