なぜ、「金融×事業×DX」にSMFLは“挑める”のか? DE&Iを基盤とした「キャリア開発&次世代リーダー育成」の強化を問う

自身のキャリアを切り拓く

企業にとって「人的資本経営」へのシフトはもはや不可避。今問われているのは、芯が通った具体策をどう講じていくかだ。ヒントになるのが、三井住友ファイナンス&リース(SMFL)の取り組みだ。2022年10月に立ち上げたラーニング・プラットフォーム「SMFLアカデミー」など、人財開発・育成に関する諸施策を実施。現在、経営ポートフォリオの多様化・高度化を念頭に、自社「人財」のDE&Iを深化させつつ全社を挙げて事業の裾野を広げている。そんなSMFLの挑戦について、日本における人事専門コンサルティングのパイオニア企業として知られる株式会社セレブレインの代表取締役社長 高城幸司氏と、SMFL執行役員ヒューマンキャピタル開発部長 兼 人事部 部付部長 内田直美に話を聞いた。

諸行無常。キャリアは、働き手が主体的にデザインする時代へ

「考え方が、双方向で変化しつつあります。働く側と、働く場を提供する側、双方の顕著な意識変化が背景にあります」。大手企業が今「人的資本経営」に力を注ぐ状況を分析してこう言い切るのは、セレブレインの高城幸司代表取締役社長だ。

株式会社セレブレイン 代表取締役社長
高城 幸司 氏

「まず働く人の意識。かつては、会社が敷いたレールに乗って自分のキャリアを形成することを当然視してきました。それが現在では、価値観が多様化し、『なりたい自分』を各自が明確に意識するように一変しました。個人が主体的に自らのキャリア計画と向き合う『キャリアオーナーシップ』の意識が高まったのです」(高城氏)。メンバーシップ型雇用に加えて、ジョブ型雇用を取り入れる日本企業が増えてきたことも、この変化に関係しているという。

「次に企業側の意識変化です。高齢化と人口減少が進むなか、『財産としての人材』を自社の命脈と考える企業が必然的に増えました。働く人の意識・価値観を尊重する人的資本経営は企業にとって、“ 道徳的な方向性 ” から “ 勝ち抜くために必要な重要戦略 ” へと変じたのです」(高城氏)

これらの動きと軌を同じくするように、2023年3月期の決算以降、上場企業には、投資や育成などの人的資本関連情報を有価証券報告書に記載しステークホルダーに開示することが義務付けられた。

SMFL 執行役員ヒューマンキャピタル開発部長 兼 人事部 部付部長
内田 直美

今ではすっかり時代の本流となった人的資本経営に、早い時期から取り組んできた企業の一つが、SMFLだ。それには同社の沿革に根差す「強い動機があった」とSMFL執行役員ヒューマンキャピタル開発部長 兼 人事部 部付部長の内田直美は説明する。

「SMFLは、異なる企業文化を背景に持つ多様な人財が集まった企業です。周りを見れば実にいろいろなバックグラウンドの先輩・後輩・同僚たちが一緒に働いています。多様性を尊重した環境の中で、誰もが『人こそ財産』を実感してきました。そのため、人財投資や育成には積極的・弾力的に取り組もうという企業風土が早くから根付いてきたのです」(内田)

2007年に始動したSMFL※1は、航空機リース事業会社の買収や戦略子会社SMFLみらいパートナーズの設立、リース事業の再編などを経て、2019年にSMFLキャピタル(前身は日本GE※2)と合併、現在の骨格が成った。その後の企業買収や統合も含め、リース・金融事業を軸として、メガバンク、商社、さらに外資や不動産ビジネスなど異業種のDNAが融合・進化した結果、今日のSMFLがある。それはいわば、ビジネス領域の拡大とビジネスモデルの変容を、人材の多様化が裏付ける成長の歩みでもあった。

「2020年には経営理念や経営方針を再定義した『SMFL Way』を策定しました。そのなかで、“ 社員のチャレンジと成長を応援する企業 ” であることを、Our Vision(私たちの目指す姿)の一つに掲げています」と述べて内田はこう続ける。

「多様な社員がいるわけですから、その経験や価値観も千差万別。その違いを尊重することと、各人が最大限に力を発揮できる環境を整えることが、“ 働きがい ” と “ 成長 ” に直結します。この考えで、これまでも人財投資と育成に力を入れてきました※3。高城さんがご指摘になったキャリアオーナーシップ── “ 自分のキャリアを自分でデザインすること ” への意識変化も、私たちから見れば歓迎すべき流れです。現在、SMFLはそうした変化を経営強化に還元する具体策に取り組んでいます」(内田)

  • ※1住商リースと三井住友銀リースが合併し、三井住友ファイナンス&リース(SMFL)に商号変更
  • ※2日本GEは米国ゼネラルエレクトリック社の日本法人
  • ※3民間シンクタンクの調査では、上場企業など3,000社の従業員1人当たりの教育研修予算額(2022年度)は平均約4万3,000円(産労総合研究所調べ)。これに対し、SMFLの同年度人材教育投資額は年間約8万円で、各社平均の2倍に迫る水準。SMFLはこれをさらに、2025年度までに3倍に増額する方針を明らかにしている

枠組みを用意し、“ 魂 ” を入れる──自主・自律の成長を後押しする体験機会

内田が語る「変化を経営強化に還元する具体策」とは、人的資本経営に合致する「仕組みの高度化」と言い換えられる。その一例が、2022年10月に立ち上げた「SMFLアカデミー」だ。これまでの研修制度を補強し、新たに体系化されたラーニング・プラットフォームとして設けたものである。その狙いを内田は「 “ 個の学びの機会 ” を充実させ、高い専門性を備えた『プロフェッショナル人財』を育てるため」と説明する。

「SMFLは現在、『リースを提供する会社』から『幅広い金融機能を持つ事業会社』へと進化しています。そのために、既存のビジネスを変革できる人財、新たなビジネスを創造する人的資本が、社内に潤沢に必要なのです。SMFLアカデミーはそのための新たな学びの体系として導入しました」(内田)

SMFLアカデミーの概要はこうだ(下図参照)。既存の研修制度をテーマ別に6体系(①階層別研修、②キャリア関連、③リーダーシップ関連、④教養・スキル、⑤デジタル関連、⑥グローバル)に再整理。このうち、領域⑤の「SMFLデジタルアカデミー」(デジタル関連の研修を体系化)と⑥の「SMFLグローバルアカデミー」(海外業務に必要な研修を体系化)は新設の枠組みである。

「①の階層別研修以外の②~⑥の研修は、基本的には公募型に切り替えます。従来の研修と異なり、受講対象者を階層で分けて会社が指定するスタイルではありません。社員自身が、高度な専門性の獲得を自ら進んで目指す自律型人財への進化を促す狙いがあります。コンテンツは引き続き拡充する予定で、社員の意見も取り入れていきます」(内田)

このプラットフォームの効用を最大化すべく、制度に “ 魂 ” を吹き込む方策として整備しているのが、社員の「自発的なキャリア選択」を後押しする仕組みの数々。特に各自が自分に最適なキャリアを検討するために用意された制度のバラエティは、SMFLの「人財開発」を一本芯が通ったものとして特徴付けている。いくつか紹介する。

社内には「Career Challenge(キャリアチャレンジ)」という公募制度が常設されている。社員が異動を希望する部署に自ら応募する仕組みである。とはいえ、組織は大所帯。各部署が所管する多岐に及ぶ業務を、他部店に所属する社員があらかじめ知るのは、そう簡単なことではない。

そのためにまず、全部店は「Job Format(ジョブフォーマット)」という業務概要紹介シートを作成し、社内向けに開示している。これには、当該部店の業務内容に加えて、魅力や求められるスキル・資格などのチャレンジ項目が記載されている。加えて、他部署の業務を1日職場体験ができる「Job Shadow(ジョブシャドー)」というプログラムも準備。中長期的なキャリアを考える機会を提供するとともに、社内コミュニケーションを活性化させる狙いもある。2022年度には約800名の社員がこのプログラムに参加した。さらに、各部署の業務説明会「Job Forum(ジョブフォーラム)」を動画配信。部署ごとの実務への理解を深めてもらいながら、Career Challengeと連動して自律的なキャリア検討の機会を提供する。

一連の仕組みを内田はこう説明する。「社員、部門・部店、人事部の3者が一体となった取り組みです。社員はJob Formatで道案内され、Job Shadowで実際に体験してみる。その後、Job Forumで理解をさらに深めた上で熟慮を重ね、Career Challengeを利用して自身のキャリアを切り拓く──体系立ったこの流れに、SMFLの人財開発・育成の独自性があります」(内田)

人事戦略コンサルタントの目にこれらの施策はどう映るのだろうか。高城氏は言う。

「社員の自律性にしっかりフォーカスされた制度ですね。高い専門性を備えた『プロフェッショナル人材』を、個人の意思を発して目指すための機会が、多様化・高度化されているからです。働き手と企業の双方に大きな恩恵をもたらす仕組みです」

続けて高城氏はこう指摘する。「多くの日本企業では伝統的にメンバーシップ型雇用が採用されてきました。メンバーシップ型雇用では、異動・転勤・ジョブローテーションを繰り返して社員の適性を探ります。ただしこの雇用形態では、結果的に突出した得意分野を持たないゼネラリスト型の人材に偏ってしまうおそれがあります。昨今のように状況が急激に変化する時代には、人材の多様化・高度化が不可欠です」(高城氏)

プロフェッショナル人材を育成するSMFLアカデミー

研修体系図
SMFLアカデミーでは研修体系を次の6つのテーマに分けている。①階層別研修、②キャリア関連、③リーダーシップ関連、④教養・スキル、⑤デジタル関連、⑥グローバル。これにより、個人の自律的な専門性取得につなげる
  • Excelは、米国Microsoft Corporationの米国およびその他の国における登録商標または商標です

成長を促す、タフアサインメント。次代の経営人財への布石

では、人的資本経営は今後どう展開していくのか。SMFLの「これから」を見据えた人事戦略テーマを、内田は「将来的な『経営人財』の育成強化」だと明言する。そのためにタッグを組むパートナーが、人財開発の仕組みづくりに実績のある「セレブレイン」だ。同社を率いる高城氏は、自律的にリーダーシップを発揮できる人財の大切さを次のように解説する。

「高い専門性を内包する組織ほど、マネージャークラスがスーパープレイヤー化する傾向が強まります。しかし、これは落とし穴。そうなると若い世代は自らのリーダーシップを発揮しにくくなり、瑞々しい発想力で新たなビジネスを生み出す余白が狭まってしまうからです。そんな危険を避け、リーダーシップを自ら進んで発揮する将来の経営人財が育つ土壌を耕すには、やはり、多様な環境や選択肢をいかに用意しておくかがカギとなります。例えば、現行の業務よりもやや難度の高い課題をあえて割り当てて任せる『ストレッチアサインメント』などが考えられるでしょう」(高城氏)

また高城氏は、社員それぞれのキャリア志向を会社側が細やかに把握し、それを更新し続けることも経営人財の育成に重要だと強調する。「キャリアに関する個人の考え方は、得てして動的です。例えば1年前の時点と現在とで、社員の志向が大きく変わるケースは珍しくありません。個人レベルの変化も人事情報として、企業は継続的に理解しておく必要があります」(高城氏)

この指摘に応じるSMFLの体制を、内田は次のように示した。「社員の “ 現在 ” を知るために最も有効なのは何よりも対話であり、コミュニケーションです。SMFLでは1on1や社員面談を積極的に実施しています。社員の現状や悩みに上司が寄り添いその能力を引き出す『育成のための時間』を確保すること──これは制度化された施策の一つです。また人事情報の可視化についても、今後セレブレインさんにご協力いただき、システム化を図って経営人財の育成に役立てる計画です」(内田)

そして内田は、人的資本の開発を率いる責任者として次のように呼び掛けた。「SMFLは今、『幅広い金融機能を持つ事業会社』へと向かう飛躍の最中にあります。ただしその達成には、全社員一人ひとりの挑戦と成長が不可欠な上、新たに当社に入社してくださる方々の力も必要です。私たち人事部門も、施策の絶えざる進化と高度化に入魂の姿勢で取り組みながら、皆さまの志にお応えしていきます」(内田)

内田のこのメッセージに高城氏も「SMFLさんは、個人が成長するための機会に富んだ会社だと感じています」と共感を示した上で、こう締めくくった。

「数々の取り組みを俯瞰して特に注目に値するのは、理念体系として掲げる『SMFL Way』の精神と、人事の具体施策が明確に地続きになっている点です。一般的に、企業買収や統合を重ねて成長を遂げてきた企業では、ともすると経営理念(パーパス)が分散しがちなもの。しかしSMFLさんの場合、経営の羅針盤である『SMFL Way』に基づき、人事ポリシーがきちんと整理され、かつ、理念と施策が社内に浸透しています。こうした取り組みの在り方は、他企業にとっても、就職活動中の方たちにとっても、きっと参考になるのではないでしょうか」(高城氏)

「経営人財の育成強化」を見据えていると語った内田の言葉からは、SMFLの人的資本経営がすでに「次代のリーダーを育てる」段階に入りつつあることがうかがえる。SMFLの取り組みが日本のビジネスにどんなインパクトを与えていくか、引き続き注目していきたい。

  • SMFLでは「社員は、価値を創造しイノベーションを生み出す資本 であり、競争力優位の源泉である」という信念から、「人財」という表現を使用しています

(内容、肩書は2023年8月時点)

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