Profile
株式会社ねごと代表
クリエイティブディレクター
清水 佑介(しみず・ゆうすけ)
戦略の立案から、マス・コミュニケーション、アクティベーション、PRまで、マーケティング・コミュニケーション全体を統括するクリエイティブディレクターとして日本を代表する企業のマーケティング活動をサポートする傍ら、Earth hacks株式会社のCCOとして、スタートアップの事業戦略の立案やサービス開発、コミュニケーション/ブランディングを手掛ける。 サーキュラーエコノミーや脱炭素社会の実現と経済成長をテーマに全国各地で講演/勉強会も開催。
「サーキュラーエコノミー」は、資源を使い捨てるのではなく、循環させることで資源の投入量や廃棄物の発生を抑え、製品のサービス化などを通じて付加価値を生み出す経済活動です。法規制などの外的要因のほか、自社のビジネスを循環型にシフトすることで、イノベーションの創出や顧客エンゲージメントの向上などが期待できることから、日本でもサーキュラーエコノミーに取り組む企業が増えてきました。
また、企業のブランディングにおいても大きなインパクトを与える可能性があります。
サーキュラーエコノミーへの取り組みを通じて、企業はどのようにブランド価値を高めていけるのでしょうか。広告代理店出身で企業のマーケティング・コミュニケーションを支援する傍ら、さまざまな企業のサーキュラーエコノミー推進に伴走している、株式会社ねごと代表・清水佑介さんの解説を基にレポートします。
循環型ビジネスへの転換が企業のブランディングにつながる
サーキュラーエコノミーとは、資源投入量・消費量を抑えつつ、今ある資源を循環させることで付加価値を生み出す経済活動のことです。清水さんは、最大のポイントは「自社のビジネスそのものを循環型に転換する」という発想を用いて、新たなビジネスモデルを模索できることだと話します。
サーキュラーエコノミーが企業のブランディングにつながる理由などについて、清水さんは次のように説明します。
サステナビリティへの意識の高まりから、サーキュラーエコノミーに注目が集まる
サーキュラーエコノミーは「サステナビリティ」を実現するための大きな一歩となる取り組みです。
サステナビリティは持続可能性を意味し、現代の企業経営の中心的なテーマになっています。2015年に国連サミットにおいて持続可能な開発目標(SDGs)が採択されたことや、気候変動問題に関する国際的な枠組みであるパリ協定が採択されたことなどを背景に広がった考え方です。
大手企業を中心に続々とサステナビリティを意識したサーキュラーエコノミーや脱炭素などの取り組みを進めており、企業経営にとっても重要な課題になってきています。サステナビリティは一過性のブームではなく、企業の存続に関わる課題であり、中長期的に取り組むべきテーマです。
企業がサステナブルなテーマに取り組むことで得られるメリットの例としては、次の2点が清水さんの見解です。
清水 佑介さん
・人材確保の点においてプラスに作用することが期待される
・消費者の購買行動をふまえた新たなチャンスを活用できる可能性がある
昨今は若い世代において、仕事に対してもストーリーや意義を求める側面が強まってきており、就職活動の際の企業選定にも影響を与える可能性があります。
また企業や商品がサステナブルであるかどうかという視点は、昨今の消費者の購買行動にも影響を与え始めています。ただし現状は、環境配慮への意識はあっても行動に移せていない消費者が多い状況にあります。
企業側が環境に配慮したアクションを手助けする商品やサービスを提供すると、好感を抱く消費者も増えるのではないでしょうか。
ブランドイメージの強化により、投資家の関心が高まる可能性
サーキュラーエコノミーに取り組むメリットは、資源の有効活用や新しいビジネスモデルの構築といった企業経営や事業計画に関するものだけにとどまりません。顧客や株主を含めたさまざまなステークホルダーに対して、サステナブルなテーマに革新的に取り組む企業だというプロアクティブな印象を伝えるなど、ブランドイメージの強化も期待できます。
投資家は企業が描いている未来像を自分事として注視しており、今後、サーキュラーエコノミーへの注力の有無は投資家の意思決定に影響を及ぼす可能性があります。
一方で、社外のステークホルダーの中で企業から最も遠い場所にいる消費者にサステナブルなブランドイメージが浸透するまでには、まだ時間がかかるでしょう。しかし、企業と消費者のコミュニケーションへの投資などによって、社会的な認知が急速に広がる可能性もあります。
いずれにしても、国内ではまだ取り組み事例が少ないサーキュラーエコノミーを今のうちから導入し、中長期的に取り組むことは、ブランディング戦略においてもメリットが大きいといえるでしょう。
ブランディングの際には情報の伝え方を工夫する
「サーキュラーエコノミーの推進によるブランディングでは、消費者への情報の伝え方に工夫が必要」と清水さんは言います。
例えば「このTシャツは、原料としてリサイクル材を〇%使用しています」と伝えている場合、企業がリサイクル材を使用した取り組み自体は素晴らしいといえます。しかし、ブランドのさらなるイメージアップにつなげるには、自分たちが言いたいこと(ファクト)そのままではなく、情報を受け取った人にどのような印象を持ってもらいたいかを考えて、見せ方を意識した情報発信をすることが大切だと清水さんは語ります。
サーキュラーエコノミーに取り組み、企業のブランディングを成功させるポイント
日本でサーキュラーエコノミーの取り組みを生かしたブランディングを推し進める上で、押さえておくべきポイントとして清水さんは次の3点を挙げています。
消費者の購買意欲を意識した商品を作る
日本は、社会に良い行動をすることへの賛同意識が非常に高いのですが、購買を含めた何らかのアクションにはつながりにくい傾向があります。そこで、まず「カッコいい」「おいしい」「楽しい」といった、消費の基本的な欲求欲望を意識して商品を作る必要があります。
その上で、サステナブルな要素をあくまで付加価値として打ち出した方が消費者の行動を促せるケースがあります。
日本人になじみやすい手法を採用する
欧米の人々がサステナブルなアクションを起こす動機には「そうするのが当たり前だから」「クールだから」といった内発的なものが多い傾向にあるのに対し、日本人は「そうした方が得だから」「楽だから」といった実益を重視する傾向にあります。
そのため、もしブランドイメージを強化するだけでなく、ビジネスのスケールにつなげたい場合は、「服を回収する」「古着を買う」「初期コストはかかっても良いものを長く使う」といった日本人の文化的な素養に合致していて、実益を感じやすい手法を取るのが良いでしょう。サーキュラーエコノミーの文脈でしっかりとストーリーテリングを実施することで、消費者に受け入れられやすくなるはずです。
自社の事業への関連性を示す
ブランディングの世界において「relevancy」と呼ばれる考え方があります。これは、なぜその企業がその事業を行うのかという必然性を示すことで、ブランド力が高まるというものです。
これをサーキュラーエコノミーの取り組みで考えると、新たに導入する循環型ビジネスモデルが、自社の事業への関連性が高いものであることが望ましいといえます。例えば食品会社が廃棄食品削減のため、回収した食品を飼料として再利用したり、肥料などにリサイクルしたりする取り組みなどが考えられます。
サーキュラーエコノミーをブランディングに生かすために対策すべきこと
サーキュラーエコノミーの取り組みをブランディングに生かす上で課題となりやすい点とその対策について、清水さんは次のように話します。
一点目は、社内での意思統一です。サーキュラーエコノミーには調達・製造・販売など社内の全部署が関わるため、縦割りで取り組んでいると意思統一が難しい面もあります。当初はけん引力のあるトップダウン型や、各部署の優秀なメンバーをアサインした横断型のタスクフォースを組むなどして、サーキュラーエコノミーがブランディングにもたらす影響などのメリットを共有しながら、全社が一丸となって取り組める体制を作ることが大切です。
社内でなかなか理解を得られない場合は、マテリアルフローと呼ばれる自社の生産・流通フローを一度可視化した上で、ファクトベースで課題を共有するのがおすすめだと清水さんは説明します。
二点目は「グリーンウォッシュ」への対策です。グリーンウォッシュとは、環境に配慮していると謳っているものの、実際には実現に至っていないとして批判されることを指します。グリーンウォッシュによるブランドイメージ低下の懸念がある場合は、プロジェクトに第三者機関を入れて、実施した環境への取り組みが適切なものかどうかのアセスメントを受ける方法もあります。
万全の対策を打った上で、外部に対して積極的に発信していきましょう。
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