水素エネルギー解説(3)輸送・貯蔵編|4つの主要な水素キャリア
次世代エネルギーとして注目されている水素の供給には、気体の水素を扱いやすい形態に変換して輸送・貯蔵する水素キャリア技術の確立が不可欠です。本記事では、代表的な4つの水素キャリアについて、それぞれの特徴を解説します。
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水素は脱炭素社会の実現に向けた切り札として注目されています。政府は戦略改定と新法成立により、政策のフェーズを「技術開発」から「産業化」へと移行させる方針を明確にしました。
本記事では、水素社会実現に向けた課題と展望を解説します。
本記事について
本記事は、脱炭素を推進する三井住友ファイナンス&リース株式会社が社内啓蒙用に発行した「次世代エネルギー『水素』の最前線」を再編集し、脱炭素の取り組みの一環として制作したものです。
次世代エネルギーとして注目されている水素の供給には、気体の水素を扱いやすい形態に変換して輸送・貯蔵する水素キャリア技術の確立が不可欠です。本記事では、代表的な4つの水素キャリアについて、それぞれの特徴を解説します。
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水素エネルギーの社会実装を進める上で課題となるのは、「コスト」「法規制」「社会受容性」という3つの側面です。
2023年時点の水素流通価格は1Nm3(ノルマルリューベ)当たり約100円※1とされ、都市ガスのパリティ価格(水素と同じ熱量を得るための価格)家庭用:61円、工業用:25円※2などほかのエネルギー源に比べて割高なのが現状です。
その背景には、水素のサプライチェーン全体において大規模な設備投資が必要となる構造があります。水素を効率的に輸送・貯蔵するためには、高圧での圧縮や、マイナス253℃という極低温で液化をする設備が必要です。
さらに、製造や輸送・貯蔵だけでなく、「利用」の段階におけるインフラ整備が求められます。燃料電池自動車向け水素のコスト構造においては、最終供給拠点となる水素ステーションの整備・運営費が全体の約6割を占めるとの試算もあります※3。
このように、水素は製造から利用までの各段階で専用設備が必要となることが、既存燃料との価格差を生む大きな要因となっています。
また、コストは製造方法によっても大きく異なります。現状では化石燃料由来のグレー水素に比べて、再生可能エネルギー由来のグリーン水素は、電力や設備のコストがより多くかかるため、より価格が高くなる傾向にあります。
出典・参照元:
※1 内閣官房「資料1-1 『水素基本戦略』の改定のポイントについて」
※2 経済産業省「水素政策小委員会/アンモニア等脱炭素燃料 政策小委員会 合同会議 中間整理」
※3 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「NEDO水素エネルギー白書」
水素の安全な利用は、主に高圧ガス保安法によって規制されています。しかし、この規制は水素のエネルギー利用を前提とした内容ではありません。
具体的には、安全性基準の高い設備要件や、有資格者の確保が必要となるケースがあり、これらがインフラ整備におけるコストや事業参入のハードルとなっています。今後は安全確保を大前提としつつ、水素の利用用途や特性に適合した、柔軟な制度設計が必要になるでしょう。
水素は、電気や都市ガスといった既存エネルギーと比べると、まだ発展途上にあります。新たなエネルギーの普及には、技術開発やインフラ整備だけでなく、社会的な理解を深めていくことも重要です。
水素供給・利用技術研究組合(HySUT)が行った調査によると、水素に対して「クリーン」という認識が広まり、「正しく取り扱えば問題ない」と考える人は7割を超えています。一方で、「ガソリンより危険」というイメージを持つ人も一定数見られました※4。
今後は、水素の性質や安全対策について正確な情報を提供し、理解をさらに深めていくことが、水素の円滑な普及につながると考えられます。
※4 出典・参照元:国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「NEDO水素エネルギー白書」
現在、日本の水素社会実現への歩みは、従来の技術開発段階から商用段階への移行期を迎えています。世界初の液化水素運搬船による国際輸送実証に成功するなど、大規模なサプライチェーン構築に向けた技術開発を世界に先駆けて進めている状況です。
2023年6月には、日本政府が水素基本戦略を改定しました。水素基本戦略は2017年に世界で初めて策定された水素の国家戦略ですが、2050年カーボンニュートラル宣言や昨今の国際情勢の影響によるエネルギー安定供給の必要性の高まりを受け、見直しが行われました。
本章では、水素基本戦略の改定ポイントを紹介します。
2017年に策定された当初の水素基本戦略は、世界に先駆けた技術確立に重点を置いていました。その後、2050年カーボンニュートラル宣言やエネルギー安全保障への意識の高まりという節目があり、戦略の見直しが行われました。
2023年6月の改定では、技術開発から本格的な産業化へとフェーズを移行させるため、「水素産業戦略」が新たに柱として設定されました。国内市場だけでなく、世界の水素市場を取り込むことを見据え、今後15年間で官民合わせて15兆円を超える投資が検討されています※5。
※5 出典・参照元:内閣官房「令和5年6月6日 水素基本戦略(改定)」
改定された「水素基本戦略」では、水素社会の実現に向けた具体的な国家目標が設定されました。供給量については、将来の需要拡大を見据え、2050年に向けた段階的な導入目標を掲げています。
今回の改定では、新たに2040年の目標を設定したことで、大規模なサプライチェーン構築に向けた道筋をより明確にしました。エネルギー安全保障の観点から国内製造と輸入を組み合わせていく方針です。
また、政府は、水素供給コストを現状の約100円/Nm3から、2030年には30円/Nm3、2050年には20円/Nm3まで引き下げる目標を設定しました※6。
コストが下がらなければ需要が生まれず、需要がなければ大規模に投資ができずコストが下がらないという、「鶏が先か、卵が先か」という問題に直面しています。だからこそ、今の段階で投資の呼び水となる政府支援により、市場を動かすことが不可欠です。大きな需要が確保され、多くのプレイヤーが参入し競争が生まれれば、コストは下がっていくはずです。この好循環を回せるかどうかが、今の正念場だと捉えています。
(三井住友ファイナンス&リース株式会社 ネクストビジネス開発部 水素担当 高橋 純平)
※6 出典・参照元:環境省「水素社会実現に向けての取り組み」(令和6年度水素利活用に向けた「自治体連絡会議」)
日本政府の戦略を実行に移すため、2024年5月に「水素社会推進法」が成立しました。
水素社会推進法では計画認定制度が設けられ、国に低炭素水素等に関する事業計画を提出して認められた事業者は支援や特例を受けられます※7。
なお、低炭素水素とは、再生可能エネルギー由来の電力を用いた水電解やCO2回収・貯留(CCS)技術の活用により、製造過程におけるCO2排出量を抑えた水素のことです。
本章では、水素社会推進法に関する支援制度と特例措置の内容を紹介します。
※7 出典・参照元: 経済産業省 資源エネルギー庁「水素社会推進法概要」
水素社会推進法による支援の柱の一つが、価格差支援です。
対象となる低炭素水素は、製造やインフラ構築にエネルギーとコストを要するため価格が高いのが現状です。価格差支援では、この低炭素水素と既存燃料(LNGや石炭など)の価格差を、国が助成金として補填します。
これにより、水素の供給事業者はコスト変動のリスクを負うことなく、安定した収益を見込めるようになります。また需要家にとっても、既存燃料と同等のコストで利用できるため、経済的リスクを抑えながら水素への切り替えに着手できます。
支援期間は供給開始後15年間とされており、長期的な支援により事業の見通しが立てやすくなることで、企業による大規模な設備投資を後押しすることが期待されています。
出典・参照元:独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構「価格差に着目した支援」
水素を輸送・貯蔵するサプライチェーン構築には、多額の初期投資が必要となります。
拠点整備支援は、低炭素水素等の輸送や貯蔵に必要な設備整備に対して資金支援を行う制度です。
民間単独では投資判断が難しいこの初期投資を軽減することで、大規模インフラの整備を後押しし、供給拠点の整備を通じて、水素サプライチェーンの構築を促進します。
出典・参照元:独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構「拠点整備支援の概要」
水素社会推進法では、認定された事業計画に対して、関連法令の手続きを円滑に進めるための規制特例が設けられています。
水素の製造・輸送・貯蔵には、高圧ガス保安法をはじめ複数の法制度が関係します。従来は個別の許認可手続きが必要でしたが、同法では事業計画の認定を通じて手続きの円滑化が図られています。
これにより、事業者の行政手続き負担を軽減し、水素サプライチェーン構築のスピード向上が期待されています。
出典・参照元:経済産業省 資源エネルギー庁「水素社会推進法概要」
日本の国家戦略は、水素社会の実現に向けて技術開発から産業化へのフェーズへ移行しつつあります。では、この流れの中で企業はまず何から始めるべきなのでしょうか。
まずは特定の製造ラインや一部の設備からでもスモールスタートで変えてみることが非常に重要だと考えています。将来、本格的な水素社会が到来した時に、何もノウハウがない状態で適応するのは大変です。今のうちから少しでも水素に触れ、規制や扱いに慣れておくことは、将来のリスクヘッジになるだけでなく、先進的な取り組みを行う企業としてのブランド価値向上にもつながります。そうした新しい一歩を踏み出す企業を一社でも増やし、社会全体で水素が使われる未来を一緒に作っていければと思います。
(三井住友ファイナンス&リース株式会社 ネクストビジネス開発部 水素担当 高橋 純平)
(内容、肩書は2026年6月時点)
文・編集:株式会社メンバーズ
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