ファイナンスを超えた「ビジネスパートナー」として
──ゼンリンの事業変革に、「人財開発」で伴走
「住宅地図」や「カーナビゲーション地図データ」で広く知られる国内最大手の地図情報企業・ゼンリン(福岡県北九州市)。同社は現在、独自の情報基盤である「ZIP」(ZENRIN Information Platform)を生かし、課題解決を通じて社会価値を創造すべく事業変革を図っている。変革のカギとなる「人財開発」に向けて、同社は三井住友ファイナンス&リース(以下、SMFL)が提供する経営支援プログラム「More Than Finance®」を採用した。なぜ、ゼンリンはこのプログラムを採用したのか。ゼンリン取締役上席執行役員・コーポレート本部長の戸島由美子氏と、SMFL北九州営業部長の辻浩児に詳しく話を聞いた。
「地図の先」に広がる新たなビジネス
“ 地図のゼンリン ” が、企業共創・地域共創を軸とする活動を推進し、今まさに進化を遂げようとしている。その象徴が、地方自治体と連携した社会課題解決プロジェクトだ。地域共創活動の一環として、2021年から2023年にかけ、長崎県内の自治体(長崎市・佐世保市・大村市)と包括連携協定を相次いで締結。観光DX、防災、まちづくり、行政業務の効率化など幅広い分野に対し、ゼンリンの地図情報を活用して地域と連携し、課題解決を図る。そして2024年4月には、深刻化している空き家問題に関して、佐世保市と共同研究を行い、空き家を初期段階から察知できる「空き家推定ツール」を発表した。ゼンリン独自のデータベースと、佐世保市が持つオープンデータを掛け合わせることで、高精度に空き家状況を把握できる全国で初めての仕組みだ。
こうした地域共創の実現を「人財開発」の面でサポートしているのが、実は、SMFLの経営支援プログラム「More Than Finance®」だ。昨今、ゼンリンが直面してきた課題について、同社の人事施策を統括する取締役上席執行役員・コーポレート本部長の戸島由美子氏はこう振り返る。
取締役上席執行役員・コーポレート本部長
戸島 由美子 氏
「1948年の創業以来、当社は “ 地図 ” で成長してきました。詳細な住宅情報を記載した『住宅地図帳』を生み出し、その後はカーナビ用の地図データで車の運転に新たな価値をもたらすなど、地図情報サービスを通じて社会価値を創造してきたのです。一方、当社を取り巻く昨今のビジネス環境は、AIをはじめとするテクノロジーの進展やさまざまな社会課題などを受けて、急激に変化しています。刻一刻と変わる事業環境に迅速に対応するために、私たちゼンリンも自己変革に迫られたのです」(戸島氏)
その変革を支えるのが、ゼンリン独自の情報基盤「ZIP」(ZENRIN Information Platform)だ。あらゆる地物を位置情報として収集し、時空間データベースとして一元管理、お客さまの用途に最適化してサービス提供まで行う。戸島氏は、「今、当社は、ZIPを核として社会の多様なニーズに応えることで、サステナブル社会の実現に貢献すべく、新たなビジネスモデルの構築を進めているところです」と現況を明かす。
戸島氏の言葉が意味するのは、前中長期経営計画から着手してきた、従来の売り切りの「フロー型」から、クラウドやAIを利用して継続利用できる「ストック型」へのビジネスモデルの転換を踏まえ、持続的に成長していくための経営戦略である。経営の舵を大きく切ったこの方針は、2025年4月に策定した中長期経営計画「ZENRIN GROWTH PLAN 2030」(ZGP2030)にも継承されている。ビジネスモデルのシフトを加速するとともに、企業間での「企業共創」、自治体や地元企業など地域との「地域共創」という2方面からの共創を軸に “ 課題解決型ビジネス ” を確立し、社会的価値の創造を打ち出したのだ。
しかし、その方針に向けて、一つの経営課題が浮き彫りになった。組織として、どのように “ ソリューション営業 ” を行える人財を開発し、変革後のビジネスモデルを推進するか──という課題だ。立ちはだかった壁を、戸島氏はこう説明する。
「例えば佐世保市の『空き家推定ツール』で実現したような共創での課題解決プロジェクトでは、顧客視点に立って価値提案を行うソリューション営業が不可欠です。お客さまの声を丁寧に聞き、課題を的確に捉えて、最適なソリューションを提案する。組織としてそんな人財を強化することが喫緊の経営課題でした」(戸島氏)
そうして、ソリューション営業に長けた人財の開発に向けた施策を探るなか、伴走役として浮上してきたのが、長年リースを中心に取引していたSMFLだった。
テーラーメイドで唯一無二のプログラムを提供
ゼンリンとSMFL北九州営業部との取引関係は2010年にさかのぼる。SMFLはゼンリンに対して、パソコンやサーバーなどのリースに加え、リース資産管理に特化した「スーパーネットリース」や、固定資産の会計・税務に特化した「総合資産管理サービスASP」、資産管理プラットフォーム「assetforce」といったDXソリューションを主に提供してきた。
辻 浩児
SMFL北九州営業部長の辻浩児はこう語る。「社会課題解決プロジェクトを推進するゼンリンさんの志は、“ 社会価値の創造と経済価値の拡大のオーバーラップ ” を掲げる私たちSMFLの思いと響き合います。パートナーとして手を携えれば、より大きな価値を社会にもたらせるのではないか。そう考えていた矢先に、『顧客課題に向き合うための人財開発』という課題認識をご共有いただきました」
相談を受けて辻が提案したソリューションは、リースやファイナンス、あるいはDXサービスとは全く別のものだった。SMFL独自の経営支援プログラム「More Than Finance®」(以下、MTF)である。SMFLが培ってきた経営ノウハウを「Leadership」「Improvement」「Growth」「Teamwork」などの領域で、金融の枠を超えて顧客の成長を支援するプログラムで、顧客企業の課題やニーズに合わせたセッションが企画され、テーラーメイドで提供する。
「正直なところ、意外なご提案でした」と戸島氏は打ち明ける。「リースやファイナンスで取引のあったSMFLさんが、なぜ人材開発のためのプログラムを……? とはいえ、SMFLさんが自ら蓄積してきた経営ノウハウに基づいて体系化された、実践的なプログラムとの説明を辻さんから受けて納得しました。コンサルティング会社や人材研修の専門会社による提案とは違い、SMFLさんが “ 事業会社 ” として実際の現場で培ってきた知見だからこその特別な有用性を感じ、期待が込み上げてきました」(戸島氏)
辻もこう振り返る。「“ ソリューション営業 ” を実践できる人財を部署横断で育成したい、と戸島さまからお話をいただいた時、すぐにMTFが頭に浮かびました。といいますのも、私が在籍するSMFL北九州営業部も過去に2回、MTFセッションを実施し、効果を実感していたのです。MTFのセッションは受講者が自ら考え、気付くことを促す内容になっており、ゼンリンさんの課題をサポートすることができるのではないか、と考えました。SMFL社員として実際にMTFを体験していたからこそ、今回自信を持って提案することができました」(辻)
戸島氏は、一般的な人材研修とは異なるMTFのある特徴にも興味を引かれたという。「従来の研修は、受講で得た知見やモチベーションも研修が終わると次第に現実に引き戻される。講師から教えられるだけのノウハウは身に付きにくく、たとえ一時的にモチベーションが高まっても、その後なかなか実践には結び付きにくいものです。それに比べてMTFは、当社の課題を事前にヒアリングしていただき、プログラム内容も当社用にテーラーメイドで企画したもの。ワークショップ形式で少人数のチームでプログラムに取り組む過程で課題を自分ごと化して捉え、気付きが得られるのです。受講して終わり、ではなく、明日からすぐに実践できる内容は、実に魅力的でした」(戸島氏)
戸島氏はMTFの採用を決断。ゼンリンは、“ ソリューション営業の強化 ” という重要な経営課題に、SMFLの伴走を得て本格的に乗り出すことになった。
長崎でMTFがスタート。人財力の向上で、“ 地域共創 ” が深化
2024年7月と12月。ゼンリンは長崎支店で初めてMTFを実施した。セッションの手応えについて、戸島氏は今、次のように振り返る。「受講者はまず、ソリューション営業で求められるスキルの理解を深めることができました。例えば、お客さまの課題について事前に『仮説』を立てて整理する、潜在的な課題まで深く掘り下げる──といったことなどです。課題の背景や真因を探る重要性を、受講メンバーが深く認識できたことは、大きな収穫でした」(戸島氏)
冒頭で紹介した自治体とのプロジェクトにも、その成果が生かされている。「佐世保市での『空き家推定ツール』でも、仮説を立て、対話を重ねて検証するというMTFでの学びが反映されています。地域共創プロジェクト全般で提案の質が上がり、現場での合意形成もスムーズになりました。当社は地域との共創を今後各地で展開する予定なので、引き続きMTFで得た学びを活用していきます」(戸島氏)
ビジネスパートナーとしてのSMFLとの関係性も深まったという。「リース取引の関係だけに限ると、SMFLさんと私たちが直接対話する機会は年に1回程度しかありませんでした。しかしMTFに基づく経営サポートを受けたことで両社の距離がぐんと縮まり、辻さんと面談する機会も格段に増えました。今後は、リースやファイナンスといった枠組みを超えて、事業の相談相手として伴走してくださることを期待しています」(戸島氏)
ゼンリンとSMFLの両社が、それぞれに掲げる理念と、それぞれに見据える経営課題。今回の「More Than Finance®」ではそれらが共鳴し、ハーモニーが生まれたといえそうだ。後編では、実際に展開されたプログラムの内容やその効果などに詳しく追ってみる。
(内容、肩書は2026年1月時点)
お問い合わせ
MTF推進部
TEL:03-6695-6139


