Profile
サーキュラーリンクス株式会社
代表取締役社長
田部井進一(たべい・しんいち)
サーキュラーリンクス株式会社代表取締役社長。2004年アミタ株式会社入社。関東地区の製造工場向けリサイクル営業、企業の環境戦略支援(コンサルティング)、ICTサービス「AMITA Smart Eco」の開発、川崎循環資源製造所の立ち上げなどに従事。2019年より企業のサステナブル経営を推進するソリューション提案部門のグループリーダー、2020年より営業部門所管の取締役、2023年よりアミタ株式会社 代表取締役を務める。2024年、サーキュラーリンクス株式会社を設立し代表取締役社長に就任(現:アミタ株式会社取締役)。
本記事では、サーキュラーリンクス株式会社の田部井進一氏(以下、田部井氏)による講演内容を基に、サーキュラーエコノミーの必要性を、経済的・社会的意義の両面から解説します。
本記事について
本記事は、三井住友ファイナンス&リース(SMFL)が主催した「サーキュラーエコノミーフォーラム2025」における、サーキュラーリンクス株式会社・田部井進一社長の講演内容を再構成してお届けします。
三井住友ファイナンス&リース(SMFL)は、「More Than Finance®」をコンセプトに、 金融の枠を超えたソリューションの提供を通じて、お客さまの課題解決をサポートします。本フォーラムは、「サーキュラーエコノミーの意義は分かるが部門横断やパートナー連携が難しい」といったお客さまの声を基に開催いたしました。
この記事の目次
地球資源の枯渇と資源調達リスク—問われる企業成長の質 地球が1年間に生産できる資源量を年初から数えて人類が使い尽くす日のことを「アースオーバーシュートデー」といいます。1971年から公表されており、2025年は7月24日と、年初から数えて過去最速での到来となりました※1 。さらに、世界中の人々が日本式のライフスタイルを送った場合、2026年のアースオーバーシュートデーは5月14日にまで早まると推定されています※2 。地球の生産量を上回る資源を消費し続けているため、将来的には資源の枯渇が懸念されています。
また、資源調達リスクも顕在化しています。例えば、レアメタルなどの希少金属を、輸出規制やロイヤリティの引き上げの対象にしている国も出てきています。
田部井進一さん
サーキュラーエコノミーは、資源が豊かではない国にとって、活用できる資源を確保し、産業を守るための経済的成長戦略 です。事実上の「非関税障壁」のような役割を果たしているとも言えるでしょう。世界の工業生産が2025年頃にピークアウトを迎えるとされ、人口減少、工業文明の収縮が示唆されている今、企業には単なる生産性の向上のみならず、「どのように成長すべきか」という成長の質が問われているのです。
出典・参照元:
※1 Earth Overshoot Day「Past Earth Overshoot Days 」
※2 Earth Overshoot Day「Country Overshoot Days 2026 」
カーボンニュートラル達成にも欠かせない、サーキュラーエコノミーに向けた取り組み ほかにも、サーキュラーエコノミーに取り組むべき理由の一つとして、カーボンニュートラルへの対応が挙げられます。
サプライチェーン全体を見直す機運の高まり カーボンニュートラル施策の主流となっている省エネや再生可能エネルギーへの転換のみでは、削減できる温室効果ガスは、全体のうち約半分にすぎないと言われています。残りの約半分の排出量を抑えるためには、Scope3(自社の直接・間接排出(Scope1, 2)以外の間接的な排出量)を含むサプライチェーン全体において排出量の見直しが求められます。
田部井進一さん
温室効果ガス排出量の大幅な削減を目指すためには、ビジネスモデルそのものを「循環型」へと転換するのが近道と言えるでしょう 。2015年頃に提唱されてからこれまで、日本ではあまり注目されてきませんでしたが、カーボンニュートラル達成を目指す手段として、サーキュラーエコノミーに本格的に取り組もうという機運が今高まっています。
気候変動問題を自分ごと化して捉える
世界の気象災害は、1970年から2019年までの約50年間で5倍にまで増加しています※3 。日本では、自然災害による保険金支払額が2019年度時点で1兆円を超えました※4 。
また、地球温暖化により、1983年から2009年の27年間で世界の主要穀物(トウモロコシ、米、大豆、小麦)の4分の3が干ばつ被害を受けています※5 。
住環境の観点では、海水面の上昇に伴う土地の水没により、居住不可地域が広がっています。それにより、バヌアツをはじめとする南太平洋の島国では、オーストラリアやニュージーランドなどの他国へ移住する人々が増加しているのです。
さらに、このまま気候変動が進行すれば、自然災害による経済的被害額が世界のGDPを上回るという試算も出ています。
田部井進一さん
このままでは、日々の生活もままならず、ビジネスを行う意味がなくなる日が訪れるかもしれません。ビジネス活動を通して生み出した価値が、災害によって失われる未来が迫っています。今こそ、気候変動問題を自分ごと化して捉える必要があるのです。
出典・参照元:
※3 環境省「令和7年版 環境・循環型社会・生物多様性白書 」
※4 金融庁「火災保険における保険金支払いと収支の状況等 」
※5 農研機構「干ばつによる世界の穀物生産被害をマップ化 」
国内外の政策動向。環境と経済を両立する枠組みとは 国内外で、サーキュラーエコノミーに関連する具体的な法規制の策定が進められています。
EUの政策動向:先行する枠組みと、加速する再生材の利用
2015年12月2日、EUの新しい成長戦略として、循環型経済への移行を通じて競争力強化や持続可能な成長の創出を目指す「欧州Circular Economyパッケージ」が採択されました※6 。
田部井進一さん
「欧州Circular Economyパッケージ」の登場を契機に、素材調達から廃棄まで一方通行の経済システム「リニアエコノミー(直線型経済)」から、使用後の製品を再利用・修理・リサイクルすることで廃棄物を削減する「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」への転換が進んでいきました。
そのような流れのなか、サーキュラーエコノミーの考え方として、資源を廃棄せず再び資源に戻す「ゆりかごからゆりかごへ(Cradle to Cradle)」という言葉が広がったと考えています。製品を売って終わりにするのではなく、寿命を迎えた製品が新たな製品の資源へと循環するような、製品デザインが取り入れられるようになりました。
続いて、2019年には「欧州グリーンディール」、2020年には「EUタクソノミー」という枠組みが発表されました。
欧州グリーンディール
2019年にEUの新たな成長戦略として掲げられた、2050年までにEU域内からの温室効果ガス排出量を実質ゼロとし、世界初の「気候中立大陸」を目指す計画。その目標に、サーキュラーエコノミーの実現が組み込まれた※7 。
EUタクソノミー
2020年に法令化された、投融資に適格な環境面でサステナブルな経済活動を分類するシステム。6つの環境目的の一つにサーキュラーエコノミーへの移行が組み込まれた※8 。
さらに、具体的な法規則・施策も整備され始めています。
EUのサーキュラーエコノミーに関連する法規制・施策
法規則・施策名
主な内容(田部井氏の講演に基づく要点)
持続可能製品のためのエコデザイン規則(ESPR)
2024年7月導入
EU域内における販売を、持続可能性に基づく16の指標(製品の耐久性、修理可能性など)に準じて生産された製品のみに制限する
指標には、製品の耐久性や再利用性、修理可能性といった項目があり、ほぼ全ての製品が対象※9
デジタルプロダクトパスポート(DPP)
ESPRの中で新たに要件化された施策の一つ
3つの指標(アクセシビリティ、トレーサビリティ、サステナビリティ)に基づき、製品の素材や品質などの情報を電子的に記録・管理する仕組み※9
ELV規則(使用済み自動車規制)
2023年7月発表、2025年に暫定合意
新車生産に用いられるプラスチックについて、施行から6年後に15%、10年後に25%を再生プラスチックに置き換えることが義務化。うち20%は使用済み車両から回収された材料※10
バッテリー規則
2023年8月施行
コバルトやリチウムなどの再生原料の使用を段階的に義務化※11
そのほか、包装材や繊維、建物などのさまざまな品目で再生材利用を促進する規制の導入が進んでおり、それに呼応する形で、各業界のブランドオーナーも再生材利用に取り掛かっています。
また、それらと並行し、サーキュラーエコノミーの国際標準化を目指した動きもあります。ISO(国際標準化機構)では、ISO/TC323(サーキュラーエコノミーに関する専門委員会)が設置され、複数規格がそれぞれのワーキンググループに分かれて議論されています※11 。
サーキュラーエコノミー先進国のEUを知ろう。日本企業が押さえるべき最新政策動向と規制
欧州連合(以下、EU)のサーキュラーエコノミー規制は、EU市場でのビジネス展開や、EU域内への部品・製品を輸出している企業にとって、今後の戦略に影響を及ぼす可能性があります。本記事では、EUにおける環境政策の最新動向を解説します。また、日本の企業活動に直接影響するエコデザイン規則(ESPR)やデジタル製品パスポート(DPP)といった規則を取り上げ、ポイントを分かりやすくお伝えします。
関連記事
出典・参照元:
※6 European Council of the European Union「Closing the loop: Commission adopts ambitious new Circular Economy Package to boost competitiveness, create jobs and generate sustainable growth 」
※7 European Council of the European Union「European Green Deal 」
※8 European Council of the European Union「EU taxonomy for sustainable activities 」
※9 European Council of the European Union「codesign for Sustainable Products Regulation 」
※10 European Council of the European Union「Circular economy: Council and Parliament strike deal on rules for vehicle circularity and management of end-of-life vehicles 」
※11 経済産業省「産業構造審議会 イノベーション・環境分科会 資源循環経済小委員会 取りまとめ 」
日本の政策動向:国内でも本格化する法整備
ヨーロッパの動きを受け、日本政府もサーキュラーエコノミーに向けた対応を本格化させています。2024年12月には、閣僚会議にて「循環経済への移行加速化パッケージ」についての議論が行われました※12 。
さらに、業界や製品ごとの具体的な法令や施策の策定も進んでいます。
日本のサーキュラーエコノミーに関連する法規制・施策
法規則・施策名
主な内容(田部井氏の講演に基づく要点)
日本版ELV規制
2025年3月に方針発表
自動車に使われるプラスチックの15%を2035年までに再生材に換えるという目標を設定※13
エコマーク認定「ケミカルリサイクルプロセスによる廃棄物等の化学原料化プラントおよびその化学製品Version1.0」
・2025年4月1日に策定
廃プラスチックなどの廃棄物等を化学原料化する技術(モノマー化、ガス化、油化など)を保有する工場およびその化学製品が、エコマーク商品類型として採用される※14
資源有効利用促進法の改正
2025年5月に可決・公布、2026年4月に施行
一般企業に対し再生資源の利用計画の提出・定期報告を義務化するとともに、「環境配慮設計」の認定制度が創設※15
資源有効利用促進法の改正ポイントと企業への影響
2026年4月に改正資源有効利用促進法が施行されます。特定の製品について再生資源の利用が義務付けられ、計画の提出や定期報告が求められるなど、取り扱う製品によっては大きな影響が生じる可能性があります。本記事では、資源有効利用促進法の改正について、4つのポイントを分かりやすく解説します。
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出典・参照元:
※12 首相官邸「循環経済に関する関係閣僚会議 」
※13 環境省「自動車向け再生プラスチック市場構築アクションプラン 」
※14 エコマーク事務局「ケミカルリサイクルプロセスによる廃棄物等の化学原料化プラントおよびその化学製品Version1.0 」
※15 経済産業省「第11回 産業構造審議会 イノベーション・環境分科会 資源循環経済小委員会 資料3 事務局資料 」
VUCA時代、サーキュラーエコノミーは企業の「確実性」を高める戦略に
田部井進一さん
今後何が起きるか予想がつかない、VUCAの時代。不確実な世の中だからこそ、確実性を高めようとする考え方が、サーキュラーエコノミーにつながります 。製品を利用いただいた後に、回収し、再び資源に戻す循環型ビジネスモデルへの転換を考えるタイミングに来ているのです。自社が制作した商品だからこそ、その組成や素材をよく分かっているはずです。
まずは、気候変動が引き起こす身近な問題を知り、自分ごと化することから始めましょう。それが循環型ビジネスモデルへの転換、ひいてはサーキュラーエコノミーの推進へと繋がっていきます。
後編では、サーキュラーエコノミーを実現するための5つのビジネスモデルと、それを成功に導くための5つのアプローチポイントを具体的に解説します。
実践者が語る:サーキュラーエコノミーを企業の成長戦略にするためのポイント
後編は、サーキュラーリンクス株式会社の田部井進一氏(以下、田部井氏)による講演内容に基づき、サーキュラーエコノミーを企業の成長戦略とするための考え方や実践のポイントを解説します。
後編はこちら
(内容、肩書は2026年5月時点)
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