“地方回帰”が新しい投資ニーズを喚起。 地域の成長機会を支援するSMFL

リース業界最新動向 Vol.17 地域活性化とリース編

コロナ禍を機に、“ 地方回帰 ” が注目されている。地域インフラ整備へのPFI・コンセッション方式による事業参画や、農業・畜産の集約化・規模拡大とこれに伴う機械化、この分野のビジネス開拓などにより、ファイナンス需要も多様化。これに伴い、地域に根ざす企業との協働など、リース会社に求められるサービスや役割はさらに高まることが見込まれる。「地域活性化」の今後の展開について、三井住友ファイナンス&リース(SMFL)の執行役員で営業推進開発本部長の大村尚之が語る。

地方回帰に期待される、“ 消滅 ” の歯止め

地方で人口が減少し、都市圏への人口集中が続いてきた日本。こうした現状について、SMFL執行役員で営業推進開発本部長の大村尚之は、「重大な問題点が2つあります」と、警鐘を鳴らす。

執行役員 営業推進開発本部長
大村 尚之

「ひとつは、地方で生産年齢人口の流出と高齢化が同時進行し、地方自治体の衰退が加速すること。もうひとつは、都市部への人口集中が結果として出生率の低下を招き、総人口の減少に歯止めがかからなくなることです」

今年5月に、米テスラのイーロン・マスクCEOが「日本はいずれ存在しなくなるだろう」という内容をツイッターアカウントに投稿したことは記憶に新しいが、遡ること2014年には、すでに日本創生会議・人口減少問題検討分科会が、「ストップ少子化・地方元気戦略」(通称「増田レポート」)の中で、一部の地方都市の “ 消滅 ” の可能性を大きく取り上げていた。同年、内閣府が「まち・ひと・しごと創生本部」を設置したことに端を発し、“ 地方創生 ” がキーワードとして広く注目されることとなった。

「2014年以降、さまざまな施策が実行されました。例えば、地域雇用対策や観光振興、交流人口の増加対策、子育て環境の整備支援などです。残念ながら、目に見えるような効果には至りませんでしたが、ここにきて大きく変わろうとしています」

呼び水となったのは、2020年の新型コロナウイルス感染症の拡大だ。「都市部では『密』になることを避けがたい側面があり、感染症に対する脆弱性が明らかになりました。と同時に、地方回帰の動きが注目され、加速する可能性が考えられます。地場産業振興や地域のインフラ更新、さらには昨今の地政学リスクの高まりも考慮した製造業の国内回帰などは、地方における新しい投資ニーズを喚起し始めています。もちろんリース業界としても、積極的に支援していくつもりです」

求められているのは、地域に即した “ 協業 ”

近年のリース業界の特徴として、「伝統的なファイナンス業務にとどまらず、顧客の事業により踏み込むかたちでコミットする事例が増えている」と大村は見る。「例えば、旅館運営への参入や、地域インフラ整備へのPFI・コンセッション方式による事業参画、農業・畜産分野向けの新たなサービス開発などが挙げられます」

とはいえ、シンボリックな案件を手掛けるだけでは、真の意味での “ 地方創生 ” とはいえない。大村は「SMFLはより本質的な役割を担うことが求められていると感じます」と語る。「地域企業の設備投資情報や新事業機会の情報などをこまめに把握するだけでなく、積極的な新サービスの開発・提供や、我々の全国ネットワークを駆使した情報のマッチングといった役割がより求められるでしょう。これらを通じ、地域の課題解決にこれまで以上に貢献していきたいと考えています」

「さらに、モビリティー分野やスマートシティーなど次世代の『まちづくり』でも、リース業界は積極的な役割を果たす必要があります。地域の主役である企業・自治体などに対し、円滑な投資機会を積極的にサポートすることが、SMFLができる地域への貢献であると考えています」

沿線のポテンシャルを最大化し、コミュニティへ貢献

SMFLは2019年1月に、福岡県太宰府市で西日本鉄道・福岡銀行などの地元パートナー企業と共に古民家再生事業に参入した。同市内の古民家を宿泊施設にリノベーションし、太宰府天満宮をはじめとする地元施設とも連携することで滞在型観光の確立を狙っている。「通過型の観光スポットでは、消費が伸びない傾向にあります。これを、地域資源を生かした『滞在型』のスポットに変えていくことで、地域に新たな価値をもたらすことができると考えています」(大村)

歴史的建造物を古民家再生ホテルに活用するなど、地域活性化に資するSMFLの取り組みは、これにとどまらない。

2020年8月の地元の南都銀行と連携した奈良県での醤油蔵再生の事例のほか、今年8月には埼玉県秩父市で古民家再生宿泊施設の運営を、西武リアルティソリューションズ、秩父地域おもてなし観光公社、NOTEおよびSMFLの4社で共同出資する株式会社秩父まちづくりを通じて開始。秩父市と連携し、市内の空き家増加や人口流出による山間集落の過疎化など地域課題の解決を目指している。

2022年8月、埼玉県秩父市の西武秩父駅周辺の古民家3棟が、分散型宿泊施設として生まれ変わった

また、先に大村が述べた「地域インフラ整備」関連では、SMFLは愛知県新体育館整備・運営等事業に参画。現愛知県体育館の移設に伴う設計・建設※1と、竣工後30年間にわたる運営事業だ。最先端の技術を活用した世界水準のスマートアリーナで、大相撲名古屋場所や2026年に開催される第20回アジア競技大会で利用されることになっている。

この事業を進めるのは、運営時の代表企業であるNTTドコモをはじめ、PFI・コンセッション事業に多くの実績を持つ前田建設工業、世界最大級のアリーナオペレーターやSMFL、東急など7企業※2が共同出資する株式会社愛知国際アリーナだ。株主企業がそれぞれに培ってきた知見、技術、ノウハウ、リレーションなどのシナジーを活かした質の高いサービスを提供することで、地域のシンボルとして愛されるアリーナの運営を行っていく。

さらには、前田建設工業の持株会社であるインフロニア・ホールディングスと東急の合弁会社であるグローバル・インフラ・マネジメント(以下、GIM)との共同事業で、2022年6月にインフラファンドを立ち上げた。SMFLは、これらパートナー企業との協働により、事業会社の開発・運営ノウハウ、金融機関の資金力を活かした地域インフラへの投資により、地域活性化への貢献を図っていく。

  • ※12021年6月~2025年3月まで
  • ※2株式会社NTTドコモ、前田建設工業株式会社、Anschutz Sports Holdings、三井住友ファイナンス&リース株式会社、東急株式会社、中部日本放送株式会社、株式会社日本政策投資銀行
愛知県新体育館の外観とアリーナ(イメージ)。大相撲やプロバスケットボール(Bリーグ)、コンサートなど大規模イベントも開催可能にする

SDGs経営の重点課題(マテリアリティ)のひとつに「コミュニティ」を掲げるSMFLでは、上記のようなシンボリックな案件を手掛けるだけでなく、地元有力企業などの戦略的事業パートナーになることにも注力。沿線の活性化・価値向上を目的とした共同事業の立ち上げや、新たなインフラ事業プラットフォームへの参画などを通じて、地域のコミュニティにも貢献している。

事業規模を問わず、リース会社の担う本質的な役割は「課題解決」に他ならない。伝統的なファイナンス業務にとどまらず、地域のポテンシャルを最大化するSMFLの取り組みに、今後も期待が高まる。

(内容、肩書は2022年9月時点)

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