脱炭素に向けて帆を張る海運ビジネス。“100年に1度の変革期”に乗り出す

リース業界最新動向 Vol.19 海運ビジネス編

コロナ禍の物流を支え、あらためて社会インフラとしての重要な役割が見直された海運ビジネス。燃料輸送を主とするタンカーやクルーズ船など一部を除き、中国の急速な景気回復による荷動き増加や物流混乱と運賃高騰の長期化などを受け、コンテナ船やばら積み船を中心にコロナ禍でも堅調に推移した。現在、“ 100年に1度の変革期 ” を迎える海運業界について、三井住友ファイナンス&リース(SMFL)専務執行役員の渡部信一郎が概観する。

コロナ禍の国際物流を支えた海運ビジネス

専務執行役員
渡部 信一郎

「世界各国で実施されたロックダウン(都市封鎖)下で物流を支え、グローバルサプライチェーン(供給網)の維持にも大いに貢献した点で、海運業界はあらためて社会インフラとしての重要な役割も見直されました。島国で資源の乏しい日本にとっても海運はライフラインです。日本の船会社が実質的に保有する船腹量※1は、2020年はギリシャに次いで世界第2位、2021年は第3位の規模となっており、日本は世界有数の海運大国でもあります」

  • ※1日本の船会社が保有する日本籍船および海外子会社が保有する外国籍船の合計(2021年1月の数値)
    出典:UNCTAD「REVIEW OF MARITIME TRANSPORT」

世界の国別保有船腹量(2021年1月の数値)

日本の船会社が実質保有する船腹量※1は2021年現在、世界第3位の規模
出典:UNCTAD「REVIEW OF MARITIME TRANSPORT」

船舶ファイナンスの黎明期にマーケットを切り開いた船頭役

1980年代以降、日本の大手海運会社は急激な円高進行に対応するため、運航コスト削減やバランスシートマネジメントを強いられた。「その結果として、外部の “ 船主 ” が船舶を保有し、大手海運会社へ用船する動きが広がったのです」と渡部は解説する。

「マーケットの潮目の変化を受け、日本のリース会社は船舶のアセットとしての価値やキャッシュフローに依拠して、船主宛てに船舶ファイナンスの提供を開始しました。リース会社はこの取り組みを通して、現在のようにメガバンクや地方銀行が船舶ファイナンスに参入する以前の黎明期から、船主の地元金融機関と共に、海運業界をファイナンス面でサポートする中心的な役割を担ってきたのです」

以降、外航ばら積み船を中心にオペレーティングリースやファイナンスリースを提供し、近年はLNG(液化天然ガス)船やメガコンテナ船など1隻100億円を超えるような大型案件も増加している。「リスクシェアリングの観点でも、銀行と異なる目線を持つリース会社が果たす役割は大きくなっています」と、渡部は現状を見る。「ファイナンス対象物件も、船舶本体だけでなく周辺設備まで広がりつつあります。たとえば、海上コンテナの積み降ろしを行うガントリークレーンなどの各種港湾物流設備や、コンテナボックス、船舶の環境対応設備・デジタル設備などが該当します」

また、すでに世界経済は脱炭素化に向けて大きくかじを切っており、海運業界の動きも加速している。船舶の主要輸送品目である石油・石炭など化石燃料の需要は今後減少する見込みである一方、LNGや水素、アンモニアなどの次世代エネルギーの輸送需要は拡大が必至だ。

「環境に優しい燃料で動く次世代燃料船、電動船、自律運航船など次世代船舶への切り替えを実現するためには、高度な技術革新が必要です。さらに洋上風力発電関連ビジネスの拡大なども必須といえます。海運業界では、今まさに “ 100年に1度 ” の大規模な変革の時代を迎えようとしているのです」

資源や穀物などの海上輸送に使用される外航ばら積み船。SMFLは本船に対して「サステナビリティ・リンク・リース」を取り組み、海上輸送の脱炭素化を支援している

世界初※2、SMFLの環境連動リースで海運の“脱炭素”を後押し

海運業界の脱炭素化の取り組みを金融面から支援する、国際的な枠組みである「ポセイドン原則」。「この原則に、SMFLがリース会社として世界で初めて※2署名・参画することを発表したのは2021年1月のことでした」と、渡部は当時を振り返る。同原則は、2019年6月に欧米の11金融機関によって設立。「参画した金融機関は、自社がファイナンスを提供している海運事業者の船舶が排出するCO2量について、ポセイドン原則事務局が出した基準値に照らした削減実績(KPI:重要業績評価指標)を評価し、数値で公開します」

リース会社のファイナンス対象には燃費性能が相対的に劣る中古船舶も多く、開示する数値があまり好ましくないことが想定されるといったリスクもある。そのため「社内では慎重論もありました」と渡部は言う。しかしリスクは改善に向けた “ スタート地点 ” にもなる。「環境性能の高い船舶の導入を支援することで、お客さまと共に気候変動リスクに対処したいと考え、署名・参画に踏み切りました」

実際にスタートしてみると、うれしい結果が出た。今年度のファイナンス対象船のCO2排出実績はポセイドン原則が定める基準値対比マイナス5.0%(=マイナス幅が大きいほどCO2排出実績が基準値よりも少ない)と、初めて公開した昨年度実績のマイナス4.0%よりも改善することができたという。

また、SMFLは2021年5月には、ポセイドン原則に連動させたリース料変動型の「サステナビリティ・リンク・リース」の取り扱いを開始、取引先の脱炭素への取り組みを支援している。これも世界初※2の取り組みで、先述した「KPIの達成に合わせてリース料を下げるというリース方式です。下がったリース料を原資に、船舶のさらなる環境配慮・燃費改善を目的とした設備投資を検討していただけるなど、CO2削減のための好循環が期待できます」

さらにSMFLは、船舶の周辺設備へのリースにも注力している。2021年11月には、船舶の自動運航技術を開発するフィンランドのスタートアップ、グローク・テクノロジーズ(トゥルク市)に出資し、状況認識システム「グローク・プロ」の開発を支援してきた。危険を知らせて船員の安全確保に寄与する同製品をはじめ、2022年からはグローク社製品のリースを開始し、自動運航船の実現に貢献している。

2022年6月には、ITを用いた内航海運向けデジタルサービスを提供するMarindows(東京都港区)に出資。同社が開発・提供する海洋OS「Marindows」と、同OSをプラットフォームに提供するさまざまなアプリケーションを通じて、内航船員の働き方改革への対応や高齢化問題の解決、労務環境の改善への取り組みを支援している。

「モノの目利きのプロであるリース会社には、船舶ファイナンスの黎明期にマーケットを率先して切り開いたように、ファイナンス面で脱炭素化を後押しするメインドライバーとして過去にとらわれない柔軟な対応が期待されています」。“ 脱炭素 ” に向けて帆を張る海運ビジネス。先陣を切って進むSMFLの動向に、注目したい。

  • ※22022年現在

(内容、肩書は2022年12月時点)

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