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SMFL 三井住友ファイナンス&リース

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水素エネルギー解説(3)輸送・貯蔵編|4つの主要な水素キャリア

水素エネルギー解説(3)輸送・貯蔵編|4つの主要な水素キャリア

次世代エネルギーとして注目されている水素の供給には、気体の水素を扱いやすい形態に変換して輸送・貯蔵する水素キャリア技術の確立が不可欠です。

本記事では、代表的な4つの水素キャリアについて、それぞれの特徴を解説します。

本記事について
本記事は、脱炭素を推進する三井住友ファイナンス&リース株式会社が社内啓蒙用に発行した「次世代エネルギー『水素』の最前線」を再編集し、脱炭素の取り組みの一環として制作したものです。

水素エネルギー解説(2)活用方法編│発電・モビリティ・産業利用の最新事例

水素は次世代のクリーンエネルギーとして注目されていますが、具体的な用途や活用方法についてご存知でしょうか。本記事では、歴史の長い水素の活用方法と、今後期待される、「発電」「モビリティ」「産業」の3分野における水素エネルギー実用化の例を紹介します。

前の記事はこちら

なぜ「はこぶ」技術に工夫が必要?水素特有の性質とは

水素は、地球上で最も軽い気体であり、密度は空気の約14分の1※1しかありません。そのため、気体の状態では体積が大きく、一度に輸送できるエネルギー量が限られてしまいます。

また、水素は無色・無臭で漏洩を検知しにくい上、非常に燃えやすい気体です。空気中ではわずかなエネルギーで着火する可能性があるため、輸送時には適切な取り扱いが必要です。

そのため、大量の水素を安全かつ効率良く輸送するために、水素を運びやすい形に変換する技術が開発されています。

※1  出典・参照元:国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「水素エネルギー白書

水素を輸送・貯蔵する、4つの主要な水素キャリア

水素の輸送では、水素を気体のまま運ぶのではなく、運びやすい形に変換する「水素キャリア」と呼ばれる技術が活用されています

ここでは、代表的な4つの水素キャリア「液体水素」「メチルシクロヘキサン(MCH)」「アンモニア(NH3)」「合成メタン」について、それぞれの特徴を解説します。

水素キャリアの比較表
キャリア 主な特徴
液体水素 水素をマイナス253℃で液化することで体積を小さくして輸送
メチルシクロヘキサン(MCH) 水素をトルエンと結合し、常温常圧の液体で輸送
アンモニア(NH3 水素と窒素を反応させて合成したアンモニアを液化して輸送
合成メタン 水素とCO2を反応させて合成したメタンとして輸送

【液体水素】極低温技術で水素を直接運ぶ

液体水素による輸送・貯蔵の仕組み
液体水素による輸送・貯蔵の仕組み

液体水素は、水素をマイナス253℃に冷却して液化することで、体積を約800分の1に小さくした水素キャリアです。利用時は空気や温水などとの温度差を利用して、再び気体の水素に戻します。

気体のまま輸送する場合と比べて、体積当たりのエネルギー密度が大きくなるため、一度の輸送で大量の水素を運ぶことが可能です。また、液体水素はほかの水素キャリアのように化学物質と結合させず、水素そのものを液化します。そのため、気化した際に不純物が混入するリスクが低く、高純度の水素を得られる点が特徴です。

こうした特性から、高純度な水素が求められる燃料電池自動車(FCV)などの分野で活用が期待されています。

しかし、マイナス253℃の低温を維持する冷却コストや、低温を維持したまま船から陸へ移送(陸揚げ)する断熱技術は、まだ発展段階にあります。

こうした技術的な壁を乗り越えるべく、 2020年から技術研究組合CO2フリー水素サプライチェーン推進機構(HySTRA)が、NEDO補助事業(2016~2025年度)の一環として、液化水素運搬船での長距離海上輸送に向けた実証実験を進めています。こうした取り組みを踏まえ、2030年頃の商用化に向けた検討や実証が、関連事業者により進められています※2

※2 技術研究組合CO2フリー水素サプライチェーン推進機構「豪州と日本におけるパイロット水素サプライチェーン実証事業

【メチルシクロヘキサン(MCH)】既存インフラを活用できる可能性

メチルシクロヘキサン(MCH)による輸送・貯蔵の仕組み
メチルシクロヘキサン(MCH)による輸送・貯蔵の仕組み

出典・参照元:経済産業省 資源エネルギー庁「目前に迫る水素社会の実現に向けて~『水素社会推進法』が成立(前編)サプライチェーンの現状は?」に基づきSMFLにて作成

メチルシクロヘキサン(MCH)は、水素とトルエンを結合させ、常温常圧で安定した液体として輸送できる水素キャリアです。トルエンなどに水素を結合させて輸送・貯蔵し、利用先で再び分離して水素を取り出す技術は「有機ケミカルハイドライド(OCH)法」と呼ばれます。

MCHは石油製品と性質が似た液体であるため、特別な低温管理や高圧設備を必要とせず、既存の石油製品用タンカーや貯蔵設備を転用できる可能性があります。

MCHとして輸送後、水素とトルエンに分解し、取り出した水素を利用します。分離後のトルエンは、再び水素を運ぶための媒体として再利用される仕組みです。

この方法では、水素を取り出す工程で不純物が混入しやすく、純度が低下することが課題とされています。

【アンモニア(NH3)】燃料としても水素キャリアとしても利用

アンモニアによる輸送・貯蔵の仕組み
アンモニアによる輸送・貯蔵の仕組み

出典・参照元:国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「アンモニアを燃料としてカーボンニュートラルの実現に貢献!」に基づきSMFLにて作成

アンモニア(NH3)は、水素と窒素を化学反応させて結合し、液化して輸送・貯蔵する水素キャリアです。アンモニアは肥料の原料としてこれまで活用されていたため、既存の輸送船などを活用でき、輸送コストを抑えられる点がメリットです。

この水素キャリアの特徴は、利用方法の柔軟性の高さです。アンモニアのまま石炭などと混ぜて混焼燃料として直接利用する方法や、分解して再び取り出した水素を発電やモビリティ用途などさまざまな分野で利用する方法もあります。

しかし、製造時のエネルギー消費量の削減や、毒性・刺激臭のイメージ払拭などの課題も残されています。

【合成メタン】メタネーションによる水素キャリア

合成メタンによる輸送・貯蔵・利用例
合成メタンによる輸送・貯蔵・利用例

出典・参照元:経済産業省 資源エネルギー庁「ガスのカーボンニュートラル化を実現する『メタネーション』技術」に基づきSMFLにて作成

合成メタンは、水素と二酸化炭素(CO2)を化学反応(メタネーション)※3により合成したエネルギー媒体※4です。水素をメタンの形で輸送・貯蔵できるため、水素キャリアとして利用できます。

合成メタンは、燃料として直接利用することが可能です。 合成メタンは燃焼時にCO2を排出しますが、例えば空気中から回収したCO2や、バイオマス由来のCO2など、大気中に存在していた炭素を利用すれば、燃焼時に排出されるCO2と相殺され、結果として社会全体でCO2を増やさない仕組みを実現できます。

※3 メタネーションは、水素(H2)と二酸化炭素(CO2)を反応させ、天然ガスの主成分であるメタン(CH4)を合成する技術
※4 エネルギー媒体は、エネルギーを貯蔵・輸送し、利用しやすい形で社会に届けるためのエネルギーの形態を指す

また、合成メタンは液化天然ガス(LNG)の主成分であるメタンと化学的に同一であるため、既存のLNGタンカーでの輸送や、LNG基地での受け入れ・気化が可能です。さらに、気化した合成メタンを既存の都市ガス導管網を活用する選択肢として、検討や実証が進められています。

合成メタンの生産コストは水素製造コストが大部分を占めるため、生産時の電力コストが課題です。しかし、新たな国内輸送インフラへの大規模投資を抑制できるため、非常に現実的な選択肢として期待されています。

水素の地産地消で「はこばない」水素活用の可能性

水素の輸送方法(キャリア)にはさまざまな選択肢がありますが、いずれの方式を採用する場合でも、前提となるのは「水素を製造する」という工程です。水素は製造方法によって製造時CO2排出量は大きく異なるため、脱炭素社会の実現に向けては、いかに製造段階でのCO2排出を抑えた水素を確保できるかが重要な論点となります。

選択肢の一つは、再生可能エネルギー(以下、再エネ)の発電コストが安価な海外で水素を製造し、海上輸送によって輸入するモデルです。その場合、水素を液化、あるいはアンモニアやメタンなどの水素キャリアへ変換する設備、専用タンカー、沿岸部の受入基地、さらに国内の輸送・配送ネットワークといった広域的なサプライチェーンの整備が重要と考えられています。

サプライチェーンのイメージ

一方で、こうした大規模な輸送インフラに依存せず、国内で水素を生産・消費する「地産地消」によって、新たな価値を生み出す取り組みも進められています。


水素エネルギーを国内で生産する「地産地消」の形態では、輸送コストがかからず、水素の製造コストがそのまま利用者のコストに直結します。

特に、水素製造に再エネ発電の余剰電力を活用すれば、低炭素な水素を製造できるうえ、本来失われていた電力を有効活用できるメリットがあります。

輸送技術が進歩することで、再エネの発電コストが安い海外で水素を製造し、それを輸入する形態が経済的に有利となると考えられています。しかし、国内において技術革新などにより製造コストを低減することができれば、輸送コストのかからない地産地消も有力な選択肢となります

また、技術面でも、廃棄物や有機資源を分解して水素を生成するケミカルリサイクル技術など、水素を国内で生産するための新しい技術の研究開発が進んでいます。

こうした取り組みを通じて、国内での供給力を高めることは、エネルギーの多くを輸入に頼る日本においてエネルギー安全保障の観点からも重要です。

(三井住友ファイナンス&リース株式会社 ネクストビジネス開発部 水素担当 高橋 純平)

用途や環境に応じた水素キャリアの選択

単一の水素キャリアが主流になるのではなく、水素の用途や業界、企業の事業環境、地域特性(既存設備の活用可否)などに応じて、水素キャリアを適切に使い分けることが重要です。例えば、高純度な水素が必要な場合は液体水素、既存の都市ガスインフラを活用できるなら合成メタンなどが考えられます。

また、水素エネルギーの普及には、輸送・貯蔵を支えるインフラ整備が必要です。日本では、政府や企業が、今回解説した4つの主要な水素キャリア技術を含め、水素社会実現に向けたさまざまな取り組みを積極的に推進しています。

次回の記事では、水素エネルギーの最新の現状や日本の具体的な取り組みについて解説します。

(内容、肩書は2026年6月時点)

文・編集:株式会社メンバーズ

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