短期間でバーチャルPPA供給を実現──
ヤンマーとSMFLがスクラムを組んで切り拓く「本気の脱炭素」

SMFL×ヤンマーのスクラムが、短期間で「バーチャルPPA」供給を実現

産業機械メーカー大手のヤンマーグループと三井住友ファイナンス&リース(以下、SMFL)グループは、太陽光発電事業での協働を2024年11月に発表、「バーチャルPPA」(仮想電力購入契約)を活用したCO2の排出削減に本格的に取り組んでいる。
同プロジェクトには際立つ特徴が2つある。電力の需要側であるヤンマーが発電所の開発段階から参画したことと、「脱炭素」施策の相談に始まる一連の動きをサポートしたSMFLグループ側が、リスクを取って先行投資を敢行していたことだ。
高水準の脱炭素目標必達を期すヤンマーと、それを果断に支えるSMFLの両者に話を聞いた。

資本提携が強めた “ パートナーの絆 ”

ヤンマーホールディングス
財務部 財務戦略グループ 専任部長
中山順啓氏

今回、「バーチャルPPA」の導入で合意したのは、ヤンマーホールディングス(以下、ヤンマーHD)、ヤンマーエネルギーシステム(以下、YES)、SMFLみらいパートナーズの3社だ。ヤンマーとSMFLの両グループは、リース取引を通じて20年以上前から信頼関係を築いてきた。2021年7月には、ヤンマーグループ各社が取り扱う商品の販売金融事業などを手掛けるヤンマークレジットサービス(以下、YCS)がSMFLグループに参画し、両グループの連携はさらに強化。CO2の排出削減で肩を組む今回の協業への転換点となった。

ヤンマーホールディングス財務部 財務戦略グループ専任部長の中山順啓氏は、SMFLとの関係について「 “ ちょっと相談したいな ” と思ったとき、SMFLさんなら事前の調整も気兼ねも必要なく、いつでも電話1本で話ができる関係です。大切な取引先であると同時に、まるでグループ企業同士のような近しい感覚もあります」と話し、両グループの距離が縮まった実感を明かす。

SMFL
大阪営業第一部 部長代理
井口拓也

SMFL大阪営業第一部の井口拓也は、ヤンマーグループとの2024年来の歩みを振り返る。「ヤンマーさんとは主に財務関連の取引で緊密な関係を育んできましたが、YCSと連携しながら、我々の提案先が資材部やサステナビリティ推進部など、多岐にわたる部門へと広がりました」

意欲的な環境目標──実現への道に立ちはだかった困難と、打開を期した経営判断

ヤンマーHDは2022年、長期環境ビジョン・サステナビリティ戦略「YANMAR GREEN CHALLENGE 2050」を公表した。その中で2050年を見据え、「CO2排出量ゼロの企業活動を実現する」「循環する資源を基にした環境負荷フリーの企業活動を実現する」「お客様のCO2排出ゼロ・資源循環化に貢献する」という3つの挑戦を掲げている。

しかし、この挑戦は「決して平坦な道のりではない」と中山氏は語る。
「2030年までの目標としてScope1・2*のカーボンニュートラルを掲げていますが、当社が導入を進めていた工場の屋根や敷地内での『オンサイトPPA』だけでは設置できる場所に限りがあり、目標達成に必要な量の再エネ調達には到底届かないことが見えてきたのです」(中山氏)

PPA(Power Purchase Agreement)とは「電力購入契約」のことで、需要家(電力購入者)が発電事業者から再エネ電力を調達できる仕組みだ。発電所を需要家の敷地内や隣接地に設ければ「オンサイトPPA」と呼び、敷地外に設置するケースを「オフサイトPPA」という。オフサイトPPAの中でも、電力の受け渡し(送電)を伴う方式は「フィジカルPPA」、電力そのものは市場に流し、再エネ発電が生み出す “ 環境価値 ” のみを取引するのが「バーチャルPPA」だ(図1)。

たとえ “ 平坦 ” でなくとも、進まなければならない道だったと、中山氏が言う。
「政府やCOP(国連気候変動枠組条約締約国会議)が求める再エネ発電量を企業が自社単独で達成するのは、極めてハードルが高い。方策をあれこれ検討するなかで『バーチャルPPA』に着目し、リース取引で長い付き合いのあったSMFLの井口さんに相談しました。そこで、環境事業に精通したSMFLみらいパートナーズさんにつないでくださったことで、今回の協業が実現に向けて動き始めたのです」(中山氏)

とはいえ、決断は容易ではなかった。グリーン電力は通常電力よりも高価な上、ヤンマーHD傘下のYESが発電事業に参画するための投資も必要になる。短期的には確実にコスト増を伴う挑戦だった。投資費用の妥当性に加えて、発電所の開発に伴う土地選定の適格さ、さらに協力企業には20年以上に及ぶ長期契約を結ぶに足る信頼性が求められる──これらのすべてに関し、慎重な経営判断が求められた。

決断に至った理由を中山氏はこう話す。
「取り組みに際し費用は相応にかかりますが、『YANMAR GREEN CHALLENGE 2050』を達成する意義を考えると必要な投資だと判断しました。なおかつ、発電事業の協業者はSMFLさん。安心してタッグを組めるパートナーです。それゆえ、必然性のある経営判断として、我々は発電事業に乗り出す意思決定をしました」(中山氏)

  • *「Scope」はCO2の排出を削減するために設けられた分類の枠組み。Scope1:事業者が直接排出するCO2。Scope2:購入した電力や熱から間接的に排出されるCO2

コーポレートPPA(電力購入契約)の分類(図1)

需要家に直接販売するコーポレートPPA(電力購入契約)は、発電所の設置場所によってオンサイト(敷地内・隣接地)とオフサイト(敷地外)に分かれる。また、電力を実際に送るフィジカルPPAと、電力は市場に売却し “ 環境価値 ” だけを取引するバーチャルPPAがある

環境価値のみを取引できる「バーチャルPPA」という最適解

ヤンマーエネルギーシステム
カーボンニュートラル推進部 営業企画部 部長
藤定義幸氏

近年、企業の脱炭素化を背景に、オンサイトPPAやフィジカルPPAに加えて、バーチャルPPAを選択する事例も増加してきている。
これについて、YES カーボンニュートラル推進部 営業企画部長の藤定義幸氏は、「バーチャルPPAの特徴として、“ 立地の制約から解放される ” という、事業者にとっての大きな利点が挙げられます」とし、ヤンマーグループの狙いをこう語る。

「フィジカルPPAの場合、送電網を経由して、電気を需要地まで届けなければなりません。当然、“ 発電所をどこに立地させるか ” が事業の成否を大きく左右します。加えて、日本では東西で電力周波数が異なることや、送電線容量の限界といった構造的な問題があり、例えば東北地方で発電した電力を関東に、関東の電力を関西に送ることでも制約を受けます。その点、バーチャルPPAなら、最適の地域を選んで発電し、その電力はJEPX(日本卸電力取引所)に売却、環境価値だけを非化石証書という形で需要家に提供できます(図2)。これにより、ヤンマーグループは発電事業者として、“ 立地の最適化 ” と “ 環境貢献 ” という2つの価値を確実に調達できるのです」(藤定氏)

SMFLみらいパートナーズ
環境エネルギー開発部 副主任
白石雄暉

SMFLみらいパートナーズ 環境エネルギー開発部の白石雄暉は、さらにもう一つの利点として「無駄の解消」を挙げる。
「多くの工場は土日に稼働しません。オンサイトPPAで工場の屋根に大規模太陽光パネルを設置しても、土日に発電した電気は使用できず、ロスになります。バーチャルPPAなら電力は市場で売り、環境価値だけを受け取れるので、無駄がありません」(白石)

最適の地域を選んで発電し、環境価値だけを需要家に提供できる「バーチャルPPA」(図2)

SMFLみらいパートナーズ作成

主体的参画が生む「新たな社会価値」。その決断を後押しした「リスクを取る先行投資」

今回のプロジェクトのスキームはこうだ。
発電を行う特別目的会社をYESとSMFLみらいパートナーズが共同で設立、発電所を保有・運営する。発電した電気はアグリゲーター(複数の再エネ電力を取りまとめて電力の需給バランスを調整する事業者)を通して市場で売却し、その環境価値をヤンマーHDに供給(図3)。座組みの最大の特徴は、需要家であるヤンマーグループが供給側の事業にも加わっている点だ。

協業の効果を、白石は次のように説く。
「私たちSMFLグループのPPA事業ではこれまで、供給側と需要側の役割が明確に分かれていました。しかし今回はYESさんが開発段階から参画することで、シナジーが高まっています。SMFLみらいパートナーズには発電所を開発するノウハウがある一方、YESさんは独自のルートで太陽光発電所の開発業者との接点を持っています。双方のルートを併用することで、発電所開発の選択肢が大きく広がっているのです」(白石)

ヤンマーグループから見たこの取り組みの意義を、中山氏はこう強調する。
「重要なのは、ヤンマーグループがただ単に “ 環境価値を購入する ” のではなく、“ 自ら主体となって発電事業に参画する ” 点です。既存の非化石証書を市場で購入する場合、そこに『新たな社会的価値』が生まれるわけではありません。我々が主体的に動くことで、新たな環境価値を生み出す── “ 追加する ” ことが可能になるのです。この『追加性』へのこだわりこそ、脱炭素社会の実現に向けたヤンマーの “ 本気度 ” の表れです」(中山氏)

2024年12月、プロジェクト第1期として高圧太陽光発電所9カ所(計10.9MW〔メガワット〕)が生み出した環境価値を、ヤンマーHDに供給開始。2025年12月時点では契約ベースで約30MWを確保し、「YANMAR GREEN CHALLENGE 2050」が掲げた「2030年、Scope1・Scope2のカーボンニュートラル達成」への着実なマイルストーンとなっている。

実は、本プロジェクトがこれだけ短期間で実現・稼働にこぎ着けた陰には、一つの重要なサポート戦略があった。
SMFLみらいパートナーズによる「需要家確定前の先行投資」だ。
PPAのプロジェクトでは多くの場合、需要家が確定した後に発電所の開発がスタートする。だが、発電所が現にある方が需要家の疑問や不安が解消される上、発電量も予測でき、プロジェクトへの参画を決断しやすい。そこで今回、SMFLみらいパートナーズはリスクを引き受け、需要家の確定に先行して発電所開発に着手。実際の発電所と具体的なリスク情報・発電量を確認できる環境を整えて、ヤンマー側の意思決定を後押しした。

実際に、中山氏と藤定氏は発電所を現地視察し、白石から詳しい説明を受けた。藤定氏は「発電所を目の前にして協議でき、安心感が大きかった」と振り返る。

SMFLみらいパートナーズ・ヤンマーホールディングス・ヤンマーエネルギーシステムの3社協業による「バーチャルPPA」のスキーム図(図3)

再生可能エネルギーには、電力としての価値に加え、発電時にCO2を排出しない「環境価値」がある。本スキームでは、発電事業者での再エネ発電により電力と環境価値が生まれ、ヤンマーHDは環境価値だけを仲介業者(アグリゲーター)から購入する。一方、発電された電力はアグリゲーターが市場に売電する形となっている

「本気で脱炭素に向かう」──示した決断が、各企業に響いた

本プロジェクトの概要がプレスリリースされると、大きな反響があった。YESのウェブサイトには、「太陽光発電に適した土地がある」「工事を請け負いたい」といった各企業からの引き合いが続々と届いたという。藤定氏は「これまで接点のなかった新たなパートナー候補との出会いが生まれています」と語る。

さらに興味深いのは、ほかの大手企業からの反応だ。中山氏は「ある大手メーカーのご担当者から問い合わせがあり、『なぜこのような決断ができたのか』と詳細にヒアリングいただきました」と話す。
今、多くの企業が、脱炭素化の必要性・緊急性を認識している。その反面、コスト増の懸念から、大胆な第一歩は踏み出せずにいる。本プロジェクトでヤンマーが下した決断は、そんな多くの企業に「一つの道筋」を示すことにもなったのだ。

大手企業からの問い合わせはSMFLグループ側にも寄せられている。
「ヤンマーさんの事例を紹介すると、脱炭素に向けた具体的な取り組みを議論するきっかけになります。事実、複数の企業から『同様の取り組みは可能か』という相談を頂戴しています」(井口)
両グループの協業は現在も着実に進行しており、2030年度までに全国で150MWの電源開発に取り組む計画だ。

それぞれには、「2030年の先」の展望がある。
中山氏は、Scope3(供給網全体での間接排出CO2)への本格対応をにらみ、「Jクレジット市場への参入も視野に入れています」と言う。
白石は、150MWの目標に向け、「従来の手法にとらわれることなく、北海道での垂直設置型太陽光発電、湖上での水上設置、農業と両立する営農型など、多様なジャンルに踏み込んでいきます」と意気込む。
井口は、既存の成果に甘んじない精神を「健全なる危機感」と表現して自他を戒め、「新しいビジネスモデルを創造したい」と決意を明かす。

ヤンマーグループとSMFLグループのコラボレーションはゴールではなく、新たなスタートだ。未来に向けた “ 第一歩 ” に、今後も注目したい。

(内容、肩書は2026年2月時点)

お問い合わせ

SMFLみらいパートナーズ株式会社
環境エネルギー開発部
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