グリーン購入ネットワーク会長
梅田靖(うめだ・やすし)

東京大学大学院工学系研究科人工物工学研究センター教授。2019年4月より現職。専門分野は設計学、ライフサイクル工学、知的生産システム工学。
photograph: Masahiro Miki
グリーン購入ネットワーク会長
東京大学大学院工学系研究科人工物工学研究センター教授。2019年4月より現職。専門分野は設計学、ライフサイクル工学、知的生産システム工学。
photograph: Masahiro Miki
持続可能な社会の実現のために「サーキュラーエコノミー(循環経済)」への転換が求められています。そもそもサーキュラーエコノミーとは何を指し、実現に向けてどのようなステップが必要なのでしょうか。また、これまで日本で推進されてきた「3R」とは何が違うのでしょうか。
本稿では、サーキュラーエコノミーの基本や、企業が循環経済を見据えた新たなビジネスモデルへと転換する上での課題や解決のヒントなどを紹介します。
サーキュラーエコノミー(循環経済)は、資源を循環させ、廃棄物や汚染を排除しつつ、ストックを有効活用しながら付加価値を生み出す経済活動で、天然資源の枯渇を防いだり環境問題を解決したりすることを目指したものです。従来の「リニアエコノミー(線型経済)」が「資源を採掘する→製造する→利用する→捨てる」という一方向の流れであったのに対し、サーキュラーエコノミーは資源を「循環させる」ことによる持続可能な社会の実現を目標としています。
梅田さんは「重視すべきは、サーキュラーエコノミーが単に『エコ』だけを主軸にした考え方ではなく、循環型のビジネスモデルへの転換によって産業競争力を得るための『経済システム』であること」と指摘します。
環境保持のためにコストをかけて資源を守るという姿勢ではなく、資源を循環させる事業形態への転換によって経済の仕組み自体を変え、環境課題に対処しながら社会的な発展を目指した形こそが、サーキュラーエコノミーだと言えるでしょう。
サーキュラーエコノミーは、2010年にイギリスで設立されたエレン・マッカーサー財団が3原則(後述)を示したことや、その後、2015年に欧州委員会がサーキュラーエコノミーの政策パッケージを打ち出したことなどを背景に、EU企業を中心に広がった考え方です。
近年、日本でもサーキュラーエコノミーが注目されてきた理由について「EUなどで資源に関する各種規制がかけられたことで、輸出事業を行う製造業を中心とした日本企業にも徐々に考え方が浸透した印象です」と梅田さんは話します。
背景には、海洋プラスチック問題や天然資源の枯渇リスク、さらにカーボンニュートラルに向けた取り組みといった、世界が直面している環境課題があります。各国がこれらのグローバルな課題に真剣に向き合わなければならないフェーズに入ったことで、今、あらためて世界中でサーキュラーエコノミーが注目されているのです。
日本では、2000年に「循環型社会形成推進基本法」が制定され、ごみを減らす「Reduce(リデュース)」、モノを繰り返し使用する「Reuse(リユース)」、モノを再生利用する「Recycle(リサイクル)」という3R活動に取り組んできました。この「3R」とサーキュラーエコノミーは廃棄物を減らすという共通点はありますが、異なる概念と言えます。
「3Rが推進された背景には、ごみ埋立地の残余年数(現存する最終処分場が満杯になるまでの残期間の推計値)への危機感があります。このまま廃棄物を排出し続けていては埋立地が不足するため、ごみを減らそうという動機です。一方のサーキュラーエコノミーは、資源の有効活用を起点にした経済成長を目指した活動であり、それぞれ立脚点に大きな違いがあります」と梅田さんは説明します。
サーキュラーエコノミーが目的とする持続可能な社会の形成において、3R活動は数ある手段の一つと捉えられるでしょう。
エレン・マッカーサー財団が提唱したサーキュラーエコノミーの3原則を多くの国や企業が参照しています。
まずは、この3原則、そしてサーキュラーエコノミーが体現する「循環」の全体像を示した図版「バタフライダイアグラム」 について詳しく紹介します。
エレン・マッカーサー財団は、サーキュラーエコノミーの3原則として、以下の考え方を提唱しています。
出典・参照元:
Ellen MacArthur Foundation(2025)「What is a circular economy?」第3節 炭素中立(ネット・ゼロ)
経済産業省「循環型の事業活動の類型について」
エレン・マッカーサー財団が提唱するサーキュラーエコノミーの概念は、「バタフライダイアグラム」という図で視覚化されています。チョウが羽を広げたような形状に見えることからこのように名付けられました。
出典:サーキュラーパートナーズ「サーキュラーエコノミーについて」
このダイアグラムは主に3つの部分で構成されています。
この図が表すのは、資源をできる限り循環させ、廃棄物を最小限に抑える経済システムの実現です。「業種・業態によってバタフライダイアグラム上で当てはまる輪の部分や循環の実現方法が異なります。そのため、自社の経済活動がどの位置にあるか、どの部分なら着手可能かをマーキングすることで、事業をデザインする足掛かりとしての活用が期待できます」と梅田さんは話します。
では、企業がサーキュラーエコノミーに取り組む際に、どのようなポイントを押さえるべきなのでしょうか。
梅田さんは「まずは企業のトップ・経営層がサーキュラーエコノミーを推進し、現場を後押ししなければなりません」と指摘します。
前述の通り、サーキュラーエコノミーは単なる環境保全活動ではなく、循環型ビジネスモデルへの転換による経済成長です。これを実現するためには、サーキュラーエコノミーに向けた施策を経営戦略会議など、企業活動の最上流で取り上げる必要があります。
事実、サーキュラーエコノミー先進地域であるEUでは、経営課題としてトップが推進しているケースがほとんどだと梅田さんは言います。
一方で、「日本企業が取り組む際は、経営戦略会議と同時進行できるタスクフォースなどを組織し、部署横断的に推進するのが良いかもしれません」と梅田さんは提言します。日本式の話し合いと協調がアイデアを生み、各部署が自分ごととして捉えやすくなる、といったメリットが考えられます。
例えば製造業であれば、原材料の調達、製品の設計、製造過程、流通計画、販売計画、それに関わるIT技術といった全てのプロセスにおいて、資源循環をどのように実現させるかをデザインすることが重要です。そして、そのビジネスモデルに価値を見出し、収益化する仕組みを構築します。
さらに、製造した製品が廃棄されるまでの工程にも責任を持ち、資源を無駄にせずに回収するにはどうすべきかを検討する必要も生じます。これは、企業内のサーキュラーエコノミー推進担当者だけに任せるのではなく、トップの後押しを受けて、全社横断的に取り組まなければならない経営課題と言えるでしょう。
多くの企業事例を研究してきた梅田さんは、「サーキュラーエコノミーへの転換は避けて通れない潮流だからこそ、他社に先駆けてプロアクティブ(先取的)に取り組む決断をすべき」と話します。
世界のどの地域で法整備がなされても、先手を打つことが競争力優位になり、経済的メリットを享受できる可能性があります。
サーキュラーエコノミーに取り組むと決めたのであれば、外部へのPR活動を積極的に行うことが重要です。サーキュラーエコノミーは、資源の循環による持続可能な社会の実現に貢献するだけでなく、PRでステークホルダーの賛同を得ることで企業価値や売り上げなどの経済的メリットも最大限に高められる、と梅田さんは指摘します。
これらを積極的に実践し、能動的に利益を回収していくことが、サーキュラーエコノミーの考え方による経済的な転換を成功させる筋道だと言えそうです。
「サーキュラーエコノミー」は、資源を使い捨てるのではなく、循環させることで資源の投入量や廃棄物の発生を抑え、製品のサービス化などを通じて付加価値を生み出す経済活動です。法規制などの外的要因のほか、自社のビジネスを循環型にシフトすることで、イノベーションの創出や顧客エンゲージメントの向上などが期待できることから、日本でもサーキュラーエコノミーに取り組む企業が増えてきました。
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企業がサーキュラーエコノミーに取り組む際の大きな課題は、サーキュラーエコノミーの考え方に即した新たなビジネスモデルを生み出し、それまで以上に収益を上げていけるかどうか、という点です。
理論上は理想的なビジネスモデルを生み出したとしても、実行してみると経済性が得られず上手くいかないケースもあるでしょう。
例えば、自社製品の回収・再生を事業化したにもかかわらず、回収した素材が想定以上に劣化していて再利用に莫大なコストがかかってしまったり、グリーンコンシューマー(環境への意識が高い消費者)へのアピールを見込んだ事業が想定していた反響を得られなかったりと、新たなビジネスモデルを収益化するのが困難なケースが考えられます。
さらにビジネスモデルの転換には、成功路線であっても一時的な業績悪化や非効率が生じるおそれもあります。
サーキュラーエコノミーに取り組む際は、国内外の先行事例や自社のリソース、ステークホルダーとの関係などを徹底的に検討し、長期的な視点を持って実現可能なビジネスモデルの構築を目指す必要があります。
現実的なビジネスモデル構築のヒントとなるのは「長寿命化」と「枯渇性資源の代替」、そしてシェアリングサービスなどに代表される「循環資源の価値創出」です。
例えば、新品ではなく部品のリユースによる長寿命化とアフターサービスによって、製品自体を長持ちさせる方向に舵を切る方法や、枯渇性資源消費ゼロを掲げて再生材やバイオマスといった循環資源を100%使用するといった方法があります。
さらに近年急速に台頭してきた車両などのシェアリングサービスは、都市部を中心に「自己保有よりもメリットが大きい」という新たな価値を生み出し、利益を創出しています。このような価値観の転換を軸に、戦略と目標を立てていくことが求められます。
サーキュラーエコノミーは資源循環や廃棄物削減など幅広い領域にわたり、一つの企業が単独で実現するのは困難なため、必然的に「協業」がキーワードとなります。
梅田さんによれば、地方自治体が旗振り役となり、地域おこしの一環としてサーキュラーエコノミーに取り組む方法もあると言います。愛知県蒲郡市では、市長が推進役となり、市内の企業や団体によるサーキュラーエコノミーなまちづくりを行っています。教育、消費、健康、食、観光、交通、ものづくりという7つを重点分野とし、市内のリソースを活用しながら社会的・経済的・環境的発展を実現させようとしているのです※。
また、画期的な技術やサービスを持つスタートアップ企業との連携、自社事業との親和性がある異業種との協業も有望な実現手段と言えるでしょう。車から衣類、傘など、スタートアップの世界ではすでにさまざまなシェアリングサービスが展開されており、これらはサーキュラーエコノミーにもつながるビジネスモデルや技術が内包されています。
また、輸送や資源回収に流通業のリソースを活用したり、リース会社と製造業がタッグを組んだり、情報インフラ企業をプラットフォームとして異業種が連携するなど、あらゆる業種・業態の企業が協業の中でポジションを見つけられる可能性があるのです。
社内外を問わない横断的な協業を模索していくことが、サーキュラーエコノミーに取り組む、日本企業の次の一手と言えるかもしれません。
※ 出典・参照元:愛知県蒲郡市ホームページ「サーキュラーシティ蒲郡 アクションプラン」
(内容、肩書は2025年5月時点)
編集:はてな編集部/文・編集協力:株式会社エクスライト
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